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破国の召喚神   作者: 松本 豊
9/28

〜休息〜

出発の日までそれぞれが久しぶりの皆で過ごす休暇を楽しんでいた。


レオンは特に初めて顔を合わせた新しい仲間たちと楽しい日々を過ごしていた。


ヴェンとコルトには戦いの基礎を教えてもらい


ハルとは毎日ペアで料理を作り


ミストラとは本を一緒に読み、その最中には以前出会ったスカイドラゴンも約束通り遊びに来てくれた


リンナの裁縫を眺めては、たまに能力で大空に飛ばしてもらったり


バレンとは今まで彼が不思議に思っていた人間に対する疑問に答えてあげた。


ハイクには虫の通訳をする代わりに大陸の歴史などの勉強を教えてもらった。


中でも一番刺激的だったのはジョーと行った新作武器の作成の手伝いだった。


そうしてレオンにとって久しぶりの楽しい3日間は一瞬で過ぎていった。


ーーー出発前日の夜ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レオンは夕食後、初日にヴェンと話し合った木に座りいつも以上に綺麗に輝いている星空を眺めていた。


そこに後ろから足音が聞こえてくる。


振り向くと笑顔のハルが立っていた。


「隣座っても良い?」


ハルは同じ星空を眺めながら話始める。


「いよいよ明日だね、、新しい始まりにはワクワクするけど、この場所も気に入っていたから寂しい気持ちもあるな〜」


レオンもハルと全く同じ気持ちだった。出来ればみんなとこの暮らしをもっと続けたいと思っていた。

もしこの出会いがなければ、自分を世界一の不幸者だと思っていただろう。その後にずっと一人ぼっちだったら、心は闇に囚われて自分は何者になっていたか分からない。そんな事を時に恐ろしく思うこともあった。


「僕は家族がなくなって、すぐにヴェンと出会って今この大陸で起こっている現実を知って、正直頭がずっと混乱してたんだ。これは現実じゃないんじゃないかって。夢なら覚めてほしいって。」


「レオン、、」


「でも、今は違う。みんなと出会って過ごして、まだたった2日間だけど本当に楽しかった。心の穴はもう皆が埋めてくれたんだ。でも、こんな風に笑い合う事も突然出来なくなって、何も知らないまま殺されてしまった人たちが沢山いる。そんな人達が何にも邪魔されずにずっと安心して暮らせる場所を作りたい。だから、、頑張ろうね、ハル。」


レオンの心中を知ったハルは嬉しかった。本来なら決して戦闘向きではない"生き物と会話が出来る"という程度の能力であれば、主力として鍛えるのではなく施設に預ける事の方が正しい選択かも知れなかった。しかし、レオンは今紛れもなく自身の意思でここでの任務に尽力してくれようとしている。


「へ〜、あんたがそんなに熱く喋るなんて珍しいね!でも、そうだね、、、私も同じ気持ち。皆で新しい、優しい世界を作りたいね。」


ハルは立ち上がる。


「んじゃ!明日の朝ごはんのメニューも考えないとね〜!悔しいけどレオンの料理は評判良いから、明日もお手伝いよろしくね!早く寝なよ!」


そういうとハルは家に戻っていった。


笑顔で手を振ったレオンだったが、その後もしばらく星空を見ていた。


(僕の夢はみんなと同じ、、だからもっともっとみんなの力になりたい。そしてもう一つ、、)


(グレイ、、本当に、あなたは悪い人だったの?もう一度だけ会って話がしたい)


冷たい風が吹き草木を揺らしていた。


「寒い。ちょっと遅くなっちゃった、、、そろそろ戻るかな」


レオンも立ち上がり部屋に戻ろうと振り向いた時、暗い中家から出てきた人影が森に入っていくのが見えた。


「あれは、、、ヴェンと、、リンナさん?」


二人の行動も気になったが、明日の朝食の手伝いの事もあったのでそのまま眠る事にした。


ーーー出発当日ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これまでの天候とは打って変わって、今にも雨が降り出しそうな曇り空だった。


