〜仲間〜
レオンとアリの不思議な光景に一時は混乱していたヴェンだったが、その後すでに冷静さを取り戻していた。
「俺も色々な能力を見てきたが、、まさかお前は"様々な生き物と話せる"能力だったとはな、、」
レオンはその最中ずっと父の事を思い出していた。
(動物と喋れるなんて、お父さんがふざけて言っているんだとばかり思っていたけど、あれは能力を使って本当に会話をしてたんだ、、。)
そして安堵もしていた。仲間になるとは言ったものの、本音は出来るだけ戦いたくはなかったので間違っても"戦う系"の能力ではないことを密かに祈っていたのだ。
「で、僕の能力も分かった所で今後の話もしていきたいんだけど、具体的にはみんなは何をするつもりなの?」
状況が落ち着いてきた中で、ヴェンに徐々に具体的な質問をぶつける。
「まだまだ多くの人間を救い仲間を増やしたいが、、それに伴って今はこことは違う絶対的な本拠地となる土地の確保が最優先だ。まぁそれに関してはもうすでに仲間が、、」
説明の最中、次は空から異様な気配を感じたレオンは空を仰ぎ見て何かが降って来るのを見つけた。
「何だろあれ?」
ヴェンも目を空に向ける
「ん?、、あれは、、」
ヴェンはさらに目を細める
「、、ハル!?」
空から黒い影がこちらに向かってくる。
徐々にその黒い影の正体が分かってくる、まだ子供だが確かにスカイドラゴンだ。
??「ストーーーーーップ!!!!!」
地上に着く間際、スカイドラゴンの背中から大きな声が響き渡った。
レオンとヴェンはとっさに直撃を回避したが
どうみても着地は失敗だった。
??「イタタタ、、、」
??「このバカ!あんたいっつも飛んでんなら着地の練習もちゃんとしときなさいよ!」
スカイドラゴンの頭を叩いて説教をする女の子と許しをこうスカイドラゴンの姿が印象的だった。
「おいハル、何だこの状況は、、」
呆れた顔のヴェンはドラゴンの背中にいる女の子に向かって話しかける。
「あら〜隊長様、、。ハル、只今戻りましたけど、、」
女の子はドラゴンの背中から降りると反省した様子で事の経緯を話した。
この子の名前は「ハル」。こちらもヴェンと同様綺麗な赤髪でショートカットが印象的なとても綺麗な人だった。
この人も僕たちと同じ家族のいない"仲間"という訳だ。
「なるほど。お前の話をまとめると、お前は大事な食料の調達任務の途中でたまたまこのスカイドラゴンを見つけて、友達になろうとと背中に乗って遊んでた訳か。」
ヴェンの怒りは話す声からしっかりと伝わっていた。
「だって、私はスカイドラゴンをあんな近くで見た事なかったのに目の前に現れたんだもん。ちょっとだけ一緒に遊んでみたかっただけだよ。」
ハルの方は今にも泣きそうな感情が声から伝わってくる。
ヴェンはそんな彼女の感情は関係ないと無愛想な表情でハルを見る。
「まぁ、、、今日はまだ時間がある。食材はあとでまた調達しよう。それよりハル、新しい仲間を紹介するよ。
レオンだ。」
その言葉をハルは思ったより怒られなかった事への安堵からか、はたまた反省すら演技だったのか真偽は分からないが先ほどとはうって変わって満面の笑みでレオンを見た。
「レオン君、目が覚めたんだね!?良かった!私ハル!これからよろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ヴェンとはまた違った温かい人間味を持った人だった。きっとヴェンの周りには良い人間が集まるんだろうとそんな事をレオンは笑顔の奥で思っていた。
「で!君はどんな能力もってんの!?」
ハルの弾けるような笑顔を見るだけで何となく彼女の性格が分かってしまう。
とても感情に素直で好奇心が旺盛だ。
この笑顔でスカイドラゴンにも近づいていったのだろうとすぐに分かった。
「レオンは、、さっき分かったんだが、どうやら"色んな生き物と会話が出来る"ってのが能力みたいだ。」
説明を聞いてハルは驚いたような表情でヴェンを見つめた。
「そんな能力、聞いた事ないよね? でもそれが、、」
「あぁ、国の恐れた能力なのも間違いない。」
少しの間沈黙が流れたがその空気をほぐすようにハルが会話を続けた。
「何にせよ、素敵な能力じゃん!てか、私もそんな能力が良かったな〜。
あっ!じゃあさ、このスカイドラゴンの、、すーちゃんが私になんて言ってるか教えてよ!
私達もう友達だもんね、すーちゃん!」
「ばぅっ!!」
そういってスカイドラゴンの再び背中に乗る彼女は無邪気な子供そのものだった。
「で、今のはなんて言ってたの!?」
レオンは一呼吸間をおいて申し訳なさそうに説明した。
「「降りて」だって、、」
「えっ?」
「「帰りたい」って、、」
それを聞いた途端、陽気なハルは一瞬で不機嫌になった。
「何だとこのバカドラゴン!!!」
ぺしっ!
