〜会合②〜
それぞれ準備を済ませたコルト、ミストラ、レオンの3人は外に出た。
今日も雲一つない快晴で風が気持ち良い。
家の前では4人が集まって話していた。ヴェンとハル、さらに茶色の長い髪が印象的な女性と二足歩行の巨大な狼が立っていた。レオン達はその輪に向かって歩き出した。
「よ!ヴェン!レオンと会ったぜ!」
「コルト!早速打ち解けたようで何よりだ。それとさっき確認し忘れたが、調停式の件は大丈夫か?」
「俺を誰だと思ってんだ大将!?そんなんは完璧だっての!詳しくはミストラから聞いてくれ!」
突然の指名からミストラが会話に加わる。よくある事なのかやれやれと言った表情だ。
「ヴェンさん、調停式の件は僕が王女アンジェに詳細を伝えました。3日後の昼に我々が到着するので、武装を解いて待つようにと」
「ありがとうミストラ。調停式の件も問題なさそうだな。」
この一連のやりとりを見て、レオンはなぜコルトとミストラがペアになっているのか分かった気がした。
猪突猛進のコルトをミストラが上手くカバーしているのだろう。
「その子がお前の言っていた新たな仲間か?」
長い髪の女性がヴェンに話しかける。元気一杯のハルとは対照的に落ち着いた雰囲気の大人な印象だ。
「あぁ、彼がレオンだ。そしてレオンにも紹介するよ。彼女はリンナだ。」
ヴェンの紹介にハルも嬉しそうに付け足す。
「リンナさんは能力で色んな物を自在に操ることが出来るの!この家もリンナさんが持ってきてくれたんだよ!それにリンナさんは家事も裁縫もとっても得意で、この服も作ってくれたの!リンナさん、私次は新しい帽子が欲しいの!」
リンナはハルに対してとても優しい笑顔で返事をする。
「いいとも。しばらくの間はゆっくりしたいと思っていた所だ。後でデザインも一緒に考えよう。」
その後リンナは再びレオンに話しかける。
「では、よろしくレオン。ここでの生活は何か不自由はないか?」
「そ、そんな!何もありません。これからお世話になります。」
他のみんなとは違う雰囲気をもつ不思議な人だった。
「ふふ。なら良い。それから、私はお前の世話などしないぞ。これからお前はどんな困難も共に乗り越える対等な"仲間"だろう?」
ヴェンの仲間達は共通して信用できる人間に思えた。両親を無くして空になりかけたレオンの心は彼らと歩む未来を想像するだけでどんどん希望で満たされて行った。
そしてリンナの隣に目を向けると、察した彼女が口を開いた。
「狼人族を見るのは初めてか?まぁ、普通に生活をしていたのであれば中々出会う機会もないか。彼の名はバレン。私と組み、彼の多大な協力の元に気難しい狼人族の者たちは無事説得ができた。」
「、、ヨ、ヨロシクネ、、」
普段の顔が険しく見えてしまうバレンだが、一生懸命笑顔を作ってレオンに挨拶した。
「すまんな。彼は人の言葉で話すのは少し苦手なのだ。」
リンナの言葉を受けて、レオンはふとある事を思いつき部屋に走った。
そして帰ってきた際、手に持っていたのはヴェンにもらったチョーカー型の奇能石だった。
「これだともっと話ができないかな?」
バレンは驚いた表情で返事をする。
「もしかして、お前はオラと話し合う事が出来るのか!?」
もちろんレオン以外にはバレンの言葉の意味は分かっていない。
「うん。どうも僕は"どんな生き物とも話す事が出来る"っていうのが能力みたいなんだ。こちらこそ、これからよろしくね!バレン!」
「本当にこの世には様々な力があるだな。でも、こんな人間と会えてオラとっても嬉しいよレオン。後でたくさん話そう!」
「もちろん!」
今まで見た事の無い笑顔で嬉しそうに話すバレンに一同は驚くと同時に、嬉しい気持ちになった。
そこで一連のやり取りを見守っていたヴェンが口を開く。
「レオン、お前の能力は俺たちの仲をより深くしてくれそうだな。本当にお前を救えた事、そして仲間になってくれた事に心から感謝するよ。」
ミルトンも続く。
「うん、本当に驚いたよ。それに、これでバレンともレオンを通して今まで以上に語り合う事も出来るって事だよね。後で僕も会話に混ぜてよ!たくさん話したい事があったんだ!」
そして最後にコルトが口を開く。
「よし!レオン!んじゃ、次は俺の能力を見せてやるよ!ヴェン、とりあえずは急ぎの用事はないって事だよな!これから自由時間か!?」
