〜ネロ①〜
ミストラとリンナはこれまでの経緯をレオンに話した。
レオン「なるほど。クロノスさんはネロと共にどこかへ、、、」
ミストラ「相手はかつて天界で猛威を振るった魔族達と同等の力を宿しているネロなんだ、、僕たちではどうにもならないよ、、。」
それを聞いたレオンはミストラに笑顔で話しかける。
レオン「確かにすごく強い力を感じるけど、とりあえず助けに行くよ。」
場の全ての人間誰もが驚く冷静な態度だった。
リンナ「しかし、行くとしても肝心の場所が分からないのではな、、」
リンナに対してもレオンは笑って話しかける。
「場所はあっちだよ。」
南の方向を指差しレオンは答えた。
2人はレオンの異様とも言えるどこまでも落ち着いた態度に驚いていた。
そしてそれはサラマンダーも同じ事を感じていた。
サラマンダー(レオン、、4年前とまるで雰囲気が違う、、それに、、、)
レオン「サラ!」
レオンは最後にサラマンダーに笑顔で語りかける。
サラマンダー(はい!?(サラ?))
レオン「サラはどう思う?ネロなんかに負けると思う?」
その言葉にサラマンダーは懐かしさを覚え、目には何故か涙が溜まっていた。
そして体中にかつての力が湧き上がった。
サラマンダー(全っ然!クロノスを急いで助けに行こう!!)
レオン「よし!!じゃあ、急ごう!」
サラマンダーの言葉にレオンは満面の笑みで頷いた。
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サラマンダー(行ってくるよ!)
サラマンダーの手はレオンとミストラが掴んでいた。そしてクロノスの杖はミストラの風で浮かせて運ぶこととなった。
シンディアを置いて行く訳にはいかないので、リンナは待機する事となった。
レオン「行ってくるよ!リンナ!シンディア!少し待っててね!」
そういうと3人は飛び立って行った。
その姿を見てリンナは呟く。
リンナ「レオンのあの自信、、つまり修行は大成功といったところか?まさか一気に赤色まで進化して帰ってくるとは、、どんな経験をしたのだ? 、、少し嫉妬するな。」
ーーークロノスの空間南部 ネロ 対 クロノス ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ネロ「ふふ、もう虫の息ですね。」
クロノスはネロの攻撃を受け、ボロボロの姿で横たわっていた。
ネロ「寿命では死なない神が最後は人間に殺されるなんて前代未聞でしょう。最後まで抵抗しないつもりですか?とはいえ、あなたの攻撃が今更俺に効くとも思いませんが。」
クロノス「ネロ、、、サタンの軍の復活など止めろ。ワシを恨んでいるのであれば、、ワシの死で、、お前の復讐はもう終わりにしてくれないか?」
ネロはクロノスの質問には答えず虚ろな顔で話し始めた。
「こんな空間もあなたが死ねば無意味なものになりますね。この空間は俺にとってトラウマであると同時に最後にリラと安らかに過ごせた場所なんです。ここに来たら300年も経った今でも多くの事を思い出し、呼び起こされてしまう、、俺に残る唯一のくだらない感情がね。だから、この場所は"あの日の記憶"と共に俺が消さなければいけないんですよ。」
クロノス「ネロ、、、」
ーーー 300年前 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある街
パン屋の主人「コラ!またお前かクソガキ!!」
少年はパンを盗み、スラム街の中を疾走していた。この少年の名はネロ。両親もおらず貧しかった彼は毎日妹に街で盗んだ食べ物を与えていた。
リラ「お兄ちゃん!おかえり!」
スラム街のゴミ山の中での暮らしはこの妹の笑顔だけがネロの生きる活力だった。
ネロ「今日はいつもと違うパンを"買って"きたぞ!美味しそうだろ!?」
リラ「うん!とっても美味しそう!」
これが少年と少女のいつもの日常だった。
しかし、ネロはこのギリギリの生活がもう長くは続かない事をすでに悟っていた。
そんなある日、一大勢力のマフィアのボス、ノクシムがスラム街に現れた。抗争の絶えない彼らは死んでも問題のない戸籍のない子供を兵隊としてスラム街から定期的に持ち帰っていたのだ。
ネロとリラはノクシム達の様子を遠くで隠れながら見ていた。
ネロ「見ろリラ!あれが噂のノクシムだ!」
リラ「なんかすごく怖そうだね、、」
ネロ「だが、あいつの仲間になれば、今よりもっと良い暮らしが出来る、今からあいつの所に行ってくる。」
