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破国の召喚神   作者: 松本 豊
20/28

〜ネロ②〜


ーーーボルクの洋館事件から5年後ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


初めは事件の犯人と知られてはいけないと考え、長い間人との接触を極力避けた生活をしていた。そしてほとぼりの冷めた頃ネロは情報を求めてよく街へ出る様になった。


ノクシムにも簡単に騙されたように、この世界を生きる為に自分はあまりにも無知だと思ったからだ。情報を集める中でネロは奇能石の存在を知る。


ネロ「あの時鉱山でこの石を俺たちに探させていた訳か、、」


夕暮れ時、気持ちの良い風に吹かれながら今日もネロは書物を読んでいた。


ネロ「しかし、あっという間だな、、。もう5年も経つのか。」


そして不思議な事に、あの事件以降サタンの声も聞こえず力が溢れ出てくることもなかった。今となれば夢にも思える過去だが、ネロの首回りにくっきりと残る痣の存在があの出来事は現実だったのだと証明していた。


ネロ「そろそろ戻るか、、。」


ネロはポルクの屋敷から盗んだ金でリラと宿暮らしをしていた。


リラ「おかえりお兄ちゃん!」


今も昔も変わらない妹の笑顔にネロも心が安らぐ。


ネロ「ただいまリラ!今日も何もなかったか?」


リラ「うん!今日はアンおばさんに貰った本をずっと読んでいたの。」


ネロ「、、、そっか。」


ーーーその日の夕食時ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リラ「お兄ちゃん、どうしたの?ずっと考え事をしている見たい、、。」


ネロ「あぁ、ちょっとな」


ネロは人に特殊な能力を授けるという奇能石の存在が頭から離れずにいた。

(リラにいつ危険が降りかかるか分からない、いつも俺がそばにいれば良いが、リラに奇能石を持たせておくのも一つの手かも知れないな。)


食事を済ませたネロは、苦い記憶の残るあの鉱山へ再び出向く決心をした。


早速その日の夜中に鉱山に忍び込んだ。

実はネロはサタンの血を飲んでから、身体能力が大幅に上がっていた。そのネロが見張りの目を盗んで奇能石の塊を持って帰るのは至って容易な事だった。


明け方、ネロは奇能石を持って宿に戻ってきた。

宿の外ではリラが心配そうに帰りを待っている。


リラ「お兄ちゃん、一晩中どこに行ってたの!? それにそれって、、?」


リラはネロの手の中で綺麗な緑色に輝く鉱石に気づいた。


ネロ「これは奇能石って呼ばれるもので、身につけているだけで人に特別な能力を宿すと言われる代物だ。今からこれでお前用にアクセサリーを作るから、それをずっと身につけてろ。」


2人の会話に気づいた宿の主アンが中から出てきた。


アン「あら、ネロ君にリラちゃん!おはよう!」


リラ「あ、おばさん!おはようございます!」


すぐにアンもネロが手に何かを持っている事に気づいた。


「ネロ君、、その手に持っているものは、もしかして、、、」


「おばさんも奇能石を知っているのか?」


「いや、なんでもないの、、」


急に余所余所しい態度になったアンが気になった2人だったが、部屋に戻ってネロは早速作業に入った。


ーーー2時間後ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「出来た!!」


ネロは完成したネックレスをリラの首にかけた。


「なんか変わったか?」


「、、いえ、、特に、、」


ネロは不思議に思ったが、リラに奇能石を渡したかった思いを伝えた。


「とにかくなにか特別な力がこれで備わったのは違いない。次にもしどうしても兄ちゃんがお前を助けられない状況になったら、その時は自分の力で切り抜けるんだ。分かったな?」