コルトのこの輝いた目は新しい仲間の加入、城奪取の任務も大詰めになった事でこれからの隊がより良くなっていく確信に心が踊っている事も一因なのだろう。ヴェンもその気持ちを十分に察していた。
「あぁ、今は各自好きに過ごしてくれ。そして一番忙しいタイミングでの合流になってしまったが、、、俺たちの新しい仲間、レオンにもっと俺たちを知ってもらおう。それとコルト、能力のデモンストレーションならちゃんと"何もいない場所"を狙えよ。」
「分かってるって!じゃ、あっち行くぞ!レオン!」
突然の誘いだったがレオンは心が踊りながらコルトについていった。
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コルトとレオンは小走りで見晴らしの良い丘に移動した。
そこで徐にコルトは上着を脱いだ。よく見るとその体は無数の傷で溢れていた。
「よーし!じゃあ、まずは俺の右腕をよーーく見てろ、、」
コルトのその一言の後、彼の腕はみるみるうちに赤みを帯び、その後はさらに腕は銀色に変化した。
「驚いたか?これが俺の能力だ。今は腕だけだが、俺は全身をこんな感じで硬化させる事が出来る。これで相手をぶん殴ればもちろん大ダメージだし、この状態では全身の筋力も爆発的に上がるんだ、、例えば、、まぁ、、これでいいか」
コルトはそう言うと目に入った巨大な岩に手を突き刺し、まるでスポンジでも持つかのように片手で持ち上げた。
「この岩をこの強化した腕でぶん投げればはるか遠くまで飛ばす事が出来る。あっちの人も動物も住んでない山に向かってぶち当てるつもりで投げるから、ちょっと見てろよ。」
コルトの指差す方向には巨大な岩山があった。片手で岩を持ち上げるだけでも驚愕の力だが、それをさらに投げて当てると言うのは規格外の力だ。
持ち振りかぶったコルトはその方面に向かって全力で投げた。
岩はまるでロケットで飛ばしたかのような信じられないスピードで目標に向かってまっすぐ飛んで行った。
「すごい、、!」
(母と同じ増幅系の魔力だろうけどコルトのそれはレベルがまるで違う)
予想以上の力にレオンは言葉を失った。
「ふふふ、レオン。俺はただのセンスの良い兄ちゃんじゃねえって理解したか?良いか、この力で俺様は俺たちの夢の達成の為に、どんな困難にも立ち向かって来たんだぜ!そしてこれからこの俺がこの世界を変えてやる!」
(きまった、恐ろしいほどに、、!)
『ドカン!!!!』
決めポーズのコルトが話を終えると同時に大きな音が鳴り響いた。
「あれ?今、山に当たる手前で岩が他の何かにぶつかったような、、」
「何か?」
レオンとコルトは岩を投げた方向へゆっくりと目を向ける。
コルト「ん〜、お、おい、、あれってまさか、、」
そしてレオンは数日前に見た覚えのある"大きな影"がこちらに向かって来る事に気づいた。
「ちょっとコルト!、、、あれ、、スカイドラゴンが凄いスピードでこっちに来るよ!」
「何ぃー!!よりによってスカイドラゴンにぶつかったのか!お、おいレオン!お前あいつと喋れるならなんとかしろ!俺は逃げる!」
「あんな怒ってるのに話し合いなんて出来るかー!!だいたい当てたのコルトだろ!」
二人は走ってその場を逃げ出す。
そして走りながらコルトは小さく呟く。
「、、くそ、これはめんどくせぇ事になった。ここでスカイドラゴンと無駄に戦う事にでもなったらヴェンにどんだけ怒られるかわかんねぇ!」
(でも、やるしかねぇか、、)
コルトが覚悟を決め振り返り、スカイドラゴンとの距離が極限まで近づいたその時、突如スカイドラゴンの巨躯を巨大な四角形のバリアーが包み込み完全にその動きは封じ込められた。
バリアーの中に入ったまま落下してきたスカイドラゴンを見てレオンは安堵はしたが、状況は掴めないでいた。
「一体これは、、?」
コルトはその光景を見て呟く。
「なんだよ。お前に貸しが出来ちまったなんて最悪だぜ。」
直後、森の中から人影が出てくる。コルトはその人影に向かって続けて話しかける。
「ま、でも助かったぜ。しかしなんでそんな所から出てくるんだよ。"ハイク"。」
銀色の長髪にどこか覇気のない瞳、そして無精髭を蓄えた男がそこに立っていた。
男は手に持っていた袋を突き出してコルトに答えた。
「昆虫採集だ」
次回:〜会合③〜