二話
王女殿下、もといリゼ様。
類いまれなる『魅了魔法』の才に恵まれ、そして普通を奪われた可哀想な少女。
王様から聞いた話を纏めるならばこんなところだろうか。
この国は、ひいてはこの世界は実力が全てだ。
その実力の分かりやすい指標として魔力がある。元来、この魔力って奴は遺伝によって大体の生まれ持つ量が決まる。王族は総じて冗談みたいな魔力量で、平民やら貧民やらとなると総じて残念な魔力量。例に漏れずリゼ様も凄まじい量の魔力を体内に秘めている。ちなみに俺は貧民から生まれたにしても酷すぎるレベルなのである意味例外。パパン、ママン、できの悪い息子でごめんね?
と、少し話は逸れたが、要するにリゼ様マジ王族って話だ。ここまではいい。王族が王族らしく変態スペックをしているというだけのありふれた話。
問題はここから。
魔力には色んな使い道があって、だからこそこの実力主義の世界で重宝される要素なわけだがその使い道の一つに魔法がある。
この魔法も色々と種類別に分けられるけど、ここで重要なのは精神干渉系統の魔法は恐ろしく強いということとリゼ様が制御しきれていない才能もその精神干渉系統の魔法だってことだ。
精神干渉系統ってのは読んで字の如く、対象の魔力を介して対象の精神に働きかける魔法のことをさす。例えば幻覚を見せたり洗脳したり頭をパーにして狂わせたり。肉体的な危害こそ加えないが、そんなものよりよほど恐ろしい魔法である。
そんなおっかない精神干渉系統の魔法の才能に満ち溢れている癖にそれを制御できないままに撒き散らす困ったさんがリゼ様。
王様曰く、以前に「呼吸を忘れるほどに美しい」リゼ様を見てしまい死んでしまった憐れな貴族がいたらしい。それ以来、同じことが起きないように軟禁状態だとか。
しかし、そんな彼女もエグい魔法を使えることを除けば一人の子供。彼女の『魅了』をレジストできる王様以外とは誰にも会えない生活に孤独を覚え寂しがっていたらしい。
そこで王様は愛する娘のために考えた。王として片時も離れずに娘の側にいることはできない。リゼ様の『魅了』をレジストできるほどの実力者はまずいない。それでも誰か彼女の側に居られる者はいないか。
で、拉致られたのが俺ってわけ。
魔力に干渉するのが精神干渉系統の魔法の特徴。そもそも魔力をまるで持たない憐れな俺にそれは通じない。
いやぁ、人生何があるか分かんないもんだね。村の人達に色んな意味で奉仕させられながら一生を終えていくものとばかり思っていたのに。
さて、ではそんなこんなで色々と変わってしまった俺の人生、新しいご主人様は俺に一体何をさせるのか。
「ふふっ。また私の勝ちね?」
「わー、リゼ様お強いですねー」
「ふふん。そうでしょ?」
神経衰弱である。
トランプのやつ。カードをめくって同じ数字だったら手にいれて、そうでなかったら元に戻してを繰り返して最終的に手持ちのカードが多い方が勝ちのあの遊び。
なぜ?知るかそんなもん。まぁでもしんどい雑用やら舐めたくもないもの舐めさせられるのに比べりゃよっぽど楽なんだからなんだっていい。
しかし、あれだ。さっきから俺の手番が一回も回ってこないまま既に三十連敗してるんだけどこれってリゼ様楽しいのかしらん?とりあえず褒めとくと凄いだらしない顔で嬉しそうに笑うから褒めとくけどさ。
「ところでリゼ様」
「なぁに? アル」
「そろそろ寝る時間では?」
「……そんなことないわ」
あるよ?超あるよ?君のお父様にちゃんと寝かせろって命令されてるよ?
すっと目を逸らし、何事もなかったかのようにまたトランプを並べ始めるリゼ様。はてさて、どう寝かしつけたものだろうか。
というか、よくもまぁ飽きないものだ。食事や入浴の時間はさすがにやってないけど、それでもかれこれ五、六時間は延々とトランプで遊んでいる気がする。それも神経衰弱一択。普通なら飽きるとか通り越して拷問ものでしょこんなの。
いや、まぁそれはいい。それより今はどうやってリゼ様を寝る気にさせるか考えないと。
無理に寝ろと言ったところでどうにもならないだろう。なんなら俺が永眠させられるまである。
本人の意思で寝る気になってもらわないと。
「ではリゼ様、こうしましょう。俺が勝ったら寝てください」
言いながらカードを一枚めくる。
一瞬きょとんと驚いたような表情を浮かべ、それからリゼ様は挑戦的な笑みを浮かべた。
「いいよ。アルは勝てないから」
言ってくれる。
ま、これまで一度たりとも手番を俺に回すことなく三十連勝してるんだからそりゃ自信もつくってものだ。
けど残念。タネはとっくにわれている。随分と使い込んだトランプだ。あちこちに傷がついていて、これじゃあ裏を向けたところで覚えてさえいればノーミスで全部カードを回収するのはそこまで難しいことでもない。
加えて俺はもう三十連敗もしている。カードを見る時間は十分あった。
「リゼ様。実は俺、結構記憶力には自信があるんですよ」
このあとリゼ様大泣きして死を覚悟した。