〜ネロ③〜
あの日の軍の結成から早くも1ヶ月が経っていた。
奇能石を渡された兵は、それぞれが自身の能力を時間をかけながら把握し使いこなせるように修行に励んでいた。さらに元々屈強な男達であった為、それぞれがすでに高い戦闘力を持っていた。
その様子を見守りながら、ネロと副隊長となったハクセイがある作戦を話し合っていた。
ネロ「湖上の城ミルドラ?」
ハクセイ「あぁ、ここからさらに北に進むと存在する、かつて第2の都市と呼ばれた城だ。思うに、俺たちには新たな住処が必要だ。王国と対等になろうってのにいつまでもこんな場所で原始的な生活を送る訳にも行かないだろう?」
ハクセイの話ももっともだった。ネロも住処の問題に関しては早急に解決したかった問題でもある。
「で、そのミルドラには今誰も住んでいないのか?」
「何もいない訳じゃない。かつてミルドラを滅ぼしたオーク族が城内を、海龍族が湖内を未だに占拠している状態だ。国王軍も余計な被害を恐れて奪取には向かっていないと言われている。」
「オーク族の存在は街で少し聞いたことがある、、何でも年に数回街で奴らの被害があるみたいだな、、。」
ネロは決して好き好んで争いがしたい訳ではない。しかし、拠点が必要な現実が確かにある、、相手は人々の生活を脅かすオーク族、、ネロは少し間をおいて決心した。
「ハクセイ、とりあえずはこのまま3ヶ月間修行を続け戦力を整える。その後城を奪うぞ。そこが俺たちの初陣だ。」
「了解だ」
ネロはその旨を全兵に伝えた。元々血の気の多い事に加え、新たな力を手にした兵達は戦いが待ちきれない様子だった。
軍の士気は結成時から依然として高く、まさにネロの理想通りに事は進んでいた。しかし、そんな中ネロには一つだけ気がかりがあった。この軍を結成してから、ずっとリラの元気がなかったのだ。
ネロは木陰で休んでいるリラに目を向けた。
(リラ、、俺は、、俺の夢の達成はこの大陸の未来の為に本当に必要な事だと思っている、、今は理解出来ないかも知れないが、、きっとまた昔みたいに笑いあえるように、、、必ずする。)
ーーー3ヶ月後ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「準備は良いか!?」
ネロの軍はミルドラに進行する為に全兵を集めていた。
ネロ「過酷な訓練だったが、皆よく頑張ったな。これより奪うミルドラ城が俺たちの新しい拠点となる。より強固な軍になる為の重要な一戦だ!!心してかかるぞ!!」
ネロはこの数ヶ月で立派なリーダーとなっていた。ネロの鼓舞に対して
部下から大きな歓声が上がる。
しばらく北上を続けると、眼前に巨大な城が現れた。
「これがかつての第2都市ミルドラ城、、、」
想定よりも巨大な城だったが、ネロは号令をかけた。
「城にはオーク族、周りの湖には海龍族がいる!!倒すべきは奴らだ!かかれ!!」
この号令と同時に開戦した一戦は、不意をつかれたオーク族・海龍族相手に初めは攻勢をかけたが、徐々にネロの軍は目に見えて押されていった。
ハクセイ「思ったよりオーク族が強いな。」
各地で煙が上がり、戦闘はより加熱していく。
後方で戦局を見ていたネロとハクセイは相手の予想外の抵抗を目の当たりにして少しずつ焦りが出てきていた。
ハクセイ「第2陣の投入で海龍族の方はほぼ仕留めたが、城からまだオーク族が出てくる、、。もう第3陣を出すぞ!」
ネロ「あぁ、、ここが間違いなく正念場だ。俺も第3陣に入って突入する。ハクセイ、リラを頼む。」
ハクセイ「な、待てネロ!!ならば俺が!」
ネロ「お前の力は乱戦向きじゃない。俺に何かあればお前がこの軍を引き継いでくれ。頼んだぞ、親友。」
リラ「お兄ちゃん!!」
ネロはリラを微笑んで見つめ、その後第3陣を率いて出撃した。
城との距離が近づく中で複数のオークがネロの存在にに気づく。
すると、先程までの猛攻が嘘のようにオーク族の攻撃が突如止まった。
ネロの兵「な、なんだこいつら急に、、?」
その場にいる誰もが何故急に攻撃が止んだのか状況を理解出来ずにいた。
ネロが戦の最前線にまで到着した直後、敵の大将であろう一際巨大なオークがネロに話しかける
「お前、何者だ?」
「お前は喋れるのか?我々は訳あってこのミルドラ城をいただきにきた。」
オークはネロの話に被せるように大声で叫んだ!
