〜道〜
ーーーヴェン達の家ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕食時、目の前に先ほどハルと一緒に釣ってきた魚が調理された状態で並んでいた。
思えばこの家に来て初めての食事だった。
ヴェンとハルは他愛もない会話をしながら楽しそうに料理を食べている。こうしてみると街でも見かけそうな男女なのだがこの二人はかたやスカイドラゴンを手なづけ、かたやそれを見ても眉ひとつ動かさない化け物だ。
(そして僕はその仲間になったのか、、)
そんな事を思いながら、目の前の焚き火を眺めていた。
そしてレオンはこれまでの出来事を考えていた。ここで目覚めて多くの事を体験した。今でもずっと長い夢をみているようだが、これは紛れもない現実だ。
ヴェン「ん?ちゃんと食べてるかレオン?ハルの料理は美味くないか?」
ハル「ちょっと!何よその質問!!」
ハルの作ってくれた料理は甘い味付けが少し気になったが美味しかった。ただ、少しでも考える時間が出来ると父と母の事を考えてしまうから、溢れそうになる涙を堪えながらゆっくり食べる事しか出来なかった。
そんなレオンを見かねたがヴェンが提案する。
「レオン、飯食ったら寝る前にちょっと外で話さないか?」
気をかけさせてしまっているのは分かっていたが、なぜこうなってしまったのか考えれば考えるほど、簡単に自分の感情を完全に整理する事は出来なかった。
だからレオンもヴェンともっと話がしたかったのでその誘いを断る理由はなかった。
夕食後、外に出ると辺りは真っ暗になっていた。
心地よい風は未だに吹いており、空には綺麗な星空が広がっている。
「あそこの木が座り心地が良いんだ!」
そう言うとヴェンはレオンを連れていった。
「ハルから俺たちの事聞いたんだってな。あいつの言う通り、俺たちは北西の地を手に入れる為に各自動いている。大袈裟に言えば"国"を作ろうとしている俺たちの行動にははっきり言って多くの危険を伴う。こんな大事な事言う前に誘っちまって申し訳なかった。」
レオンは多くの事を考えていたが、上手く言葉にする事が出来ず静かにただ頷いた。
「ただ、これは言い訳だしお前にとって辛い事を思い出させるが聞いて欲しい。俺もお前みたいな特別な力を持ち、志を共にしてくれる人間を仲間に出来る機会は大きく限られているから焦りもあったんだ。」
「焦り?」
ヴェンの突然の話にレオンは興味深く耳を傾けた。
「朝、俺が話した内容を覚えているか?特別な力を持った人間は、その力を恐れる王に城へ招かれ家族ごと殺される。ついて行く事を拒んだ場合も本来は同じだ。だが、不思議じゃないか?昨日お前はお前の両親を殺した者と対峙したにも関わらず生きている。」
確かにヴェンの話の通りなら、あの時に殺されているはずだった。
「、、僕は生かされた?」
「そう言う事だ。だがそんな幸運な者はある条件が揃わないと出会うことが出来ない。」
「条件?」
「あぁ、まず国は消したい能力者の元に使者として精鋭中の精鋭を送る。そしてこの事は決して大ごとには出来ない為、それは必ず1人でやってくる。そいつらはターゲットとなる特別な能力者ともし仮に戦闘になってもその場を鎮圧が出来るほどの力を持つ精鋭中の精鋭が選ばれる。狙われたらまず無事では済まないし、はっきり言って俺たちも正面からは手が出せない。」
ヴェンは神妙な顔でさらに話を続ける。
「しかし、その精兵の中でもたった一人だけ子供の命までは取らない者がいる。そいつは滅多に任務に当たることはないが、奴が出てくる事は俺たちにとっては大きなチャンスだった。俺とハルは任務に当たるものが秘密裏に使用する城の裏口に繋がる洞窟を監視し"その男"が出てきた瞬間から尾行を開始する。そして奴の襲った家から生き延びた子供を匿っていて、その中の一人がレオン、お前だ。」
この話でレオンはヴェンの仲間である事の意味を理解した。多くの同じ立場の子供達は何も知らないまま死んでいく。
その無念を晴らすことが出来るのは幸運にも生き延びれた者たちしかいないんだ、と。
「つまり俺たちが将来的には国にも対抗し得る特別な力を増やせるチャンスはその者が任務に当たった時のみのごく僅かなチャンスに頼るしかない。その兵の名前、お前もとりあえずはそれくらいは覚えておいた方が良い。奴はこう呼ばれている。」
「"大魔導士"グレイ」
その名を聞いた途端、レオンの体は激しい悪寒に見舞われた。
「グレイ、、?」
(あのグレイが両親を殺した犯人!?)
