〜誤算〜
ーーーミルドラ城 近郊の森ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ダン「もうそろそろミルドラ城に着くわね。」
馬上のダンとシンズラーが軍の先頭で会話をしていた。
シンズラー「あぁ、しかしやけに静かだと思わぬか?正体不明の飛行能力を持った敵も結局あれから現れなかった。」
ダン「そうね。今が静かなのはネロの軍に感知の出来る能力者がいないから、そして飛行能力を持った新手の敵がここ数日現われなかったのはヘルツォークに完膚無きまでにやられて気持ちが萎えちゃったか、次の兵隊を作るまでに時間がかかってるから、、って所じゃない?」
シンズラーの真剣な顔とは対照的にダンは余裕の笑顔を見せた。
シンズラー「うむ、、。何はともあれ、こうして大軍で敵の喉元まで迫っているのだ。相手が気づいていないのであれば、もうこのまま一気に奇襲で攻め落とすのが上策であろうな。」
ダン「では、出陣前に決めた通り赤色の騎士で先陣を切りますか?」
話の途中ダンとシンズラーは森を抜け、その目でミルドラ城を確認した。
シンズラー「うむ、それで良かろう。予想していた敵の急襲もなかった。各所に配置した赤の騎士達をここに集めよ。」
風が草木を揺らす音が響く中、大木の作り出した一つの影の中からはっきりと声が聞こえた。
??「挨拶代わりだ。」
そして影の中から突如男が現われ、間髪置かずにダンに向けて無数の影の槍を飛ばした。
シンズラー「いかん、、!!ダン!!避けろ!!」
ダンに槍が当たりそうになったその瞬間、辺りの樹木が素早くダンの体を包み込み謎の男の攻撃を防いだ。
??「へぇ、、流石は王国軍の精鋭騎士。こんな奇襲で殺せるほど甘くはないか。」
正体不明の敵の攻撃を全て防ぎきった後、樹木が崩れ落ちた。その中からは奇襲を受けて尚、未だに笑顔を崩さないダンが姿を表した。
ダン「いえ、あなたの奇襲は完璧だったわよ。ただ運は悪かったわね。私は今みたいに自在に華麗に樹木を操ることが出来る。少なくとも森で私は殺せないわ。」
ダンが男に語りかけると同時に、辺りの木から無数の蔓が謎の男に襲いかかった。
しかし次は男の作り出した漆黒のヴェールが体を包み、その攻撃をことごとく防いだ。
??「ふふふ、、大した力だな。しかしそうこなくては面白くない。ではミルドラ城へ来るが良い国王軍。妹の死より酷い結末をお前達にくれてやる。」
ダン・シンドラー「!!!???」
シンドラー「なんだと、、!?つまりお前が、、ネロ!!!」
ネロ「ふふふ、、そうだよ?俺がネロだ。会えて嬉しいよ王国軍。思った通りクズのような顔の集まりだな。せっかくだ、やはりこの戦争の幕開けにこの軍の頭脳と見受けるあなたの首くらいはもらっていこうかな。」
ネロがシンズラーに向けて右手をかざした。
すると後方からネロに向けて激しい雷を纏った岩が飛んできた。
誰の目から見ても強力な魔力だったが、その攻撃さえもネロの作り出した闇の中に飲まれていった。
ネロ「おっと!惜しかったな。しかし大した魔力だ。直撃していれば即死だったよ。」
シンズラー「これは、、コウシ、フォーバック!!」
シンズラーの視線の先には2人の赤色の騎士が立っていた。危機を感じ最速で救援に来たのだろう、呼吸の整わない両者の肩は大きく揺れていた。そして右手をネロに向けている男が叫ぶ。
フォーバック「シンズラー様!!その者は危険だ!!早くこちらへ!!」
ネロ「はっはっは!!そんなに焦る必要はないよ!!もう俺も時間切れだ!!」
ネロの体は不気味な黒い煙を上げながら徐々に透けていった。
「では、また後で会えるのを楽しみに待っているよ王国軍。」
そう告げると完全にネロの体は消えてなくなった。
残された国王兵はシンドラーを中心に集まっていた。
コウシ「無事ですか!?シンドラー様!?」
シンドラー「うむ、、。そなた達のおかげで無事だ。礼を言うぞ。しかし、、、」
ダン「今の戦闘で確定ね、、。ネロは我々の想像以上に厄介な敵、、。」
シンドラー「うむ、、。あやつがこの森に潜んでいる事など気づく事すら出来ず、先制を許した。いや、、それどころか姿を表した後でさえも結果として歯が立たなかった。」
フォーバック「弱気になってはダメです!確かに予想外の奇襲と能力に面を喰らいましたが、我々赤の騎士9人の力を合わせれば負ける相手でもありますまい!!」
