第10話
お貴族様の生態です。あまり見たいものではありませんが・・・
「シエラ!」
「ん!」
正面にある机を飛び越え、椅子の後ろにうずくまっている人影を確認する。机と椅子と書棚の隙間に身体をねじ込み、頭を抱えて座り込んでいるのは、中年の男性だった。
「あんた、大丈夫か?」
「うわあぁぁっっ、やめろやめろやめろおぉぉっっ!!」
引っ張り出そうとしたシエラの手を振り払い泣きわめく男に、
「シエラ、その状態では無理よ。こうしなくっちゃ」
そう言いざま、拳固で殴り飛ばす。当然拳を強化済みで。
「はあ、相変わらず短気なことだ」
「失礼な。効率重視と言ってよ」
二人のやり取りを聞きつつ、衝撃で吹っ飛んだ男性を助け起こす。
「男爵様ですね。気が付きました?」
「ううっ・・・そ、そうだ。き、君たちは、冒険者、か?よく、入ってこられたな」
「いろいろありまして。で、何があったんですか?」
「あ、あいつが、あの悪魔が原因なんだ。あいつが帰って来てからおかしくなったんだ!」
回らぬ舌で繰り返す内容をまとめてみると・・・。
舞踏会場へ意気揚々と向かった娘が国王と侯爵に暴言を吐いたとの報告を受けて、慌てて城へ登城したこと。そこで王太子に言い寄っていたこと、婚約者の侯爵令嬢を侮辱した内容を聞かされ、青くなって謝罪に終始したこと。爵位のはく奪もあり得ると気をもんでいるところへ、娘が近衛騎士に囲まれて返されてきたこと。気が動転して叱り飛ばしたら、さらにわけのわからないことを喚き散らし、部屋に閉じこもったこと。それから誰のいう事も聞かなくなったという。
「カギをかけて出てこないから、一度ドアをぶち壊して引きずり出してきたんだ。そうしたら『ヒロインのあたしに手をかけるんじゃない!』とわめいて・・・化け物を呼出しおったんだ!!」
「化け物・・・」
見るも悍ましいそれは、斬っても突いても倒すことができず、逆にこちらの精神を崩壊させるように仕向けてきた。ドアを壊した庭師の男は自分自身を傷つけながら狂ったように走り去っていったし、引きずり出した執事は泡を吹いて倒れた。男爵を守ろうと立ち向かった使用人たちは全員が狂ったように叫びだし、お互いを攻撃して倒れていったという。男爵自身は皆が同士討ちをしている間に逃げ出して執務室に逃げ込み、現在まで隠れていたらしい。
「わしはもうあの悪魔のことなど知らん!こうなることが分かっていたなら養女としなかったものを、魔力があって見られる容姿をしていたばっかりに引き取ってしまった!!ああ、これからどうなるのだ!」
「クズの言いそうなことだな」
「貴族様はこういう面を持ってるってことわかってたでしょ」
「それでもひどい言い方だと思うよ」
独り嘆く男爵の言い分を聞きながら救われないとため息をつく。だが、こんなことをしている場合ではないことも確か。
「男爵様、ここは危険なので移動します。こちらへ」
「い、いやだ、外に出るとあいつが来る!わ、わしはここに居る!」
「面倒な御仁ね、ならば」
「あ、ミルフィル、やめ・・・」
ゴキン
「ろ、というのが遅かったか」
「流石ミルフィルの鉄拳制裁」
目を回した男爵の襟首をつかんで引きずっていくミルフィルの後を追った。
この人なりの罰を受けた形ですね。




