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破国の召喚神   作者: 松本 豊
23/28

〜ネロ⑤〜


ネロは城下町に到着した。


激しい怒りのままに城内へ乗り込もうとしたが、広場に多くの人だかりが出来ている事に気づいた。


「なんだ、、?」


ネロは全員が見ている方向へ目を向けた。


「リ、、ラ、、、、?」


そこには磔にされたリラの死体があった。

体には無数の傷があり、ここで公開処刑された事は明らかだった。


ネロの頭は真っ白になった。


近くの住民達の会話が耳に入ってくる。


「酷いな、、こんな少女が奇能石を盗んだ罪で、見せしめに殺され、今も晒されているなんて、、」

「これは俺たちに対する国からのメッセージさ。奇能石に一般人が手を出すとこうなるってな。」

「いい気味じゃねぇか。奇能石を手に入れようなんてろくなやつじゃねぇんだ。」


ネロの中で邪悪な感情が急速に膨れ上がってた。


「いつも、、、いつも、、、、いつも、、、」


「、、何様なんだお前らは、、、」


過去に自分を殺そうとし、ミルドラ場では仲間を皆殺しに、そしてついに妹を殺した国王軍。

リラの遺体の隣にはその権力を誇示するかのように国王軍の旗が風になびいている。


それを見たネロの体内から邪悪な魔力が溢れ出していた。


それに気づいた住人達が一斉にネロに注目し恐怖に慄いた。


「な、、なんだこいつは!?」


ネロの影が地面いっぱいに広がった。そして両手を上にあげると、そこから無数の槍状の影が飛び出し、人々を貫いた。


その瞬間、ネロの体内であの声が不気味に響き渡った。

(ははは!素晴らしいぞネロ、、!)


ネロはその魔力でその場にいた人間を全て殺した後、城へは攻め入らずに虚ろな目でリラの死体を抱きかかえミルドラ城に戻った。


ーーーミルドラ城ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リラを抱えたまま、ネロは静かになった暗い城内の仲間の死体の中を歩いた。


ネロはリラとハクセイを同じ部屋のベットにそれぞれ寝かせ、再び仲間の死体が横たわる広間へゆっくりと向かった。


そこでネロは呟く。

「俺は間違っていた、、。国が暴走をしたらその時止める、、?俺はもうあんな奴らが腐っているなんてとっくの昔に知っていたじゃないか、、。」


目の前に広がる闇に向かって語り続ける。


「なぁ、ハクセイ。俺、自分の夢を間違えていたよ。俺たちの夢は奴らの対抗勢力になる事なんかじゃなかった、、」


仲間達の死体が次々に闇に吸い込まれていった。


「リラ、、最後まで兄ちゃんは間違ってばかりだったな、、。結局俺はお前を殺してしまった。」


次の瞬間ネロの影から吸い込まれていた仲間が次々と姿を表した。その顔に生気はなく、体を闇が纏っていた。


「何が正しい?」

「俺は何をすれば良かった?」

「、、、もうどうでも良い、、」


ネロが手を上げると、仲間達に闇の羽が生えて飛び立って行った。


「全てを壊せ、、、同胞達よ、、、。」


ーーー現代 クロノスの空間ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ネロ「俺はあなたに感謝してるんですよ。ここまで強くなれたのも、ここでのあなたの修行のおかげですから。」


クロノスが血を吐き出す。クロノスの苦悶の表情が受けたダメージの大きさを物語っていた。


ネロ「でもね、、それ以上にあの時リラを安易に外界に出したあなたが許せない。」


クロノス「あれはリラも望んでいたことじゃった!己の魔力を高め強くなる事でなく、城の仲間がいかなる時も自分達を支えてくれるよう絆を深める事に時間を使うことを選んだ!全ては、リラなりに変わりゆく兄をしっかりといつまでも側で守る為の、、、決意じゃった、、その考えをワシは否定することなどできんかった!」