「お前"達"ではない!お前は何者なのだ!? 、、何故お前は"サタン様"と同じ痣を持っている!?」
ネロは久しぶりに聞いたその名前がオーク族の口から出てきた事に驚いていた。
長年謎だったサタンについて何か分かる絶好の機会と思ったネロは対話を試みる事にした。
「、、皆、一旦武器を下ろしてくれ。この者達と少し話をする。」
ネロは簡単にオーク達に自身の過去や今回城を攻めた事情を説明した。
すると交代でオークもその一族の過去を話す。
「サタン様はかつての我らオーク族の主だ。古のゼウスとの戦いで天界を制した後、下界の征服をこの地方から実行するつもりだった。そして"とある理由"でこのミルドラ湖に拠点となる城作りを命じられた。しかしサタン様がゼウスに敗れた後は人間に執拗に攻め込まれ、我々の祖先は滅亡寸前まで追い込まれた。その後人間は我々の先祖の作ったこの城をしばらく第2都市などとほざき繁栄していったが、再び力をつけた我々は海龍族と組んでここを奪い返した。
そして、俺たちは先祖代々引き継がれる重要な任務として不死であるサタン様の復活を信じ、今日まで城を確保し続けた。そしてその時がきた時の為に先祖から聞いていたのはサタン様の特徴の一つとして首に特徴的な痣があると言う事だった。先ほど言った通り、模様はお前と全く同じものだ。」
仲間達は真意の分からない神話の様なその話を聞きざわついていたが、サタンの存在を過去に経験を通じて認識していたしたネロだけは真剣な表情で最後まで話を聞いていた。
「なるほどな、、だが悪いが俺も先ほど言った通りだ。確かに俺にサタンの血は多少入っているかも知れんが、決してサタンではない。俺の目的はあくまでここを奪う事、つまりお前達にとっては敵だ。どうする?続きを始めるか?」
オークはネロの瞳をしばらく見つめた後に答える。
「いや、もうここで止めにしよう?、、そして、我々もお前の軍門に加えてくれないか?」
完全に予想外の提案だった。確かにオークが仲間になれば、戦力は大きく上がるが、、、
「なぜだ?お前達になんの得がある?」
「得はないさ。ただ、お前を見て思ったのだ。確かにお前はサタン様ではないが、我々が出会った唯一のサタン様を感じる存在なのも違いはない。そして正直言って我々も長い年月を経て目的を失いかけていた。であれば、お前と共に行動することが次に進む為の正しい選択の気がしてな。」
ネロはこの提案を素直に受け入れても良いか迷っていた。しかしオークが目的を失いかけていて、新たな道に進みたい気持ちは紛れもない真実だろうと思った。総合して考えた結果、危険なかけだとも思ったがオーク族を仲間にする事にした。多少の危険を考慮しても今後このオークの戦闘力は大きな力になると思ったからだ。
「良いだろう。では、城は俺たちが貰うぞ。」
そう言って歩みだしたネロとオークがすれ違う最中、オークの頭に声が入ってきた。
(よくぞ長い間、命令を守っていたなオーク族。)
オーク(これはまさか、、サタン様!?)