「ふ、今日は俺たちにとって記念すべき日だって言うのに、天候には恵まれなかったか。」


そう呟くヴェンは皆が初めて見る格好に身を包んでいる。

赤色と銀色を基調とした、隊の代表として風格のある装いだった。


「ヴェン!すごくカッコイイよ!それがリンナさんが今日の為にずっと作っていた正装なんだね」


ハルが興奮しながら話す。


「あぁ、ハイクとも話したんだが、調停式にいつもと一緒の服装で行くってのもな。無理を言ったが、本当にカッコよく作ってくれたよ。」


横で聞いていたリンナが微笑む。


リンナ「ふふ、気に入ってもらえたなら何よりだ。細かい装飾の素材はジョーから拝借したがな。」


ジョー「おぉい!ちょくちょく俺のパーツなくなってたのはお前の仕業か!なんて女だ!」


レオンはリンナの欲しかったパーツをジョーの工房から盗んでいたのは自分だと絶対に悟られないようにしていた。


リンナ「で、こっちはレオン、お前のだ。」


リンナは腕輪を手渡した。


レオン「あ、これって、、、」


ーー3日前の昼食後ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リンナ「で、レオンはなんで奇能石を首からかけているのだ?」


その言葉を聞いた時、レオンは常に持っていた疑問をリンナに投げかけた。


「あ、それは僕もずっと気になっていたんですけど、みんなは奇能石を持っていないのになんで能力を使うことが出来るんですか?」


リンナはヴェンに目を向ける


「教えてないのか?」


ヴェンはバツが悪そうに答える


「あ、あぁ、基本的な戦い方とかは教えてたけど、、、そこの話は実際に"ゼン"が来てからでも良いと思っていたが、、と言うか俺も今思い出したがリンナに相談しようとしてた事だったんだ!」


リンナは怪訝そうな表情でヴェンを見つめた後、再びこちらに目を向ける


「ヴェンの相談事は後ほど答えるとして、先に説明だけしようか。単刀直入に言うとだ、我々は奇能石を"体に埋めている"」


リンナは続ける。


「理由は実に単純だ。奇能石の恩恵を受けている我々が特に気をつけるのは敵と戦闘になった時に万が一にも相手に奇能石を奪われるか、もしくは割られる事だ。通常の人間であればそこまでする必要もないが、我々を始め、国王軍、ネロの軍勢など、いつ戦闘になるか分からない状況に身を置くもの達はこの方法を取る。」


ハルがここで話に割って入る。


「あ、あの、、リンナさん。実はその事なんだけど、、」


「なんだ?」


「"ゼンじぃ様"がレオンの手術のために来てほしいと頼んだ日にこなかったの、、」


リンナは全てを悟った顔をした後、大きくため息をついた。


「奴め、、またか。ヴェンの相談もその事か?」


「あぁ、いつもの場所にいつもの方法で来てほしい日付を書いておいたのだが、未だに姿を表す気配がない」


リンナは少し不機嫌そうに両腕を組んで不満を口にした。


「そもそも奴の住処にメッセージの書いた葉っぱを置くのが伝達方法などやり方が古すぎるのだ、、それにこちらは奴を重要な協力者と思い頼ってはいるが、奴自身はこちらの都合など知らんのだろうな」


レオンはリンナの徐々に高まる怒りの空気に少し怯えながら、会話に時々出てくる"ゼン"と呼ばれる人物が気になったので隣のハルに尋ねた。


「あぁ、ゼンじぃ様はね、簡単に言うと私たちのお医者さんなの。自分で奇能石を埋めちゃう人もいるんだけど、医療の知識のない人がそれをやると体を無駄に壊してしまう危険性も当然あるの。だから、奇能石を埋めるプロに頼むんだけど、、」


「けど?」


「うん。本来国王軍に専属の医者がいるにも関わらず、私たちはそこを利用する事は出来ない。でも私達は運良くその"ゼン"と呼ばれる伝説のお医者様の存在を突き止めて、さらにコンタクトを取る手段も分かったんだけど、、その方法がさっきもリンナさんが言った通り原始的過ぎて上手く予定が組めないのよね。」


リンナが説明を付け加える。


「本来なら奴がくるまで待てば良いのだが、レオンはこの時期に加入したためもう時間がない。この3日間の間に来ればそれで良いが、、、分かった。最悪の場合には私が備えておこう。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リンナが口を開く。