コウシ「確かに、、。あれだけ完全に不意を突かれたにも関わらずこちらの被害もなかったと言えます。」
ダン「どうするのシンドラー?確かに2人の言うことも一理ある。しかし、あれだけ自信満々に城へ私たちを誘って来るネロにも何か策があるんではしょうよ。このまま突撃する?それとも引き返して策を練り直す?」
シンドラーは目を閉じ、集中していた。ダンの言う通り影を使うと言うネロの能力が少しでも分かった今、引き返す選択肢もあった。しかし、シンドラーは前進の指示を出した。
シンドラー「皆の者、この作戦は実行する。奴は影を操り戦う能力者。今のような奇襲にはうってつけだが、正攻法で大勢に攻められるのは苦手なはずだ。」
騒ぎを聞き付けた残りの赤色の騎士6人もシンドラーの元へ駆けつけた。
カメル「おい!なんだったんだ今の音は!?」
カーディー「シンズラー様!!ご無事ですか!?」
パルラ「ネロが出たと聞いたぞ!?被害はないのか!?」
シンズラー「ふ、、揃ったか、、赤色の騎士団、、ダン、カメル、カーディー、コウシ、フォーバック、パルラ、ゼス、ナーリン、マキージュ。」
ナーリン「どうなっている!?私の魔力を掻い潜って奴は現われたのか!」
シンズラー「奴は影の中を自在に行き来出来るらしい。攻守ともに隙がない上に、感知の魔法をも掻い潜るとは厄介じゃぞ。そして奴は再びミルドラ城へ戻った。我々の到着を楽しみに待っていると伝言を残してな。」
ゼス「だったら、やる事は1つじゃろ?さっさと我々が城へ攻め入り、奴の首を取る!」
カメル「同意ですね。奴はハッタリで我々が引き返すと思っているかも知れない。すぐに攻めるべきです。」
赤色の騎士達から上がる士気の高い声にシンズラーは笑みを浮かべた。
シンズラー「ふふ、元よりそのつもりだ。行け!赤色の騎士、我が国の精鋭達よ!!例の正体不明の敵の援軍が来る気配もない!城で待ち受けるネロの首だけを目掛けて突き進め!!」
シンズラーの号令でまずは赤の騎士団の9人がミルドラ城に向かった。
ーーーミルドラ城ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
城の中は暗闇に覆われており、ネロ有利の戦場なのはすぐに分かった。そこで9人は城の前で集まり最後の確認をした。
マキージュ「どれだけ敵に有利な状況であれ、奴を確認した瞬間に俺が奴の能力を止める。制限の10秒間の内に一番距離が近い者が丸裸のネロの首を飛ばせ。」
マキージュは数ある中でも異質な奇能石の扱いに特化した能力の持ち主だった。緑色の騎士の頃は奇能石の感知能力から始まり、発掘作業はマキージュの出現で大幅に効率化が進んでいた。そして赤色まで高めたその魔力は奇能石の力の一時的な向上や、その逆で機能を一時的に止める事まで出来る様になっていた。
カメル「それだけありゃ余裕ですよ、、!俺が仕留めます。」
9人が再び強く覚悟を決めて城へ乗り込もうとした時にそれは起こった。
ネロ「じゃあ、厄介そうな君を初めに消した方が良いのかな?」
マキージュの影からネロが突如として現われ、その首を一瞬で掻き切った。
あまりに突然の出来事に皆一瞬だが動きが止まっていた。
ダン「ネロぉぉぉ!!!!!」
すぐに状況を理解したダンの咆哮とともにネロの足元から巨大な蔓が生えてくる。
ネロの動きを封じる為のとっさの反撃だったが、ネロは再び影の中に姿を隠しそれを躱した。
ネロがいなくなった事を確認すると首に致命傷を負ったマキージュに向かってカーディーが走り出した。
ゼス「く、、!我々の影の中にさえ潜む事が出来るのか!?であれば、、ナーリン!!」
ナーリン「分かってます、、。」
ナーリンが瞳を閉じ手を上げると全員の体に薄くバリアーが張られた。
カメル「なるほど。これでとりあえずは奇襲でやられる事はない、、か。」
ダン「やはりこれがネロの戦い方のようね、、。影の中から敵を監視し、油断した瞬間に冷酷に命を奪う。そしてそれだけじゃない。広場の住民を一瞬で殺したように、おそらくどこかで大技も繰り出してくる。」
すると後方でマキージュが再び立ち上がっていた。さらに首の傷は何事も無かったかのように綺麗に繋がっていた。
マキージュ「、、油断した。すまなかったなカーディー、、助かった。」
カーディー「ダンがすぐにネロを追い払ってくれたからあなたを救えたのよ。もう少し遅れていたら危なかった。」