(そのまま黙って聞け、従順なる"我が"部下よ。ある仕事を引き受けてくれぬか?)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1日それぞれが休息を取った後、ネロの軍とオーク族が場内で揃っていた。
ネロが全員にオーク族が軍門に降る事を説明する為だ。
ネロ「という事だ。オーク族もこれより我々の軍に入る。」
昨日の突然の終戦の理由を知らなかった兵も多く、城内はしばらくざわめいていた。
ハクセイ「昨日殺しあっていた同士が仲良くなるとも思えんが、、」
ネロ「オーク族の真意はまだ分からんが、あの戦闘力は軍にとって貴重なものとなるだろう。俺も皆がいきなり仲良くやれるとも思わんが、、、まぁ、時間が解決してくれるさ。」
もっとも恐れていたオーク族とネロの兵の小競り合いも、オークの長が部下を上手く押さえ込んでいた為に起こらなかった。
ある程度軍内が落ち着いた後は戦いで崩壊した城の修繕や、人も住める場所となるよう場内の整理を早急に行う計画を立てた。
部下に指示を出すネロに対して、声をかける者がいた。
「ネロ」
その声の主はオークの長だった。
「城の修繕などは我々がやっておく。それよりお前には来てほしい所がある。」
そういうとオークはネロを地下の部屋に連れて行った。
「この城にこんな所が?」
「これがサタン様がこの地に固執した理由だ。ミルドラ湖の底にはこの時空の裂け目があったのだ。今からお前にはこの中に入ってほしい。」
「どういう事だ?」
「今後国王軍と争う事になった場合、我々では戦力がまだまだ足りない。奴らは強い。だから取り急ぎボスであるお前はその力を早急に強化する必要がある。」
「この中に入れば強くなれるのか?」
「この先には"時空の神 クロノス"がいる。奴の力でこっちの時間では3日間なのに、あちらでは7年間という時を最大で過ごす事ができる。しかもクロノスの修行付きでだ。」
ネロはオークの口から出てくる都合の良い話が信じられなかった。しかし、もしその様なことが可能であれば必ず行くべきだと考えていた。
「そんな事が本当に可能なのか?」
「あぁ、ただ俺たちはオーク族の者は条件が合わないから実際に修行を行った事はない。詳しくはお前が行ってクロノスに直接掛け合ってくれ。こちらの城の復興も3日あれば終わっているだろう。」
「条件、、?まぁ、それも行けば分かるという事か? 分かった。なら、俺と一緒にリラも連れて行きたいが、2人でもいけるのか?」
オークが問題ない事を伝えると、ネロは全員に事情を伝えた後に服装を変えた。オークの助言で念の為首の痣は隠す事になったからだ。首元の隠れる服装に包帯を巻いた万全な準備だった。
そして全ての準備を終えた後、リラを時空の歪みの前に連れてきた。
「リラ、この中に一緒に入ろう。ここに一人でいるよりも俺と一緒にいた方が安全だ。」
リラは突然の提案に戸惑ったが、ネロから状況を聞き2人でクロノスの世界へ入る事となった。
「では、オーク。後の事はハクセイと連携して指示を出してくれ。」
そう言い残しネロとリラは消えて行った。
オークはその姿を見届けながら、昨日のサタンの言葉を思い返していた。
(ネロをクロノスの元へ導け。奴の今の力では、ワシが出せる力は本来の100分の1にも遠く及ばん。ワシの完全復活の為には奴の魔力の成長は欠かせん事だ。)
オークは不気味な笑みを浮かべながら、作業に戻って行った。
ーーー クロノスの空間 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ネロ「ここが?クロノスの空間、、?」
リラ「なんか、、思ったより平穏な場所ね。でも空には、、時計?」
するとすぐに大きな声が聞こえてきた。
クロノス「なんじゃお前達は?修行が希望か?」
ネロとリラが振り向くと巨大な男が立っていた。
その威圧感にリラは腰を抜かしてしまった。
ネロはクロノスにここまで来た経緯を話す。
「まぁ、ここに来た理由としてはこんな所だ。それで、修行をすぐに頼みたいのだが、、」
クロノス「なるほどの。拒む事はせんが、まずはお前達の力を見せてみろ」
ーーー 2ヶ月後 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クロノスの世界に到着後にすぐにでも修行を始めようとしたが、長い間まともに休まずひたすらに突き進んでいた事でネロの体力は限界に達していた。
