プロローグ
「拗らせ令嬢、婚約をすっぽかす」の出奔後のお話です。新しいキャラクターが出てきますが、前の設定と伏線も頑張って回収していきます。あまり長くならないようにまとめるつもりですので、しばらくのお付き合い、よろしくお願いします。
「見損なったぞ、オレリア・ファルケニート!貴様との婚約は破棄させてもらう!」
夢の中で、誰かが叫んでいる。あれはタミール。すでに置いてきた記憶の残滓。
もう、捨ててきた過去なのに、夢ではまだ終わらない。
「王子を誑し込むこともできんのか。役に立たない女だ」
これはお父様・・・ファルケニート侯爵。3回聞いた覚えがあるわね。
「オレリア様、私が気に入らないことは分かっていました。でもあんまりな仕打ちです!謝ってください!」
「みっともないな、オレリア嬢。仮にも侯爵家の令嬢だというのに嫉妬とは」
「人格が破綻しているよ~、あなた。もうあきらめなよ」
「これでよく貴族の責務をこなしてきたものだ。悍ましい」
「出来損ない」「半端もの」「親の力を使った下種」等等等・・・
「くっ・・・!」
唐突に目を見開いた。その先にあるのは、木の板の天井。
最近やっと慣れてきた冒険者用の宿の一室だった。
「・・・はっ・・・はぁっ・・・ふうぅっ・・・」
息が荒い。全力疾走した時のように、鼓動が乱打する。
寝衣の代わりにしていたシャツがずっくりと重くなるほどの寝汗を書いていた。
宿の中はまだ静かで、それは夜明けには程遠い時間である事を示す。
少なくとも、隣近所を起こす騒ぎの元にはなっていない。
「・・・今更、どういうこと・・・」
知らず、言葉が零れ落ちる。
コルスゲン王国を出奔して1か月が過ぎ、アタシは流れの冒険者としての生活に慣れてきたところだった。正直、戸惑うことが多い。けれど、侯爵令嬢の時のような虚しさはなかった。満足しているはず、なのに。
「何故、こんなことを思い出す?」
それも呼吸を荒げるような悪夢として。
過去の柵と共にあの国へすべて振り切ってきた。なんの未練もないのに。
アタシはもう戻るつもりなんて、ない。たとえ望まれても。
それとも・・・
「まだ、振り切れて、いない、の・・・?」
弱音交じりの言葉に、返ってくるものは何もない。
普段は見せないようにしていても、トラウマは夢に出てくることが多いんですよねぇ…。