このやりとりを見ていたヴェンが口を開く。
「そう言ってる事だからもうこいつは自然に返してやれ。元々スカイドラゴンは人間の仲間にはならん。で、お前は早く近場で良いから食料取って来い!」
「は、はい!今すぐにーー!」
そのまま急いで出発しようとしたハルの姿を見てレオンが叫ぶ。
「あの!!、、僕も一緒に行っても良いですか?」
とっさに出た一言だった。
レオンも初めて会ったヴェン以外の仲間ハルに聞きたい事がたくさんあったからだ。
ヴェンはレオンの質問に微笑んでで答えた。
「奇遇だな。実は俺もこいつがまた遊ばないか心配だから、レオンも一緒に行って見張ってくれないかと頼もうとしていたんだ。ついでに聞きたい事があればハルに教えてもらったら良い。」
こうしてハルさんと僕で近くの湖に魚を取りに行く事になった。
「今日は良い天気だね〜!こんな日にこうやって散歩出来るなんて最高♪」
ハルはそもそもなぜこうなったのかを全く反省するそぶりもなく、この状況を楽しんでいた。
「ハルさん、今度はちゃんと食べ物をもって行かないと次こそ怒られちゃいますよ、、」
「分かってるっての♪」
陽気なハルさんと一緒にいると本当にこの人が僕と同じような過去を持っているとは思えなくなる。
しばらくなんでもない話をしながら歩いていたが、一通り会話が終わるとずっと気になっていた疑問を投げかけてみた。
「ハルさんはヴェンの事を"隊長"って呼んでましたけど、どういう意味ですか?」
「何も聞いてないんだ!?そのままだよ。ヴェンは私達の隊長なの。私達の夢の話は聞いた?」
「新しい"第3の勢力を作る"夢ですよね?」
「それそれ!私達はそれに強く賛成してて、そんな私たちをまとめて指示を出すのは全部ヴェンなの。まっ、隊長なんて呼ぶのはさっきみたいに怒られそうな時とか気まぐれなんだけどね。」
さらにレオンの質問は続く。
「あと、僕たちの仲間って全部で何人いるんですか?」
ハルはこの質問を聞いて目を見開きレオンを見た。
「本当に詳しい話は何にも聞いてないんだね!それなのに良く私達の仲間になってくれたね?」
ハルに言われてはっとした。確かに組織の事など何も知らないままヴェン達の仲間になった。
でも不思議と恐怖心や不信感はなかった。素性の知れないヴェンだったが直感で信用できると思ったからだ。
「そこは、なんとなく。もう帰る場所もありませんし。ヴェンは良い人だと思ったので。」
自分でも明確な答えを持っていなかった質問に素直に思っている事を伝えるしかなかった。
「ふふ、なんとなくか〜。でもヴェンがいい人ってのは大正解だよ。他のみんなも信用できるから安心して。」
ハルが決して嘘をついていない事は嬉しそうに微笑んだ横顔を見れば十分に伝わった。
「あ、この組織の説明だったね!これはヴェンが15才の時に作ったの。そこから多くの経験をしながら仲間を増やしたり、孤児も確保して私たちの信頼している人の運営してる施設に預けたりしてる。将来的にはその子達も私達の土地に来てもらう予定なんだ。」
ハルは時折水を飲み、休憩を挟みながらさらに詳しく説明を続けてくれた。
「で、そんな活動をメインで行う、強い魔力や特殊な魔力を有した実行部隊はあなたを入れて9人いるの。普段はその9人で手分けをして色々な活動をしてるんだけど、今はこれから先の部隊拡大の為の最重要任務として北西の地にあるハームリック城を私達の拠点にするためにそれぞれが全力で動いているんだよ。」
「北西のハームリック城、、?それってまさか、、」
レオンも大陸の歴史、そしてハームリック城に関しては多少ではあるが知っていた。
まず初めにこの広大な海に囲まれたバルストレス大陸は大昔に海外より移住してきた初代バルストレス王が国を作った事から歴史は始まった。そこから時は流れ、現在大陸は国王軍とネロの軍勢の二つの勢力が争っている構図であった。大陸の多くは未だバルストレス国王の統治する地となっているが、古くには第2都市として栄えたとされる湖上の城ミルドラを中心とした北東の地はネロの軍勢に奪われている。
そして北西には天候が悪く、凶暴な魔物が住み着く人が寄り付かない未開の地が広がっているとされ、その大地の果てにはバルストレス城が作られる遥か前に建設されていた通称「始まりの城 ハームリック」があると伝えられている。
「あの伝説の城ハームリックの事ですか!?」
「おっ、知ってるんだね。そう、そのハームリック城!そこがこれから私達のお城になるのよ♪」
レオンはまともな発想ではないと思った。歴代のバルストレス国王も北西の地を開発しようと兵を送り続けた時期があったが、その結果は全て全滅。城の存在さえも人類はしばらく確認出来ていない伝説の城とされていたのだ。
「ハームリック城はあるよ」
ハルの突然の言葉にレオンは驚いた。
「そんな伝説信じてるのか?って顔してたから、教えてあげる。ハームリック城はちゃんとあるよ。私達はその存在を確認してる。そこまでの道も私達はしっかり把握している。」
レオンはハルの言葉を聞いた時、歴代の国の精鋭達が入り口の魔物にさえ全く歯が立たないのにたったの9人でどうやって?と疑問に思ったが、先ほど"あの光景"を見た以上、この人達とその仲間なら可能なのかも知れないと思った。
スカイドラゴンの特性を文献で見たことがあったレオンは、実は先ほどの光景に大きく驚愕していたのだった。その文献にはこう記されていた。
『〜天空の守護龍 スカイドラゴン〜』
「過去にたった1匹の怒り暴れたスカイドラゴンが村を壊滅に追い込んだ例もある程の戦闘力を有する。過去にこのドラゴンの背に乗った人間はその当時最強の武力を誇ったと言われる武闘家シンのみであり、誇り高き龍はこの事から"自分より弱い存在をその背に乗せる事はない"とされる」
次回:〜道〜