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童話系

何を探せば

作者: 北田 龍一


 ワタシには分からないのです。

 思えばワタシは、何も探した事がありませんでした。考えた事さえ、さほどなかったように思います。

 何故ならワタシには、何かを探す事は許されませんでした。ワタシには『自由』はありませんでした。

 ワタシは『良い子』である事に、囚われていたと思います。

『それの何が悪いのか』と、みなさんは感じたと思います。けれど大人になるまで……いいえ、大人になった後も、それが悪い事に気が付きませんでした。悟ったところで遅すぎたからでしょう。

 ワタシは泣かない子供でした。ワタシが泣くと、お母さんがとても困るのです。

 ワタシはマジメな子供でした。ワタシが遊んでばかりだと、お父さんがとても怒るのです。

 ワタシはわがままを言わない子供でした。ワタシが喚くと、お母さんがとても悲しい顔をするのです。

 ワタシは頑張る子供でした。ワタシが休んでいると、お父さんはとても冷たい目をするのです。

 だからワタシは、お父さんとお母さんに従います。そうして私を抑えこむと、お父さんとお母さんは「良い子だね」と褒めてくれるのです。「手間のかからない、良い子だね」と、その時だけ褒めてくれるのです。

 だからワタシは必死になります。必死に私を抑えこみます。

 お菓子が欲しくても、わがままを言いません。

 遊んでほしくても、何も言いません。

 傷ついて苦しんでも、心配させないよう我慢します。

 たくさん勉強して、未来に備えます。

 きっと未来になれば、楽しい事が待っていて報われる。今苦しいのは未来のためだから。

 きっとお父さんとお母さんがそういうのなら、そうなのでしょう。だからワタシは我慢し続けました。

 そして大きくなったある日、お父さんは言いました。


「お前のやりたいことをやれ。好きな事を目指せ」


 ワタシは……何を言われたのか、よくわかりませんでした。

 だってワタシは、ずっと我慢して生きて来たのです。いろんなことを、私の事を我慢して生きて来たのです。

 わかりません。わかりません。夢が何なのか分かりません。

 わかりません。わかりません。怒るお父さんがわかりません。

 わかりません。わかりません。悲しむお母さんがわかりません。

 わかりません。わかりません。ワタシは私がわかりません。

 わかりません。わかりません。何をしたいのかわかりません。

 ワタシはずっと、私の事を抑えて生きてきました。

 だからわからないんです。探し物の探し方が。

 だからわからないんです。何を探せばいいのかが。

 だからワタシは、私を探そうとしました。私は色んな事をやりたがっていたはずです。きっと私なら、夢も希望もすぐに見つけてくれるでしょう。長い時間がかかりましたが、私はやっと見つかりました。

 私は死んでいました。暗い所で横たわって、まっ黒なお化けになっていました。

 私は恐ろしい声で言いました。


「よくも私を殺したな」


 わがままも、遊びたいことも、大声で笑ったり、泣いたりすることも、苦しいことも、相談したいことも、全部全部全部全部、私はやりたかったことなのです。

 ワタシはずっと、私を抑えて生きてきました。だから私は、ワタシをすごく怨んでいます。

 ワタシだけじゃありません。ワタシの近くにいる人たちを、みんなみんな憎んでいます。

 お父さんも、お母さんも、先生も、友達も、偉い人も、目に移るすべての人が、憎くて憎くて仕方ない。それが私の望みでした。

 ワタシはまた、私を抑えこみました。ワタシはそれだけは得意でした。

 けれどワタシの前に広がる未来に、ワタシはなんの魅力も感じません。何かを感じると、私が胸の中で暴れて、何もかも壊そうとするのです。

 きっとワタシも、お化けなんだと思います。何も考えない。何も感じない。ふわふわと漂う、透明な幽霊なんだと思います。ただ身体があるだけの、いてもいなくても同じな、幽霊なんだと思います。

 けれどワタシは一つだけ、私の望みを叶えてあげる事にしました。何も探せない私達、ずっと対立する私達ですが、このことだけは同じ思いになりました。

 これを読んだ小さなあなたへ。やりたいことを抑え続けないで下さい。自分を我慢し続けないで下さい。

 我慢すれば大人たちは、「良い子だね」と褒めるでしょう。

 けれどこの言葉は呪いです。私達はそれで、幽霊になってしまいました。お化けになってしまいました。何も探せない漂うワタシと、そんなワタシとみんなに殺された、怨みつらみの私しか残らないんです。

 これを読んだ大きなあなたへ。子供が、子供らしいわがままを言うことを、どうか許してあげて下さい。

 もしあなたのそばに「大人に迷惑をかけない、ききわけのいい良い子」がいるなら……叱って素直に従う時、良い子だねと褒める時……その子の目をよく見て下さい。悲しい目をしていませんか? 辛そうな目をしていませんか?

 彼らをそのままにしていれば、私達のようになるでしょう。

 探し物を探すワタシと、探し物を探させてもらえない私に。

 ワタシは抑える事しかできません。

 私は恨みを叫ぶ事しかできません。

 だけど、どうか。

 これ以上私達のような人間を、どうか増やさないで下さい。

 何も探せない私たちの、それだけがせめてもの望みです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私とワタシ、漢字とカタカナの違いがすっごく大きな違いなんですね。 自分らしくを抑圧されると……悲しいです。
2023/04/25 20:47 退会済み
管理
[一言] 周囲の敷いたレールに沿うことばかりに尽力してきた人は、続きのレールの行き先は自分で決めなさいと言われてもしんどそうですね。 うちは勉強しろとも言われない家庭だったので、そこのところ気楽で良か…
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