ふと気づくと先ほどまでネロが放っていた歪な魔力が消えていたのをクロノスは感じた。

普段の顔に戻ったネロの目には涙が浮かんでいた。


「クロノス、、俺はずっと考えているんだ、、、あの時、、いや、俺は生まれてきてから、何をすることが正しかったのか?何をすれば、妹を幸せに出来たのか、、」


「ネロ、、?」


「ずっとずっと、、考えていた。全てを失った俺は何をするべきなのか。そして、やっと分かったんだよ。」


場が静寂に包まれた後、ネロの体内からこれまでとは違った質の邪悪な魔力が溢れ出し、あたりを闇が包み始めた。


「サタンの軍を従え大陸中の人間を殺し、俺が新しい神になる、、その後クズどもは従順なる俺の奴隷として生き返らせて、この俺がこの狂った世界を管理してやる!!」


ネロが不敵に笑い、クロノスに再び攻撃を仕掛ける。その時同時にネロの首に巻いてあった包帯が取れた。


クロノス(この痣は、、!かつてこやつに感じた違和感の正体が、、まさか"こやつ"とは、、!)


ネロ「クロノス!神は何人もいらねぇ!!こんな場所ももう必要ねぇ!!今すぐに殺してやる!」


猛攻の最中、闇から巨大な槍が現れクロノスを貫く。

クロノスの生命力がさらに弱まっていった。


ネロ「ククク、、神を奴隷にするってのも面白いなぁ、、、」


絶体絶命の状況。しかしクロノスは近づいてくる強い光をかすかに感じていた。


(これは、、まさかレオンが、、目覚めたのか?それにしてもこれは、、、)


その刹那、覆っていた闇を光が切り裂いた。


ネロ「なに!!?」


ネロが見上げた視線の先には、強力な魔力を有したサラマンダーがいた。


(あの大炎を纏った姿、この魔力、、馬鹿な、、俺を封印した300年前の状態に戻っているのか!?)


