〜会合③〜
ーーーヴェン達の家から近郊の森ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レオン「バイバーイ!!また家にも絶対に遊びに来てねー!」
スカイドラゴン「ウォーーーーーーーーン!!」
レオンの簡易的な治療を受けたスカイドラゴンは上機嫌で再び上空へ飛び去って行った。
彼にとって初めて喋ることの出来た人間のレオンは珍しい存在であり、2人はすっかり絆を深めていた。
そして事なきを得た3人は帰路につく。
新たな仲間の名は"ハイク"彼は僕たちの仲間で、さらにこの隊の副隊長だという。そしてこのスカイドラゴンを捕獲したように自在にバリアーを張ることが出来るのが彼の能力だ。
そしてコルトとハイクは馬が合っていないらしいのは、二人の会話で十分に伝わってきた。
「お前、隊の副隊長ともあろうお方がみんなとろくに挨拶もしねぇでいきなり昆虫採集ってのはどう言う神経してんだ?」
「君たちの帰還が遅すぎるのだ。私とジョーはまだ夜が明ける前に到着し、報告は書面ですでにヴェンの部屋に置いて済ませておいた。一筆昆虫採集に行くと添えてね。」
「意味はわかんねぇが、お前のその奇行のおかげで助かっちまったからな。んで、ジョーはどこにいんだよ?あいつにも会わなかったぞ?」
「奴は帰還後すぐに新作の武器を持って湖に試しに行った。」
「お前ら仲間ほっぽり出して昆虫採集と武器の試し打ちって!だいたいお前は前回会った時は趣味だっつって1日中野草を摘みに行ってたよな!会うたびに趣味が変わりやがって、、もう本当にお前ぶっ飛ばしたくなってきたぜ!」
「やめろコルト。お前とヴェンは私のバリアーが唯一効かないだろう?つまりお前は本当に俺をぶっ飛ばせるのだ。冗談でも私は恐いぞ。」
話に対して顔色一つ変えずに冷静に返すハイクに対して、コルトの顔が能力ではなく怒りで赤色になっていった。
「この真顔がまたムカつく、、、!!」
しばらく2人の会話は続いた。コルトは見た目は怒っていたが、その一方でハイクとの久しぶりの再会もとても喜んでいるようにも見えた。
ハイクはあの隊の副隊長とは思えないくらい、これまでの仲間とは違い飄々とした雰囲気を纏ったとても不思議な人間だった。しかし一見とぼけているようでも、内に秘めた大きな"何か"があるような気がした。
「して、レオン君。」
「は、はい!」
「君は先ほどスカイドラゴンを説得出来たように、動物と話せる事が君の宿した能力と言っていたね。」
「はぁ、、そうですけど。」
ハイクは真剣な表情で話しかけてきた。
もしかしてこの人はなぜこの能力が国王に狙われたのか、知っているかも知れない。
「じゃあ、さっき捕まえたこのセンニンモドキはなんと言っているのかね?」
ハイクは先ほどの袋から長い髭が特徴的な緑色の昆虫を取り出して質問をしてきた。
レオンはその質問内容に拍子抜けしてしまった。特に素性を聞かれる事もなく、そのような質問を先にぶつける。本当にハイクは不思議な人だった。
「ふふ、レオン君、私はね、みんなを信頼してるんだ。そのみんなが仲間と認めた人間なら、僕も仲間として君を信頼するよ。」
「えっ?」
「こんなような僕の答えを待っているような顔に見えてね。」
レオンは少し恥ずかしかった。心の中を読まれたようなこの経験はここに来てから何度も経験しているからだ。
(僕って顔に出やすいのかな、、?)