リラは曇った表情で返事をする。


「分かった。でも、もうそんな事なんてずっと起きないよね?この生活がずっと続くよね?」


「それは、、、。あぁ、俺もそんな石を使う必要のない生活を願ってる。」


二人は笑顔でお互いを見つめ合った。


そんな空気を切り裂く様に外から大きな声が聞こえてきた。

「ネロとリラ!!出てこい!」


慌てて2人が隠れながら窓から外を見ると、国王軍が宿を囲んでいた。


ネロ「な、なんで!?」


さらに大きな声が聞こえてくる。


「国王軍以外の者が奇能石を持つことは重罪だ!!繰り返す!すぐに出てこい!!」


ネロは奇能石の所持に対してこれまでの罪がかけられることは知らなかった。


リラ「お兄ちゃん、早く出て奇能石を渡そう!」


焦るリラをよそにネロは状況の把握に神経を集中させていた。恐らく今朝、アンが国王軍に告げ口をしたのだろう。そして今後のこちらの対応だが、リラの言う通り奇能石を渡せば多少は罪は軽くなるかもしれない。


しかし、、、


ネロは国王軍を見て自身の過去を思い出していた。

5年前、自分を助ける事をせずに崖へ落とした兵と同じ装いの者達、、


ネロ「リラ、行くぞ!奴らは信用出来ない。」


リラ「えっ?」


そういうとリラの手を引き、宿の裏口から飛び出した。

しかし、すぐに逃げられると思っていたネロの予想とは裏腹に国王軍は裏口まで完全に包囲していた。


国王軍上官「この非国民どもが。警告に従わずにその上逃げようとは、この場で死刑で構わぬ!奴らを討て!」


号令と共に国王軍の兵の攻撃が始まった。その中で号令をかけた上官兵も即座に魔法を飛ばし、それはネロとリラに直撃したが特に変化やダメージはなかった。


ネロ(なんだ、、今のは!?)


その後、ネロはリラを抱えたまま相手の魔法を含めた猛攻から間一髪で致命傷をかわし続け、裏山

に逃げ込んだ。


ここにネロとリラの平穏な生活は突如として崩れたのだった。


リラ「、、、、」


ネロ「、、、、」


2人は逃げる中で見つけ、身を隠した洞窟で疲弊しきっていた。

そして辺りはすっかり暗くなっていた。


ネロ「ごめんなリラ。こんな事になるなんて、、」


ネロは強く自分の行動を後悔していた。奇能石の存在を知った際に、それを兵士以外が持つことに対してここまでの罪がかかる事までは調べていなかったのだ。またも自分の無知が引き起こした悲劇だった。


リラは黙っていたが、しばらくすると重い口を開いた。


リラ「、、私たち、幸せに暮らす事なんて出来ないのかな?」


ネロ「そんな訳ないだろ?今こんな騒ぎを起こしておいてなんだが、リラは絶対に俺が幸せにするから。だから、、、とりあえず今日はもう寝よう。」


そういうと2人は寄り添って眠りに入った。


まどろみの中、ネロは今日の出来事を思い返してある事を考えていた。


ネロ(それにしても奇能石を使った兵達の力、、思っていたより危険なものだった。それをあの狂った国王軍の連中のみが使える?それじゃあ、いつあいつらが独裁的な政治で無抵抗な民を苦しめるか分かったもんじゃない。)


自分のやるべき事が分かってきた気もしたが、現実的にそれを実行に移す事など出来なかった。


(いや、俺1人じゃ、出来る事が少なすぎるな、、今はまず明日からの生活の事を考えないと、、)



しばらくするとネロは人の気配を感じて目を覚ました。

そこには屈強な体躯の男が2人立っていた。


男A「なんだ、起きちまったか。そっちの女はいただいて行こうと思ったんだがな、、」


ネロは5年前、リンナが組織に売られた時の悪夢を瞬時に思い出していた。


ネロ(くそ、この世界にはクズしかいないのか、、!)