それ以上は考える間も無くサラマンダーの猛攻がネロを襲う。


ネロ「(ククク、、クロノスの空間とはいえこの短期間でな、、。レオン)面白い!相手をしてやる!!」


そういうと自身の影の中から闇を纏った剣を取り出し、応戦した。

ネロとサラマンダーが戦っている間、レオンとミストラはクロノスの元に駆け寄る。


レオン「クロノスさん!大丈夫ですか!?」


クロノスはレオンを優しく見つめる。


「あぁ、お前のおかげでな。レオン。しかし、まさか"お前も"一度の修行で奇能石が赤にまでなり、サラマンダーの力をあそこまで引き出したとは、計り知れぬ天才だのぉ。」


2人はその声からクロノスの力が大きく弱っていて危険な状態だとすぐに理解した。


レオン「、、クロノスさんがマルマと出会わせてくれたおかげです。」


ミストラ「それよりクロノス様!杖を持ってきています!レオンを呼び戻すためにあれを置いてくださったからネロにやられているんでしょう!?」


クロノスはミストラから杖を受け取った。


「ミストラよ、悪いが、純粋にネロの力はワシを超えておる。今ここで奴に勝つことは出来ん。」


レオンとミストラはクロノスの口から出た劣勢の理由を聞き驚愕した。


レオン「ネロの力とは、、そこまでのものなのですか?」


クロノス「そして、今はサラマンダーも互角に見えるが、たった一人ではいずれネロに力で押されてしまう、、。」


ミストラ「そんな、、!」


クロノス「しかし、奴をこの空間から退ける方法はある!」


クロノスは力強く杖を握り直した。そして叫ぶ。


「ネロ!!」


「!?」

戦いの最中ネロが振り向くと、杖をこちらに向けたクロノスが立っていた。


『ディケイド、、!』


クロノスが呪文を唱えると、ネロの体に徐々に時計が浮き出てきた。


ネロ「なんだ!?何をしたクロノス!?」


クロノス「ワシの禁術じゃ。お主がいかに不死身であろうと、少なくとも10年後に必ず"消滅"する、、」


ネロは一瞬動揺したが、状況を整理しすぐに冷静さを取り戻していた。


ネロ「10年とは随分悠長な技だな。その10年間で対処法はどれだけでも考えられるさ。」


クロノス「、、、外界ならな、、」


クロノスが杖をかざすと、ネロに浮き出た秒針が凄まじい速さで動き始めた。


「しかしここはワシの空間。お前の時間を早送りすることなど造作もない、、!」


ネロの頬に初めて汗が伝わった。

(なるほどな、ここでこのままサラマンダーと戦闘を行えば、俺は程なくして消えるか、、クロノスめ!)


クロノス「この空間にはもう近づかぬ方が良いぞ、、早死にしたくなければな、、」


ネロ「ち、、、」


ネロは戦闘を解除し、自らの使用した時空の狭間に向けて飛び去って行った。


サラマンダー(クロノス!!大丈夫なの!?)


ネロを退けた後、3人はクロノスの元に集まっていた。


クロノス「まだ死なんさ、、それより、一度家に戻ろう。」


杖をかざすと家に一瞬で戻る事が出来た。


そこにはリンナとシンディアが家から出て待っていた。


リンナ「クロノス!?、、なんだその傷は!無事なのか!?」


重症のクロノスにリンナも駆け寄ってきた。

シンディアもその様子を怯えながら遠くで見ていた。


クロノス「ワシは大丈夫だ、、。それより、早急に話しておく事がある。」


全員がクロノスに注目した。


「レオン、ミストラ、、あれがネロ、、今や奴の力は神を凌ぐ。それは奴の力だけではない、どういう訳か奴の中には"魔王サタンの血"が確実に流れておる。」


ミストラの顔から血の気が引いていった。ネロと出会った時に感じた強力な魔力の正体が、あろうことかサタンのものとは想像もしたくなかった。唯一記憶の中でサタンと戦った彼は事態の深刻さを誰よりも早く理解した。


ミストラ「サタンの力が真に目覚めた時、今の世界では取り返しのつかない事になる、、!」


クロノス「その通りじゃ、、。じゃが、奴の力はまだまだ安定しておらず、完全なるサタンの力の目覚めまではまだ時間があるだろう。だからレオンとミストラ、まだここでの修行時間に猶予のあるお主達をもう一度、ある過去に同時に飛ばす。」


レオン「ある過去?」


クロノス「300年前のネロの軍と国の戦争じゃ。」


修行の地を聞き驚く2人にクロノスは続ける。


「大陸の歴史の中で最激戦の戦いとなった戦争じゃ。そこでかつての人間達がどの様にあのネロを封印するに至ったのか見届けて来い。さらにその中でミストラは奇能石を赤色の力まで必ず引き上げろ。そしてレオン、お主はそこでヘルツォークという人間に会い、行動を共にするのじゃ。」


レオン「一体、それにはどんな意味が、、、」


クロノスは遮るように杖を2人にかざす


「それは行けば分かる、、。残り3年、、もし3年経って修行が終わらなかった場合、途中で強制的に外界へ戻される。しかし、前回ほど時間はないが今のお前達の実力ならば事の顛末まで見届けられるじゃろう。頼んだぞ。お主達の更なる覚醒なくしてこの戦いに勝ちはない。」


その言葉を受けた後、2人は再び気を失った。


リンナ「それで、私はどこに行く?」


クロノス「ふふ、お主はここに残れ。お主の修行は終わりじゃ。シンディアと共にこの場に残り、その成長を見守れ。」


リンナ「な!ふざけるな!さっきの話を聞いて何もせずにいろというのか!?」


クロノスは笑った。


「フォッフォ!お主の気持ちは分かっておるよ!何も過去に行かずともここでも長い期間鍛えることはできる。それと、お主には大切な仕事を頼みたい。」


ーーー300年前の世界ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レオンは見覚えのある森の中で目覚めた。