にこりと笑ってハイクは問いかける。
「で、レオン君、この僕の捕まえたセンニンモドキは何と言っているのだね!?」
レオンはしばらくセンニンモドキと話した。
ハイクには人の言葉を話すレオンと、それに対してセンニンモドキがミンミン鳴いているだけの奇妙な風景にしか見えなかった。
レオンはセンニンモドキに言われた内容をそのまま伝える。
「「俺様を捕まえたのは大したもんだぜ!飼いてぇってんなら、まぁお前になら飼われてやっても良いぜ!」との事です。」
ハイクはそれを聞いて残念そうな表情でセンニンモドキを見た。
「う〜ん、君は見た目が可愛いから飼おうと思っていたが、どこか性格が誰かさんと似ていて、、何やら僕らは気が合わなさそうだねぇ。」
そう話ながらあくびをして前を歩いているコルトにちらりと目を向ける。
「他の虫も全部ここで逃してあげようか。」
残念そうに虫を逃すその背中はとても悲しかった。
(悪い事しちゃったかな、、)
レオンは寂しそうなハイクの背中を見て少し反省していた。
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レオンとコルト、さらにハイクの3人は家に着いた。
家の前ではジョーと呼ばれるハイクの相棒を含め、皆が揃っていた。ちょうど外で昼食が始まるみたいだ
ヴェンがこちらを見て話かける
「3人ともおかえり。で、おいハイク!お前、着いたんなら手紙じゃなく起きるまで待っててくれても良かっただろう!」
ハイクはヴェンに対しても飄々と質問に答える。
「これからはもっとみんなに合わせられるように努力するよ。」
ハイクの返事を聞いてすぐにヴェンの表情は緩み、ハイクと勢いよく肩を組んだ。
「なにはともあれ、お前もジョーも無事帰って来てくれて嬉しいよ!また今回の報告を聞かせてくれ。」
そしてヴェンがジョーに目を向け紹介を始めた。
「で、ジョー、これが俺たちの新しい仲間のレオンだ!」
ジョーはモヒカン頭が特徴的な屈強な体格でバレンが狼ならジョーは熊のような男だった。
「おぉ、さっきみんなから話は聞いてたぞ!俺はジョーだ!よろしくな!」
「レオンです!こちらこそよろしくお願いします!」
ジョーという人間の器の大きさは自然とその声を聞いただけで分かった。
温かい笑顔はいるだけで皆に安心感を与えるような、そんな人物だった。
さらに彼は武器マニアであり、ジョーの傍に置いてある自作の武器は初めて見るようなものばかりだった。
「オメェさんは動物と話せるんだってな!はは!顔に似合った優しい能力じゃねぇか!さ、俺の新作の武器で捕まえてきた魚がもうすぐ焼けるぞ!みんなで食おう!」
そこで隊員全員で大量の魚を囲みながら昼食をとり、ハイクを中心に3城遠征の成果や今後の作戦を話し合う事になった。
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ハイク「では、3日後にそれぞれ先行して担当の城に戻りヴェンの到着を待つ。その後ヴェンが各城の城主と調印式を行い、晴れて我々は夢への第一歩を踏み出す。これで問題ないね。」
ヴェン「あぁ、問題ない。」
ハイク「では、初めは私とジョーの担当するドワーフの城にて式を行い、次は魔女達の城、最後に狼人の城の順に移動する。ここで大事な確認だが、各々3日後は武装を解いて待つようしっかりと伝えてくれたかね?」
ミストラ「えぇ、そこも問題はないですよ。」
リンナ「こちらも抜かりない」
ハイク「よろしい。万が一にもその場で反旗を翻され我々が命を落とすという状況を作るわけにはいかないからね。しかし、こんな条件も飲んでくれるとは、皆がこの数年間でしっかりとで関係を築いてくれたおかげだ。各々、本当にご苦労様だったね。」
コルト「で、その後はどうする?そのまま俺たちはハームリック城に移るのか?」
ハイク「あぁ、その予定だ。ハームリックを我々の拠点とする為の作業は早ければ早い方がもちろん好ましい。それと、、、これも頭に入れておいてほしいのだが、この作戦中に最も警戒すべきは国王軍とネロの軍勢の動きだ。」
ハル「なんでいきなり国王軍とネロの軍が出てくんの?」
ハルが大きな魚を頬張りながらハイクに尋ねる。
ハイク「我々はこのハームリック城を手に入れるまでの行動はなるべく目立たぬよう、危険を冒してでも少数精鋭で3城の攻略にも乗り出した。そもそも過去の経験から北西の地など国王軍もネロの軍もすでに狙ってなどいないはずなのだが、先日の我々がこちらに戻ってくる日にドワーフの者が上空に不審な影を確認し、その影が東に向かって行ったと報告してくれた。」
ヴェン「東、、なるほどな。確かにそれだけではどちらの軍の偵察か分からないな。」
ハイク「タイミング悪く奴らも再び北西の地を狙い始めたのかも知れない。ただ、3城とも武力で容易に落とせる場所ではなく、そして3城を攻めるほどの大軍を興している気配もない。故にいきなり事を起こすとも考えづらい。もしこの仮説が当たっているとしても大きくリードしているのは間違いなく我々だ。」
ミルトン「では、予定はそのまま3日後で大丈夫でしょうか?」
ハイク「あぁ、変更は必要ないだろう。ただ用心するに越したことはない、3城それぞれを覆うよう上空にすでに私のバリアを張ってある。不審に思われないように肉眼では確認できぬほどに薄くしてな。これで空からの奇襲も防げるだろう。特に当日は武装せずに待っていてもらうからな。」
ハル「本当だ!これまた凄い労力だね。」
特殊な双眼鏡のようなものでハルは城の方向を見ている。
これはジョーの作った特殊な双眼鏡で、魔力を色で認識できるようになっているという。
そんなやり取りを聞いていて、改めてレオンは仲間達の能力の凄まじさに驚いていた。
「、、、ハイクはこんな事も可能なのですか?」
レオンの興奮した表情を見たコルトが笑いながら話す。
「はっはっは!現実的じゃない能力に驚いたか?しかしそれだけじゃない!ハイクの能力のバリアは触れたものがいれば感知できる仕様にもなっている!」
コルトはハイクの能力を誇らしげに話した。その様子はさっきまで喧嘩をしていた人物を讃えるものとは思えなかった。
ヴェン「分かった。では、3日後に予定通り出発しよう。当日は今までで経験した中でも最も忙しい1日となるだろう。各自ゆっくり過ごして当日までにしっかり体力を回復してくれ。」
隊の大いなる一歩が踏み出されようとしていた。
次回:〜休息〜