「どうしたレオン!?」
グレイの名を聞いた途端に呼吸の荒くなっていくレオンを見てヴェンは驚いた。
上手く呼吸ができない中でレオンは必死に言葉を絞り出す。
「ヴェン、、今日、兵団の知り合いがいるって言ったよね?」
「あぁ、、、。まさか!」
「その人の名前も、、グレイ、、」
その言葉を残した後、レオンは気を失ってしまった。
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レオンは夢を見ていた。
夢の中に出てきたのはあの日のあの場面。
両親を殺した「仮面の男」もあの日のようにその場に立っていた。
その男が無言で外した仮面の下には見覚えのある男の顔があった。
そして男はレオンに"話しかけた"
「全てを手に入れて、私に会いに来い。」
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「はっ、、!」
レオンはベットの上で大量の汗と共に目覚めた。
そしてすぐ側ではハルが安堵の表情でこちらを見つめていた。
「目が覚めた!良かった、寝てる間ずっとうなされてたんだよ。今ヴェンも呼んでくるから!」
すぐにヴェンが駆けつけてきた。
「レオン!目が覚めたか!体調は大丈夫か?」
またヴェン達に心配をかけてしまった。あれから二人はつきっきりで看病してくれたのだろうと容易に予想がついた。
「ごめん、二人とも。体調は全く問題ないよ。それと、、」
夢を見た後、父と母が死んだあの日以来どうしても現実を受け入れられず、乱れていた気持ちが不思議と整理されていた。
「ヴェンの話、理解したよ。僕のような王国の陰謀から生き残れた人が真実を持って正しい道を示さないといけない。そんな為の戦いをみんなはしているんだよね。」
一息置いた後、レオンはまっすぐ2人を見つめ決意を口にした。
「改めて僕をヴェン達の軍の一員として仲間にしてほしい。」
レオンの決意の表情にヴェンもハルも驚いた。
そしてその言葉は昨日まで泣いてばかりいた子供とは到底思えない程、たくましく強い意思を発していた。
レオンは生まれて初めて、強く自分の進みたい道を見つけることが出来ていた。レオン自身これほどまでに溢れる気持ちを抑えられない感覚になっている事が新鮮だった。
「今この瞬間も何も知らない人たちが殺されているかも知れない。何でも良い、、僕もみんなの役に立てるようになりたい!」
ヴェンは当初、起きたらレオンに施設への移動も勧めようとしていた。しかし、自分より大きく年の離れた少年が暗闇の中で導き出したの答えを、その意思をしっかりと受け止めた。
「あぁ。これからしっかりと貢献してもらうぞ。改めてこちらこそ宜しくな。」
隣のハルは目に涙を浮かべていた。
「うん!すごいよ、レオン。辛いことばっかりだったのに、、、もうこんなにも前を向いている。私も教えられる事は全部教えてあげる。」
ヴェン、ハルと共闘を誓い合ったこの瞬間、レオンの中では二人には伝えていないもう一つの目的の方が大きく脳内を支配していた。
「そして、グレイ、、、僕はもっと力を付けて、、、必ずあなたに会いに行く」
次回:会合①