第二話 魔装具との出会い
成人の日は無事に終了。
ライザットはルナティアを鑑定した事に対する評価をゼルスとセシリアに伝えていた。
「ルナティアの能力だが、15歳にしては全体的に非常に高い。
特に魔力は凄まじい数値だ。
嘸かし授かった魔臓器が良いのであろう。
それに伴って魔力変換率も驚くほどの速さだ。
これ程の数値は見たことが無い。
魔力と魔力変換は使う事や経験で成長出来るから将来が楽しみだな。
まあ、一般な筋力や気力、防御は年齢にすると平均的な女の子だな。
気力は低いからな〜もう少し鍛えたほうが良いな。
魔法防御、知能、魅力、素早さ、運などは比較的年齢の割には少し高めだな。
スキルも速詠唱、魔力強化、祈り、風属性強化、自然回復、治癒魔法強化と魔導士には必要なスキルを得ている。
もう少しレベルアップしておく必要はありそうだがな。
使用可能高位魔法が光属性なのは良い事だ。
風属性とは相性がいい。
全体的には平均以上だな。
天真爛漫スキルは神からの贈り物。
このスキルだけでも相当凄いがな。」
「魔臓器は遺伝に左右され易い。
公爵家は代々立派な魔臓器持ちが多いぞ。
ルナティアはその最たる者かも知れんな。」
魔臓器の話でライザットとゼルスは盛り上がっている。
そもそも魔臓器とは、人間族が魔法を使う為の臓器で心臓の直ぐ下にある第二の心臓と呼ばれる臓器だ。
魔臓器では、空気中の魔素を取り込んで魔力に変換している。
魔臓器から魔血管が全身に張り巡らされていて、魔力を身体中循環させている。
魔力とは魔臓器が蓄積できる魔素量を表し、数値が高いほど魔法力が強くなる。
一般的には魔臓器を持っていないと魔法は使えない。
だが、近年魔臓器を模した魔道具も作られている為、広く魔法が使える人が増えていた。
「ライザット叔父様。
成人儀式ありがとう〜。
これで私も大人よね?」
「そうだな。
大人になるからには立ち振る舞いや言葉遣いも学ぶんだぞ。」
「え〜。
これが私の個性なのに。」
儀式を終えてルナティアは自分の部屋に戻ってきた。
制服から普段着に着替えて、母と一緒に学校生活に必要な物を準備する予定だ。
準備品の中でも最も大事な物は魔装具だ。
部屋を飛び出して一階に降りるとゼルス、セシリア、ライザットが居るリビングに飛び込んだ。
「魔装具なんだけど。」
「ルナティア!
またお前はノックもせずに。」
「あ!
ごめんなさい。
でも、魔装具は良いものが欲しいなぁ〜と
思ったから。」
魔装具とは魔導士の必須アイテム。
一つは見た目の良さ。
一つは魔力を伝達する杖。
一つはローブや小手など装飾品。
「魔装具は高価な物が良いとは限らんぞ。
自分に合った物を探すと良い。」
シルブラット公爵領はラスタナル王国の東方ジシルカル地方の農業も商業も比較的発展している地域にある。
公爵領の領都ジルンバは30万人の人口を有する大都市である。
高校のある王都エスティガルファルトまでは車で3時間ほどの距離になる。
しかし、実際は王都にシルブラット公爵家の屋敷があるので、そこから学校には通う事になる。
しかし、ゼルスは自宅から通う事とルナティアには釘を刺している。
屋敷間には転送陣があるため、一瞬で移動は出来る。
ゼルスがジルンバから通うように言うのも、家族は一緒に過ごす事が大事だと思うからだ。
それに関してはルナティアも共感したので、反発する事はなかった。
そして、ジルンバの街にルナティアとセシリア、マティアの3人で買い物に出かけた。
ゼルスもセシリアもルナティアに自分の物は自分で買い揃えるように言い聞かせていた。
貴族によっては、使用人に準備させる場合もあるようだが、シルブラット家では自分の事は自分ですると言う家訓があるのだ。
その為、使用人の数も必要最低限の人数しか雇っていない。
「先ずは魔装具よね。」
「ルナティア。
私とマティアは食料品とかいろいろ見てくるからローブや杖と、必要な物はちゃんと決めてくるのよ。」
「わかったわ。
任せて!」
「じゃあ、買い物終わったら思念通話飛ばしてね。」
マティアを引き連れてセシリアは買い物に向かうと、ルナティアも事前に聞いていた魔装具の店に向かった。
「お嬢様。
成人おめでとうございます。」
街でルナティアは有名人だ。
先日成人の日を迎えた事は領民であれば誰でも知っている。
何人も何人も歩いていると、領民に声を掛けられる。
「ありがとう。
おばさん、この店知ってる?」
声をかけられる人に店の場所を聞きつつ何とかたどり着いた。
店の看板には《ラディー魔装具店》と書かれている。
ラディーはライザット曰く、凄腕の職人らしい。
木の扉を手で押しながらルナティアは中に入っていく。
店内は壁や棚にいろいろな魔装具が並んでいる。
「いらっしゃい。」
店のカウンターに歳の頃は30代半ばの男性がルナティアに気が付いて声をかけてきた。
「あのう〜。
魔装具を見に来たんですけど。」
「ん?