ネロは2人を睨み威嚇した。


「2人とも、今引き返すなら見逃してやる。だが、妹に手を出せば殺す。」


日中山を駆け回ったネロに十分な体力はすでになかったが、勝算はあった。今回も自身の血に流れる"悪魔の血"の力であの時の様に切り抜けられると思っていたのだ。


しかし、戦いが始まってもサタンの力が一向に目覚める事はなかった。


2人からの暴力で、ネロはすでに意識が飛びかけていた。

(まずい、このままだと、、リラ、、)


リラはそんなネロのやられる様を泣きながら見るしかなかった。


男B「どうしたガキ?お前を殺して女を奪って行くぞ?早く本気を出した方が良いんじゃねぇか?」


男A「面倒だ。ボスが待っている。もうさっさと殺そう。」


男は刀を取り出し、ネロの頭に向けて振りかぶった。


その瞬間


パキッ、、


男の手は氷に覆われた。


男A「な、なんだこりゃ!!?」


男達と同様に、ネロも目の前の状況に困惑していた。


ネロ「こ、これは?、、リラ?お前の力、、なのか?」


リラは涙ながらに男に手を向けていた。


リラ「お兄ちゃんをこれ以上、、傷つけないで、、!」


すぐに男の全身は氷に覆われた。


男B「な、なんだってんだ、、!」


男は逃走を図るが、そこにはネロが立ちはだかった。


リラ「お兄ちゃん!、、何を!?」


ネロ「おい、、アジトに帰るんだろ?俺も連れて行け、、そしてお前のボスに会わせろ。(いける、、リラの能力を見て驚くという事は、こいつらは奇能石を知らない、、。俺がこいつらを支配する。)」


リラ「お兄ちゃん、、?」


大怪我をしながらもどこか嬉しそうに避けられたはずの危険に自ら飛び込む兄の横顔を見て、その人格が徐々に冷たく変わっていっている事をリラは確かに感じていた。



ーーー 北東のとある山 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リラを近くに待機させ、ネロは男と2人でアジトに入った。

アジトとはいっても周りを崖に囲まれただけの天然の砦だった。


半裸の屈強な男がこちらを睨みつけていた。

瞬く間にネロは100人はいるであろう部下達に取り囲まれていた。


「で、お前はこいつに言われるがまま、ここに連れてきたって訳か?」


男の名はドルゲン。ネロ達を襲った賊のボスだった。


男B「しかしお頭!こいつらは妙な術を使ってボルドの奴を一瞬で凍らせちまったんだ!!普通じゃねぇ!!」


話終わるや否や、ドルゲンは刀で男を両断した。


ドルゲン「そんな馬鹿な話を誰が信じる!?」


ネロはドルゲンの部下に対する躊躇のない制裁行為を見て、明らかに不満を表した者が多くいる事を見逃さなかった。

その事からこの組織はドルゲンが独裁的な力で牛耳っていると確信した。


ドルゲン「で、お前は誰だ?ワシになんの用があってきた?」


ネロ「俺の名はネロ。そして俺はお前に用はない。」


ネロは周りの部下達を見回して叫んだ。


ネロ「お前達!!俺は今からこの者を殺す!!その後は俺がお前達の新たなリーダーとなる!」


周りは大きなどよめきに包まれた。しかし、その今訪れたばかりの余所者ネロの非現実的な宣言を聞いても、ネロに襲いかかる者はいなかった。


ネロは笑みを浮かべてドルゲンに語りかける。


「ふ、大将。全員異論はねぇみたいだから、さっさと始めようぜ?」


ドルゲンの表情は怒りに満ちていた。


「貴様、気は確かか?、、まぁ良いだろう、、すぐに殺してやる!!」


ドルゲンの初めの強烈な一刀を素早く躱し、ネロはドルゲンに向かって右手を向けた。

(リラが教えてくれた!この石を持っていれば、これで奴を凍らせる事ができる、、!)


ネロの懐にはリラに分け与えた奇能石の塊が入っていた。


しかし、何度試そうともリラのような氷の魔法は発動しなかった。

(な、、!?どういう事だ?)