ダン「本当はあそこでネロを捕らえたかったんだけどね。何はともあれ、マキージュも無事ならここから仕切り直しよ。さっきからいいようにやられっぱなしで、いい加減気持ちに火がついて来たわ!」
するとしばらく黙っていたコウシが口を開いた。
コウシ「シンズラー様はネロを始末した後は再びこのミルドラ城を第2都市とすると言っていましたが、"二兎追うものは一兎も得ず"になってしまってはこの遠征に意味は無くなりますよね。」
コウシの体を強烈な雷が包み込み、そのエネルギーが左腕に集まっていった。
ゼス「、、!?まさかお主!」
コウシ「ネロがここまで厄介な敵だと分かれば、我々は何としても奴をここで葬らなければならない。そして今我々が足踏みしている理由、、それはこの城の存在です。」
ダン「なるほどね。まぁ、後で何を言われるか分かったもんじゃないけど、そこは私が責任を取るから、、
やっちまいなさい。」
コウシがニヤリと笑った。そして勢いよく左腕を城に向けて伸ばす。
コウシ「さすが、、ダンさんですっっ!!!!」
するとコウシの腕から凄まじい威力の広範囲に渡る光線が放たれた。
その攻撃は確実に城を打ち抜き、眼前に不気味にそびえ立っていたミルドラ城は跡形もなく消え去った。
ーーーミルドラ城 近辺の森ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シンズラー「城が跡形もなく消え去った。あの凄まじい魔力はコウシか?」
目の前で突如起こった予想していなかった衝撃に兵達も騒ついていた。
シンズラー「これも現場が判断した必要な事だったんだろう。奴らの判断は信じておる、、。しかし全員ちゃんと無事なのであろうな?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
辺りを包んだ強烈な砂埃の中から、徐々に赤の騎士たちが姿を表した。
カーディー「ゴホ、、ゴホ!!なんてめちゃくちゃなのよあいつは。」
ナーリン「しかし、これでネロが隠れる場所も消え去った。後は奴と正面から対峙するのみだ。」
そして辺りの砂埃がほとんど消え去ったその時、城の跡地に不可解な物があることに気づいた。
フォーバック「あれは、、ベット?それも2台ある。」
闇のバリアーに守られたベットの上には見覚えのある顔の女性が横たわっていた。
ダン「あれは、、リラじゃ!!!」
もう一台の上に横たわる男に見覚えは無かったが、女性の方はかつて国が処刑を実行したリラだった。
ゼス「やはり、、ネロが死体を持ち去った犯人じゃったか。」
カーディー「、、、それでネロは!?一体ネロはどこにいるの!?」
カメル「最後の力で妹を守って、本人は今ので死んだんじゃねぇか?」
その場は不気味なほどの静寂に包まれていた。しかしその沈黙は突如として"あの男"によって破られる。
ネロ「お前らにとってはそれがベストだったろうな。」
一同はその声に反応して上空を見上げた。そこにはネロと見慣れた2人分の鎧が目に入ってきた。
パルラ「、、コウシ、、マキージュ、、?」
そこには巨大な黒の翼を生やしたネロだけではなく、ネロが両手に持つ深い闇を纏った剣にそれぞれ貫かれてすでに絶命している2人の仲間の亡骸があった。
ネロ「全く、、物騒な真似をする。そしてこのマキージュとかいう男。日に二度も同じ相手の奇襲を喰らうなんてね。大そうな鎧を来てるからあんた達9人は精鋭兵だと思っていたけど、そうでもないのかな?」
その言葉に真っ先に赤色の騎士最年長のゼスが反応した。
ゼス「この小僧がっ!!しかし姿を現した以上、これからはこちらの番じゃ!!フォーバック!!」
フォーバックが自分を含め残った赤の騎士全員の体を能力で持ち上げ空中戦をネロに仕掛けた。
ネロ「ほう。この人数を一気に操るのか、、。それに空中なら自身の影から奇襲され無様に殺される心配もない。良い戦略だと思うぜ。」
ネロはコウシとマキージュの死体を無造作に地面へ捨て、残りの赤の騎士を笑って眺めていた。
ナーリン(恐るべきは、、薄く張っていたとは言え通常破壊されない守備用の私のバリアーの防御をいとも簡単に貫いた奴の攻撃力。奴の奇襲だけは絶対に阻止しないといけない。)
ゼス「フォーバック、いつも通りじゃ!ワシらの操作は任せたぞ!!」
ゼスの号令と共に戦闘が始まった。まずはゼスが勢いのままにネロに向かっていく。
