第一話 成人の日
ガイアフロンティア大陸には西の大国ラスタナル王国と東のナザニア帝国が国土を二分して長きに渡り対立していた。
この世界はナーガディアと呼ばれる魔法世界。
火、水、風、土の四大精霊と光、闇の高位精霊の加護により魔法を具現化できる。
全て人が魔法を使えるわけでは無く。
それぞれ四大精霊の加護を受け継ぐ一族だけが魔法を使う事を世界から許されていた。
この物語は、そんな精霊に愛されて産まれた1人の少女ルナティアの物語である。
ラスタナル王国シルブラット公爵家は風の精霊シルフィードの加護を受け継ぐ貴族で代々王国宮廷魔導士を務める名家だ。
この日は王宮より天聖魔導士であるライザット・イルフレッツ伯爵が訪れていた。
その目的は、シルブラット公爵家の末娘ルナティア・シルブラットが15歳の成人の日を迎えたからである。
ライザットはルナティアの名付け親でもある。
貴族は生まれた時、天聖魔導士から神の啓示により名を授かる。
「ルナティアも成人の日を迎えるとは、早いものだな。」
公明な魔導士にして最高位の天聖魔導士にまで上り詰めたライザットはゼルス・シルブラット公爵とは旧中の仲である。
同じ宮廷魔導士としても仕事をしていたこともあり、公爵家に来ては酒を酌み交わしている。
「成人とは言えど、未だに冒険者の真似事や危険な場所に赴いたり、これを機に落ち着いてもらえると助かるのだがな。」
趣のある部屋は来客用のリビングルームで、高価な家具や装飾が目を見張る。
「マティア。
ルナティアにすぐに来るように伝えてくれないか?」
公爵家のメイドでルナティアの世話係として働いているのが、マティア・ルーシェンである。
彼女はルーシェン商会の娘でありながら、公爵家に住み込みで働いている。
裕福な家庭に育ったが、成人して直ぐにルナティアと出会った。
彼女曰く、ルナティアにメイドとして働かないかと誘われたらしい。
「わかりました。」
マティアは軽く会釈をすると部屋を出て行った。
ルナティアの部屋は2階の一番東奥にある。
「ルナティアお嬢様。
旦那様がお呼びですよ。」
ドアをノックして、部屋の中に呼びかけた。
「はぁ〜い。」
元気な声がドアの向こうから聞こえて来る。
ドアを開けてマティアはルナティアの部屋に入った。
中ではルナティアが嬉しそうな顔で立っていた。
「そうよね。
ライザット叔父様がいらっしゃってるもの。
マティアどう?
似合う?」
「そうですね。
似合ってますよ」
「もう!
何よ
反応薄いわね。
ライザット叔父様にも見せてあげないとダメでしょ。
来週から通う、アスタミラ魔導高等学校の制服を!」
来週からルナティアは国立アスタミラ魔導高等学校に通う事が決まった。
厳正な試験を全てトップで合格しての入学に父と母は誇らしいと褒めたのは言うまでも無い。
「ああ、そうでしたね。
とても可愛いですよ。」
「もう!
良いわ。
叔父様に見せて沢山褒めてもらうから。」
ルナティアは制服のスカートをヒラヒラさせながら、マティアに可愛いでしょうと言わんばかりに自慢をしているように見える。
だが、マティアはそれ程関心を示していない。
公爵家には長男ラインハルト、次男カインデュラン、長女ミラルダ、次女フィリア、そして三女ルナティアと5人兄弟であり、何も美男美女で国でも話題になる程だ。
その中でも、ルナティアは可愛い容姿とシルブラット公爵家の特徴である蒼白で美しい長い髪、細身のスタイルが貴族の間でも話題のネタの一つとなっている。
「ライザット叔父様〜!」
廊下を走ってきたかと思うとリビングの扉をノックもせずに勢いよく開けるとルナティアが飛び込んできた。
「ルナティア!
何と言う下品な現れようだ!
もう少し気品を身につけなさい。」
「え〜。
だって
ライザット叔父様にいち早く制服を見せたかったんですもの。」
それでも少し恥ずかしいと思ったのか、頬が赤らんでいる。
「ルナティア。
とても可愛いではないか。」
「でしょ!
