第13話
もう一柱の女神さまが登場します。
「・・・またここへ来ちゃったんだ。勘弁してほしいなぁ」
眼を開けると、そこはなじみのある場所だった。体に覚えた転移の衝撃も浮遊感も覚えがある。
周りを見ていると、目の前にヒトガタが現れる。それは次第に輪郭を鮮明にしていき・・・女性の姿となった。でも、前回の女神と違う。
光が凝縮するのは同じだが、髪の色は黒髪、それも高く結い上げてかんざしが何本もその髪を彩り。その瞳は黒にも思える紺碧の色。身にまとう衣装も異国風だ。
紅く引かれた唇が少し吊り上がり、そして。
「初めまして、冒険者のリアさん?」
紡がれた声は鈴を転がすような軽やかな、涼し気な響きを伴っていた。
「あ、あの、女神様、ですよね」
こちらの問いかけに首肯すると、
「ええ。わたくしはカグヤ。あなたから見れば異世界の、ですわ」
たおやか、という言葉を体現したような完成された美を持つ女神カグヤが、そこに居た。
「今回はわたくしの世界の者が大変なことを引き起こしました。一言申し上げたくてお呼びしたんですの」
そして、スッと頭を下げる。
「あなたの生を捻じ曲げてしまいましたわ。女神として謝罪いたします」
「え、あの、やめてください。そんな・・・」
「4度までも死の苦しみを味わい、さらに貴族の身分を捨てさせるのはあまりにもひどすぎます。わたくしの力の与え方が誤っていたことは確かなのですから」
「・・・ええ。4回のループはとても辛かったです。どうしていいかわからなかったくらいに」
「ずっと見ていましたから・・・だから、5回目の時、あなたの中にゲームの知識を送り込んだのです。少しでも回避できることを願って」
「あれは女神さまのお力だったんですね。おかげで生きのびることができました。ありがとうございます!」
どうしてゲームのストーリーが湧いてきたのかずっと不思議だった。でもこれですっきりした。そのことに感謝すると、女神は情けない顔で、
「お礼を言われるといたたまれませんわね。あなたにつらい選択を強いたというのに・・・」
「いいえ、女神さま。あのおかげでアタシは今の自分になれたんです。本当に感謝してるんです」
「そう、ですの。あなたにそう言っていただけると救われますわ」
女神はほほ笑み、懐から小さな炎を宿す石を取り出す。
「この魂はわたくしの世界に連れ戻し、少々教育しなおしましょう。おいたが過ぎたようですから」
悪いことをしたらお仕置きしませんと、ね。にっこり笑った女神さまの後ろに何やら雷雲があったように見えたのは、アタシの気のせいだと思いたい。
「それはそれとして、あなたに謝罪として加護を与えましょう。何か希望はありますか?」
「え!そ、そんなたいそうなこと、必要ありません」
「そうですか?あなたはわたくしの世界の者のために、度を越した苦痛を与えられたのです。許されたとは言え、このままではあまりにも申し訳ないのですが」
「加護がいただけるのはありがたいことだとわかっています。けど、過ぎた力は、時に毒となります。エリナのようになりたくないんです」
「では、あなたの地位を貴族の身分に戻しましょうか。少しならわたくしでも力が揮えますのよ?」
「それもいいです。過去は変えられないし・・・もう戻る気はありません。アタシは今のアタシが好きなんです。このまま生きていくことを望んでいます」
「本当に、今の生を楽しんでいるのですね。わかりましたわ。わたくしが介入することもやめましょう」
女神カグヤは美しい笑みを見せ、アタシの前に立つ。え?
「でもこれだけは。あなたの進む道に幸いあれ、と祝福いたしましょう」
言葉とともに、額に軽い接触が。祝福の口づけを受けたことに気づき呆然としている間に、辺りが薄らいでいく。
「さようなら、リア。あなたに良き人生を」
女神の寿ぎを受けながら、アタシの意識は現実へと還っていった。
この女神さまのモデルは「嫦娥」と「かぐやひめ」を元にしてます。どちらも大好きな「月の住人」なので。ただし、怒ると怖いっす・・・