公爵家のお嬢さんか?」
店主らしい男性はカウンターで椅子に座っているのか上半身だけ見えている。
「はい。
ルナティアと申します。
それで私に合う魔装具ってどう選べば良いんでしょうか?」
「そうだな。
魔導士志望か〜」
店主はルナティアを見ている。
眼球が赤くなっているのは、何らかの鑑定眼を使っているようだ。
「はい。
よく分かりますね?」
「そりゃ、この仕事はお客の事が分からないと話にならんからな。
適当なのを見繕ってやるから選びな。」
店主は棚や壁にかけられている物、店の奥から何店かの魔装具を出して来た。
それを店のカウンターに並べて、ルナティアに見せてくれた。
「うわぁ〜。
とても素敵です。」
「護法のローブ、サウザントの腕輪、銀光の杖、この辺りがオススメだな。」
どの装備も良い仕立てをされているのだろう、洗練されたデザインで立派なものだ。
だが、ルナティアは店のカウンター奥に雑に置かれている杖が気になった。
その杖は白い金属で作られているような質感でエメラルド色の大きな魔石が杖の先端に埋め込まれている。
「あのう〜。
その杖を見せて貰えませんか?」
カウンターから覗き込んで杖を指さした。
「ん?
あ〜、これか?
辞めとけ。
これは失敗作だ。
お前さんが扱える代物じゃねぇよ。」
「え?
そうなんですか?
光ってるし、私その杖がすごく気になります。」
「気になる?
こいつは、この俺名工ラディーが唯一失敗した愚作だぞ。
こんな桁外れの代物、誰も使えねぇ。
誰も使え無い物はそれ自体に価値がない。
それに桁外れ過ぎて壊す事も出来ないと来てる。
だから、放置してるんだ。」
店主ラディーはルナティアが指し示した杖を右手で掴むとカウンターの上に叩きつけた。
「ラディーさん。
この杖泣いてます。」
「はぁ?
杖が泣いてるだと?
そんな訳あるか!
誰にも相手されなくて泣いてるのか?」
ラディーがルナティアを見るとルナティアは満面の笑みで杖を見ていた。
「違います。
私に会えて嬉しいと泣いてます。」
「な!
それはどう言う…
あ〜
良いぜ。
売ってやるよ。」
満面の笑みをルナティアはラディーに向けている。
子供が欲しい物を目の前にした時の笑顔だ。
「やった〜!」
その杖をルナティアは手にするとクルクル回したら眺めたりし始めた。
「そいつは白耀樹の杖ってんだ。
金属に見えるかも知れねぇが、歴とした木製品。
貴重な白耀樹から作られた一級品だが、余りにも杖としての性能、つまり魔力変換値が速過ぎてまともに扱える魔法使いが存在しない。
杖ってのは人の魔力変換を助ける筈が、処理能力が高すぎて魔力変換がまともに出来ない。
最低でも魔力変換率が8000マルス/秒くらいないと扱えないだろうな。
だが、そんな人間見た事もないし、あり得ないだろう。
最高位の天聖魔導士クラスでも5000マルス/秒出すのがやっとだぞ。
だから、打撃に使うしか使い道は無いぞ。」
「うん。
本当に良い品ですね。」
ルナティアはと言えば、その杖を早速リング化して左手の中指に装備していた。
杖は血の契約で指にリングとして具現化出来る。
その様子を見て、ラディーがカウンターで腰を抜かしたのは言うまでも無い。