クロノスはネロの状態を即座に見抜き、しっかりと休養した後に万全の力で修行に入るため2人はクロノスの空間で久しぶりの穏やかな時間を過ごしていた。リラもクロノスと馬が合っており、久しぶりに生活が楽しい様子だった。
そしてこの日、万全の体調となったネロの修行がついに始まる。
ネロ「いよいよだな。で、修行ってのはなんなんだ?後はオークから条件があると聞いたが、、?」
クロノス「条件とは奇能石を所持し、その恩恵を受けておる事じゃ。故に奇能石が反応しないオーク達などはここでの修行は出来ない。」
条件を伝えた後にクロノスは再度奇能石の仕組みを教えた。そして修行は奇能石を媒体として時代を超えた場所に移動し行う事も。
ネロ「(どの時代にも行ける、、?)だったら、俺を送って欲しい時代がある。」
ネロはクロノスに自分の希望を伝えた。
クロノス「なんと、、!?確かにお主の能力を最大限強化するには、そこも一つの選択肢なのかも知れんが、、自ら修羅の道を歩むか、、」
一連の会話を聞いていたリラも不安を隠せないでいた。
リラ「お兄ちゃん、危ないよ!それにそんな所に行ったら、、、」
ネロ「俺は大丈夫だ。万が一にも俺自身が闇に飲まれそうになった時には、自ら命を絶ってここに戻る。そういうことも可能なんだろ?クロノス?」
クロノスは時間のロスにはなるが可能だと答える。
それを聞いたネロは再びリラに語りかける。
「俺の心配はするな。心は必ず俺のまま、何も変わらずに強くなって帰ってくる。それよりリラ、お前は大丈夫なのか?」
リラは俯いてネロの話を聞いていた。
クロノス「、、、、」
ネロ「リラ、これから国が暴走したらより強い敵と出くわす事になるかも知れない。その時、俺はお前自信で最低限その身を守れるようにもなってほしいんだ。幸いこの修行では死ぬ事はないみたいだし、お前にとってこんな機会は二度とないと思う。一緒に修行してくれるな?」
リラは少し間をおいて首を縦に降った。
ネロ「じゃあ、もう行く。お前の修行が先に終わってもここの方が無事だ。俺が戻るまで辛抱して待っててくれ。」
ネロは決意をした表情でクロノスを見上げた。
クロノス「もう良いか?、、、では、ネロ。行ってこい。」
クロノスが杖をかざすとネロは気を失ってしまった。
そして次はリラの番だったが、、
クロノス「して、リラよ。ワシはお主の本心を知りたい。ネロはああ言っておったが、修行の意思はあるか?」
リラは少し間を置いて次は首を横に振った。
そして涙ながらに心の内を話し始めた。
リラ「クロノス様、私は恐いんです。昔優しかった兄は何かに取り憑かれるように力を求めるようになってしまった。昔の温かさも近頃は徐々に感じられなくなってきた。強くなった兄はもしかしたら自ら進んで戦争を引き起こしてしまうかも知れない、、、それが恐いんです。」
クロノスはリラに向かって笑みを浮かべる。
「リラお主は随分綺麗な心を持っておるのぉ。戦いが生む悲劇もしっかり分かっておる。しかしな、、、敵が現れた時に一方的に奪われず、それぞれの大切なものを守る為には大きな力が必要な事もまた事実。だからワシはここに来た者の修行を基本的に拒みはしない。」
リラは涙を流しながらクロノスの言葉を静かに聞いていた。
「しかしお主は違う。この2ヶ月間お主達と過ごして分かったが、ネロは物事に対して素直で純粋、そして何より計り知れないポテンシャルと身体能力を持つなど修行で強くなる為に必要な要素を全て高い水準で持ち合わせておる。故におそらくかなりの強さになって帰ってくるだろう。恐らく1人でもお主を含めた仲間達をいつでも守れる程な。故に、無理に2人共強くなる必要もなかろう。」
それを聞いたリラの表情が少しだけ明るくなった。
リラ「クロノス様、、、ありがとう。私はやっぱりお城に戻って兄を待つわ。修行して自分が強くなる事より、この3日間でオーク族を含めたお城の仲間とたくさんお話したい。兄の事、みんなにもっと知ってもらいたいから。そして、兄が悪い事に手を出しそうになったら、私達が力ではなく心で説得する。」
クロノス「、、、それが良い。では、さらばだ」
そういうとリラの足元に時空の裂け目ができ、そこに吸い込まれていった。
クロノス(余計な事をしたかのぉ、、しかし、ネロ、、。自ら最もサタンの軍が強く猛威を振るっていた地獄の時代での修行を望むとは前代未聞じゃ。それに極端に純粋なネロは悪にも染まりかねん。行かせたのは危険な賭けじゃが、実際に本物の悪の思考の危うさを学び、自分はこうはなってはならないと心に刻んでこい。そして将来は心身ともに成長したネロと、リラを中心としたその仲間達が全ての悪を止める存在になる事を願っておるぞ。)
次回〜ネロ④〜