(ここはバルストレス城近くの森だ、、。)


そして辺りを見渡したが、ミストラの姿はなかった。


「同じ場所に来る訳ではないのか、、」


まずは城下町に向かおうと歩いていると、徐々に悲鳴や怒号の混じった声がする事に気づいた。


「何かあったのかな?」


レオンが走って声の方向に向かうと、広場の周りに人だかりが出来ていた。そして人々の視線の先に広がる光景にレオンは言葉を失った。


多くの人々が無残にも惨殺されていたのだ。その死体は全て何かによって貫かれており、中には判別が出来ないほど損傷している人もいた。


「一体どうなっているんだ!?」

「犯人を早く捕まえろ!国王軍は何をやっているんだ!」

「ひどすぎる、、人間の所業ではない」

「奇能石を盗んだリラという女の死体もなくなっているぞ!どうなっているんだ!」


集まった人々の怒号は止まる事なく続いていた。


ここで何か異常な事が起こったのは間違いないが、レオンは状況の把握のしようがなかった。


(どうなっているんだ?一体誰がこんな?、、、まさか!)


レオンの頭に一人の男の顔が浮んだその時、上空に黒い羽の生えた生気のない顔の男が2人現れた。


「な、なんだあの2人は!?」

「黒い羽、、!?」


人々が動揺する中、上空の1人が突如手から火の魔法を放った。


レオン「なっ、、!!」


その炎は1人の住民に辺り、周りは混乱に包まれた。

その様子を見て上空の2人は高笑いをしている。


レオン(くっ!あの2人早くなんとかしないと!!)


しかし次の瞬間、何者かの一閃によって上空の2人の体が突如2つに別れて消滅した。


それを見た住民の1人が叫んだ。


「あれはヘルツォーク様の召喚獣"ボーガ"だ!」


2人を切り裂いたのは巨大なライオンのような生き物だった。そしてその背中には王国騎士の鎧を身に纏った騎士が乗っていた。


「ヘルツォーク様!ヘルツォーク様!」


先ほどの絶望の表情から一転してその男を見る住民達の瞳は光り輝いていた。


その男は住民達に向かって手を上げると、住民達の熱気は一層高まった。


ヘルツォーク「皆!遅れてすまなかった!しかしここは未だに危険だ!王国軍がすぐにここに配置される故、各自の家に戻って待機していてくれ!!」


皆がその指示に従ってそれぞれの家に戻って行った。


しかし帰る家のなかったレオンだけはその場に止まっていた。


ヘルツォーク「どうした少年も避難してくれ!?、、ん?いや君は見ない顔だな。一体、、?」


すると、ボーガと呼ばれるヘルツォークの召喚獣がレオンの元にゆっくり歩み寄ってきた。


「どうした!?ボーガ!いかん、少年!危ないから逃げてくれ!」


しかしレオンはその場を一歩も動かずに、笑顔でボーガを受け入れた。そしてボーガも笑顔でレオンの頬をなめた。


その光景を見たヘルツォークは言葉を失っていた。


「あの凶暴なボーガを一瞬で手懐けただと!?一体、、本当に君は何者だ?」


レオンが挨拶をしようとした時、次は10人程の黒い翼の人間が現れた。


「挨拶は後だな、、。少年、ボーガを一旦君に預ける。一緒に戦ってくれないか?」


ボーガの背をレオンに譲った後、ヘルツォークは杖を取り出して上空にかざした。


レオン「あ、あの杖は!?」


ヘルツォーク「"召喚獣ガルーダ" 俺の呼びかけに応じてくれ。」


すると上空に穴が空き、そこから雷を纏った怪鳥が現れた。


そしてヘルツォークはその背に飛び乗り、敵を迎え撃つ。


「少年、、一瞬で終わらせるぞ!」



次回〜ヘルツォーク〜


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