ネロ「じじいめ、、これだけ味方がいて1対1で闘う気か?」
臨戦態勢をとったその時、ネロは向かってくるゼスが俯きながら笑っている事に気づいた。
カメル「んな訳ねぇだろ、、!」
ネロ「!?」
ネロの後ろに突如カメルが現われ、そのまま背負っていた金色の槍でネロを貫いた。その衝撃でネロが湖の中にまで吹き飛ばされた。
ネロ「く!!??(俺は確かに奴らを全て視界に入れていた!なんの能力だ!?)」
ネロは思考のまとまらぬまま体制を立て直し再び地上に戻ろうとしていたが、次はパルラの能力がそれを許さなかった。
ネロ「!? 、、なに!? (重力を操る奴もいるのか、、体が動かねぇ、、)」
パルラは湖の中に両手を入れながらネロの状況を見ていた。
パルラ「ふ、、潰れて死んでもおかしくない重力のはずだが大した奴だな。だが、これで終わりだ。」
機械で出来た右腕から無数のレーザーが高速でネロに向かって飛び出した。
パルラ「ちなみにこのレーザーは追尾式だ。どのみち動けんだろうが、、そのまま死ね。」
激しい爆音と共に大量の湖の水が辺りに飛び散った。
ゼス「最後は呆気なかったの。ようやったぞカメル、パルラ。」
カメル「まさか奴も俺が分身だったって事は気づいてなかったでしょう?あっちは新手の敵の気配もなくシンズラーさんの護衛も必要なさそうだったから、良いところだけ貰いに来ましたよ。」
カメルの能力は分身。実はこの戦いで彼は初めから分身を前線に送り、本体はシンズラーの護衛を行なっていた。
パルラ「手応えも十分あった。危険な相手だったがもう波乱はないだろう。」
ダン「じゃあ、そろそろ下りましょうか?ネロの死体も一応確認しなきゃ。」
地上に降り立つ途中で、全員がその異変に気づく。
カーディー「湖が、、黒くなっていく、、。」
ゼス「まさか、、。奴はまだ死んでいないのか?」
全員の感じた悪い予感は当たってしまった。しかもそれは予想以上の悪夢であった。
カメル「おい、、誰だよ、、?あれ?」
視線の先には湖からゆっくりと姿を表した見覚えのない敵が宙に浮いていた。
今まで対峙していたネロは若い青年だったが、次に姿を表したのはその真逆の老人だった。
ダン「警戒なさい。誰かは分からないけど、この距離でも奴の魔力が普通じゃない事は分かるわ。」
ダンが全員の気を引き締めたその瞬間だった。パルラの体が真っ二つに分かれ、そのまま地上に落ちていった。
一同「!!!???」
ゼス「なんじゃ今のはっ!!、、、!?」
ゼスが話し終わる前にその体は両断された。
ダン「パルラ、、ゼス、、?」
一瞬で2人を失った赤色の騎士たちはあまりの混乱から身動きが取れなくなっていた。
カメル「なんだよこれ、、!どうなってんだよ?あいつはあそこから動いてねぇぞ。」
いつも強気なカメルの声が震えていた。
ダンの顔からも大量の汗が溢れ出ていた。
ダン「(いけない、、このままでは全滅する、、!)ナーリン!まずは全員に、、すぐにバリアーをっ!」
振り向くとナーリンの体が両断される瞬間だった。
ダン「、、ナー、、リン?」
フォーバック「どうすれば良い、、?こんな敵、戦いようがない、、。」
あまりに異様なこの状況に百戦錬磨のダンは初めて恐怖で吐き気さえ覚えていた。
ダン「撤退よ、、。ここまで力の差があるなんて想定もしていなかった。あれは、、人を超えている。」
フォーバックに向かってこのまま飛んで逃げるように指示を出そうとした時、死神は次の標的をダンに決めていた。
闇の老人「逃すわけなかろうが、、」
遠くにいたはずの老人が突如目の前に巨大な鎌を持って現われた。その姿は透けており敵の能力だと悟ったと同時に、ダンは皆を殺した正体はこれだと確信していた。
ダン(これがあいつの魔力か、、。でももう駄目、、これはかわせない。)
自らの死を悟ったダンが覚悟を決めて静かに目を瞑ると突如後方から突風が吹き荒れ、老人の幻影を消し飛ばした。皆を殺し続けた悪魔は風の中にそのまま消えていった。
??「あれが"サタン"の持つ技の一つです。サタンの作り出す幻影は魔力じゃないと打ち消せない。」
ダンが振り向くとそこには眼鏡をかけた少年が雲の上に乗っていた。
ダン「あんたは、、?」
ミストラ「僕の名前はミストラ。これ以上の話は後です!少しの間ですが時間を稼ぎますので、すぐに撤退して下さい!」
次回〜南西へ〜