「あぁ、これで3日前に話していた最悪の場合になってしまったからな。その腕輪には奇能石が混ぜてある。それをつけている間は能力が使える。今回の遠征ではレオンに狼人の城での通訳を頼みたいからな。」


レオンは早速身につける。


「ピッタリ!ありがとうリンナさん!大切にするよ。」


「ふふ、気に入ったなら良かった。ただ今回はお互いに武装を解く事が決まりだ。不要な誤解が生まれぬよう服でその存在は隠しておけ。」


一通り説明が終わった頃、そこに次々と残りの仲間が馬に乗って集まってくる。


コルト「お!ヴェン!なんだその格好!渋いじゃねぇか!」


ミストラ「いよいよって感じですね。」


バレン「ヴェン、、カ、カッコイイ、、」


最後にハイクも到着した。


ハイク「おやおや、最後とはすまなかったね。では、忘れ物はないかな?」


そんな中ジョーは寂しそうな顔でまだ家の前付近にいた。


「おぉーいハイク!本当に俺の武器は持って言っちゃいけねぇのかよー!」


「もちろんだよジョー。こちらは武装の解除を要請しているのに、こちらがそんな物騒な武器をたくさん持っていたらみんな驚くだろう。話が違うとね。なぁに、ハームリック城に我々が住むようになったら、また取りに来れば良い。」


リンナも同調する。


「我々は奇能石を取り外すことは出来んが、、、少しの疑念ももたれぬようにヴェンでさえ今回は"あの剣"を置いていくのだ。少しの辛抱だ、ジョー。部品を無断で使ったお詫びに、落ち着いたら私が全部運んでやる。」


「本当だろうな!まぁそう言う事なら文句はねぇが、手入れもできねぇのがなぁ、、」


レオンはある案を思いつき、提案する。


「ジョー!だったら僕のお友達のポポに磨いて置いてもらおうか?」


「なっ!?レオン、そんな事出来んのか!?」


レオンが指笛を吹くと同時に1匹の小さなメロンモンキーが現れた。


「やぁ!ポポ、ちょっとお願いがあるんだ、、」


レオンが小声でお願いすると、ジョーに向けてメロンモンキーが手で大きく丸のジェスチャーをした。


「ジョー!良いって!毎日ピッカピカにして待ってるって言ってるよ!」


「おぉ!本当か!あのサル野郎、良いやつだな!名前はポポっつったか!?頼んだぜ!ポポ!」


「キーーーーーーー!」


ジョーは安堵の表情を浮かべ皆に合流した。

そして満面の笑みでレオンに話しかける。


「にしても、人間の頼みをあんなに快く引き受けてくれるなんて予想外だったぜ!!」


「うん!でも「引き受けてくれたらジョーがなんでもくれるよ」って言ったら、「大好物のメロンフラワーがたくさん欲しい」って言ってたから、それだけよろしくね!」


ジョーは目を見開きレオンを見る。


「ちょ、ちょっと待てレオン!お前交換条件なんてつけてやがったのか!?」


「うん!えっ、ジョーはタダで働いてもらうつもりだったの?」


「い、いや。そういう訳じゃねぇんだけどよ、、(メロンフラワーって、街で買ったら1個2000バルはする果物だろ、、!)」


「ふふ!ポポも嬉しそうにしてたよ!でもメロンフラワーって何だろうね〜?」


「(ぐぬぬ、、しかもこいつよく分かってねぇのに引き受けたのか!鬼しかいねぇのかここは!?)ま、まぁ、約束は守るぜ、、」


そう言うとジョーはポポに向かって親指を立てた。


一方ではその頃ハイクの用意した豪華な護送車も到着していた。護送車を引く馬も綺麗な装飾が施された衣装を来ている。


その護送車にはヴェン、ハル、レオンが乗り込み城を目指し、その他メンバーは馬に乗って先にそれぞれの持ち場の城に入りヴェンの到着を待つ。


「よし!皆、準備は整ったな。では、出発する。また各自の城で会おう。今日が新しい俺たちのスタートだ!」



一同「おう!!!」



その頃空はさらに深い雲の覆われ始めていた。


これから始まる大事件を暗示するかのように。



次回:〜崩壊〜



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