その間もドルゲンの猛攻は止まらない。


「なんじゃ小僧!?何かやろうとしたか!?やはり魔法の力など戯言だったなぁ!」


ドルゲンの攻撃がついにネロを捉え始めた。


ネロ「く、、(なぜ魔法が出ない!?こんなはずじゃ、、俺はまた、、失敗するのか、、)」


激しい猛攻を繰り返し、存分に痛めつけたネロにドルゲンが近く。


「なんじゃ、この程度の力で先ほどのような事をほざいたのか?」


ネロはふらふらな状態で立ち上がり、ドルゲンを睨みつけた。

しかし、この状況下で振り絞った最後の戦意はどう考えても自分は助からないという絶望的な現実を目の当たりにして、すぐに消えてしまった。その後全身の力が抜け自然と笑みが溢れた。


「ふふ、俺なんて、、もう死んだ方がリラも幸せなのかもな、、」


ドルゲンも笑みを浮かべる。


「それが最後の言葉か、、、?では、望みを叶えてやろう!」


止めを刺す為にさらにもう一歩踏み込み、ネロの影をドルゲンが踏んだ時にそれは起こった。



ガクン!!!



ドルゲンはいきなり大きくバランスを崩し、武器の剣を手放してしまった。


一同は驚きの表情でその状況を見つめる。


部下「ドルゲン様が、、奴の影に埋まっていく、、?」


ネロも目の前の光景をただ眺めていた。


「まさか、、これが、、俺の力、、?」


下半身全てを飲み込まれたドルゲンは焦りながら両腕で地面を押し、力で脱出を試みるが全くの無意味だった。


最後はネロの足を掴んだが、ネロが手をかざすとドルゲンは凄まじいスピードで闇に消えた。


部下達のざわつきはしばらく止まらなかった。


部下「ま、まさかドルゲン様が本当にやられるなんて、、!」

部下「なんだあの力は、、何が起こった!?あの者は本当に魔法使いなのか!?」

部下「いや、それより、俺たちはドルゲンから解放されたのだ!!」


ネロは雑音の中で自分の能力の理解に努めていた。


(な、なんだ、、。俺の影に奴が飲まれて行った?死んだのか?)


部下達の興奮も冷め止まぬ中、一人の男がネロに話しかけた。


「ネロと言ったな。俺はドルゲンの側近だったハクセイだ。ドルゲンがいなくなった今、もう指示を出す者はいない。お前の望み通り、俺達はお前に付いて行こう。ここまでして叶えたいお前の目的はなんだ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そこからネロとリラは再び合流し、その日の夜はドルゲンの部下達と食事を囲んだ。


そこでネロは部下達からこれまでのドルゲンの悪政を聞き、部下のほとんどはそこからの解放を喜んでいると知った。

さらに部下の多くは両親もいなく1人だった所をドルゲンに連れてこられ長年奴隷のような扱いを受けていたという。


自分と似た境遇の者達の話に共感し、徐々に心を開いていったネロも自身の話を皆に語った。これまでの出来事、ここに来た経緯、そして奇能石について、、、


当初は自分の命令をただ聞くものだけを集められれば良しと思っていたが、時間が経つにつれネロは部下達を自然と仲間と思うようになっていた。


そして最後にネロは自身の目的を全員に話す。


「かつてまだ小さかった俺は王国の兵に理不尽に殺されかけた。そしてそんな奴らが今、奇能石の力を独占している。これは俺はとても危険な事だと思っている。今王国が何かのきっかけで暴走をしたら、それは誰にも止める事は出来ない。」


部下は真剣にネロの話を聞いている。


「そこで、俺はその時がきたら奴らに対抗出来るような強い"軍"を作りたい。この大陸の未来を奴らの好きな様にさせない為にな。俺はその協力者を増やすためにここに来た。」


ネロは次に懐の奇能石を取り出す。


「そして、俺に賛同してくれるならこの奇能石をお前達に分け与える。それでお前達は先ほどの俺の様な特別な力を手に入れることが出来る。今日よりこの"ネロの軍"は王国軍に匹敵する勢力となるべく突き進むんだ!」


人生で初めて明確な目標が出来た部下達は大きな歓声を上げた。恐怖により支配されていた見せかけだけの集団は、この瞬間ネロを中心とした"軍"に変貌した。


ネロはその様子を見て、今まで経験したことがない程に気分が高揚していた。


ネロ(同じ志を持った仲間か、、ここがこれからの俺の世界だ。さらに勢力を拡大し、俺もリラもこれからきっと幸せに暮らせる。)



次回〜ネロ③〜


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