真っ先に叔父様に見せたくて、お父様にも見せてなかったの。」
制服は黒色をベースでセーラー服タイプになっている。
襟には赤と金のラインが入っているデザインで、胸には校章があしらわれている。
スカートは膝上10センチ程のミニスカートになっていて、裾に赤と金のラインが施されている。
黒のハイソックスにも赤と金のラインと校章が入っていて、ルナティアもとても可愛いと気に入っている。
「父よりも先とは名誉な事だな。
しかし、ルナティアよ。
父も母も其方を誇らしく思っておるのであるから、私では無く真っ先に両親に見せるのが筋では無いか?」
「それはそうだけど。
お父様もお母様もいつでも見ていただけるでしょ。
でも叔父様はお忙しいし、滅多にお目にかかれないから。」
「そうか。
ならば、喜んでその名誉を賜るかな。」
恥ずかしそうにルナティアは回転して見せたりして嬉しそうに笑っている。
「ルナティア。
もう良いであろう。
成人の日なのだぞ。
少しは落ち着くのだ。」
父に嗜められて、ルナティアとライザットは公爵家の敷地内にある聖堂に向かった。
貴族の家には聖堂と呼ばれる施設が必ず設けられている。
主には信仰する神への礼拝を行う場所で、シルブラット家は天空神ホーラスを信仰する一族である。
成人の日に天聖魔導士であるライザットが神が名を授けた子が成人した事を報告する。
それにより神より啓示があるか、もしくはギフトが授けられる事もある。
聖堂に2人が入ると入り口の扉は閉められる。
この儀式は両親も同席する事を許されていない。
名付けの天聖魔導士とその子のみである。
厳かな空気の中、ライザットは神に祈りを捧げた。
ルナティアもその後ろで両足で跪き、両手を重ねて祈りを捧げた。
天井にはガラス細工の丸い光が入る窓がある。
そこから一筋の光がルナティアを包むと、身体が金色に光り始めた。
神からの啓示とギフトが贈られたようだ。
そして、聖堂の扉が開くと外ではゼルスとその妻であるセシリアが心配そうに待っていた。
実は神からの啓示とギフトには良いことばかりでは無い。
その者の行いが成人に至るまでに悪行を重ねていたり、信仰心を持たない者には罰を与えられるケースもあるからだ。
「ど、どうであった?」
一番心配しているのはゼルスの方だ。
「安心しろ。
金色に輝いたぞ。」
その瞬間母であるセシリアはその場に崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
「ええ。
安心したら気が抜けてしまって…。
本当に良かった。」
セシリアの目からは涙が流れていた。
と言うのも、貴族の中には成人の日に神からの啓示で余命数ヶ月を告げられたものもいる。
それ故に親はこの日を迎える度に生きた心地がしない。
「それで、神からの啓示とギフトは?」
「まあ待て。
焦るで無い。
今鑑定する故待て。」
天聖魔導士には神からの啓示とギフトを鑑定する能力が与えられる。
ライザットはルナティアを目の前に立たせると鑑定を始めた。
「叔父様。
どんな啓示であっても、ホーラス神の意向ならば私は甘んじて受けます。
心置き無く仰ってください。」
特にルナティアは信仰心が強い子である。
聖堂には物心つく頃から今日まで毎日礼拝を欠かした事はない。
ルナティアは聖堂の空気感が好きだと言うこともあるが、祈りを捧げている時が一番落ち着くらしい。
「わかった。
では、鑑定するぞ。」
ゼルスとセシリアは息を呑んでその様子を伺っている。
その緊張が周りにも伝わる程で、ルナティアは背後に祈る思いを感じていた。
鑑定すると。
ルナティア
15歳
人間族 女
ステータス 健康状態
魔力 1500万マルス
筋力 50
防御 75
魔法防御 120
知能 250
魅力 300
素早さ 150
運 100(神の加護により+120)
魔力変換率 13000マルス/秒
気力 30
スキル
速詠唱 レベル5
魔力強化 レベル3
祈り レベル5
風属性強化 レベル5
自然回復 レベル5
治癒魔法強化 レベル3
使用可能通常魔法
風属性
使用可能高位魔法
光属性
ギフト
天真爛漫
啓示
心愛の定め
「と言う感じだな。
魔力1500万マルスとは桁外れに高いな。
魔力変換率も高い。
数値だけなら既存の天聖魔導士をも凌駕する能力だ。
高位魔法を使えるとはな。
それも光属性とは。
あと、ギフトは天真爛漫というスキル。
これは、かなり珍しいスキルだな。
状態異常、魔法妨害、精神異常、ステータス異常など、妨害や洗脳などの呪縛系も無効化する。
それと自分に対する謀略、虚偽など何らかの意図のある危険を察知できる。
素晴らしいスキルだ。
啓示は心愛の定め。
これは、人を愛して愛されることで、幸せになることが約束される啓示。
神への信仰を忘れず、人を敬い愛しなさいという神からの有り難い言葉だ。」
ゼルスとセシリアはルナティアを抱きしめた。
そして、ルナティアの成人の日は無事に終えることが出来た。