リラはネロの提案に対して否定的だった。
リラ「待ってお兄ちゃん!リラはこのままで幸せだよ。」
ネロ「今は良くてもいつかは限界がくる!この生活から抜け出すチャンスはここで育った俺たちにはそうそうないんだ!」
そういうとネロは勢いよくノクシムの前に出て行った。
ノクシム「なんだ?このガキ?」
ネロ「ノクシムさんでしょ!?なんだってやる!だから俺を仲間にしてくれ!」
ノクシムはしばらく間を置いた後にネロに話しかける。
「まぁ、良いだろう。おい、このガキを連れて行け。」
「ま、待ってくれ!妹もいるんだ!!妹も一緒に連れて行けないか!?」
「妹だぁ、、?」
ネロがリラを呼び込むと、ノクシムは初めて笑顔を見せた。
「、、、良いだろう。妹も一緒だ。」
他にも連れていかれる人間を乗せた馬車にネロとリラは乗り込んだ。出発後、だんだんと遠くなっていくスラム街を見てネロはとても喜んでいた。
(これでこの生活から抜け出せる。)
先頭の車両ではノクシムが部下に指示を出していた。
「奴隷は全て"例の鉱山"の調査に行かせろ。奇能石とやらが出てきたらすぐに知らせるんだ。そして、、」
ノクシムは不気味に笑う。
「あのリラとかいうガキは高く売れる。買い手を探しておけ。」
ーーー ユリ鉱山 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ネロの最初の任務はユリ鉱山で緑色の石を発見することであった。
ネロを始め、他の奴隷も奇能石発見のニュースなど知らなかった為、それが何かは分らなかったが、殺しあうことなく金がもらえるこの仕事にありがたく食いついた。
しかし簡単に終わるはずだったこの仕事は、同じく調査に出ていた国王軍と鉢合わせた事で一転して修羅場と化した。ネロ達はそのままその場で奇能石の無断発掘の罪で犯罪者として殲滅させられた。
状況が飲み込めないまま、重傷を負ったネロはその場を逃げ出した。
ネロ「(なんで国王軍がこんな事を、、、くそ、、リラ、、、帰らなきゃ、、」
攻撃を受け意識の薄れゆく中、帰国する途中の兵士に見つかった。
兵士A「なんだ、こんなガキまでいたのか?」
兵士B「こんなガキの力も借りなきゃならねぇとは、ノクシム一家も相当な人手不足なんだな。」
兵士A「で、このガキどうする?保護するか?」
兵士B「馬鹿な。こんなガキ生かしてどうする?そこの崖から捨てておけ。」
そういうと兵士がネロを掴んだ。
ネロ(くそっ!!体も口も動かない、、!やめてくれ、、、リラ、、)
兵士「じゃあな」
そのままネロは崖下に体をぶつけながら落ちて行った。
落ちていく最中に見た冷たい兵士の目は、その後もネロの頭から離れる事はなかった。
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しばらくしてネロは意識を取り戻した。
「俺は、、生きてる?、、」
あたりは真っ暗でここがどこか分からなかったが、目の前には不気味な銅像が立っていた。
「銅像、、?なんだろう、、すごく嫌な力を感じる。」
するとどこからか声が聞こえてきた
???「よもや人間に会おうとはな。小僧、名はなんと申す?」
ネロは周りを見回したが、何もいなかった。声の主は間違いなくこの銅像だと悟った。
「ネロ、、」
???「ネロと申すか、、。我が名はサタン。この像に封印されかなりの時が経ったが、まさかこの様な日がくるとはな。」
ネロ「サタン、、?」
サタン「して、ネロよ。互いにもう時間がない。うなされながら呟いておったリラという名はお主の大切な者の名か?」
ネロは今の自分の状況を思い出した。
ネロ「、、そうだ!リラ、リラは俺のたった一人の家族、妹だ!戻らなきゃ、アジトに。」
サタン「しかしそれは叶わぬ。それだけの重傷だ。お前はじきに死ぬ。」
ネロ「!? だったら、どうすれば良い!?リラは、俺がいないと生きていけない、、!」
サタン「方法はあるぞ。ワシの足から流れ出ている血を飲め。」
暗い中ネロは像の足を見ると、何かの液体が流れているのがかろうじて分かった。
ネロ「血だって、、!?でも、それで助かるのか、、?」
サタン「あぁ、"お互いに"な、、」
不審に思ったが、リラを想うネロは藁にもすがりたい気持ちだった。最後の力を振り絞って移動し、その液体を一口舐めた。
ネロ「こ、これは、、」
サタン(ようこそ、ネロ。)
そして気づくとネロは崖の上にいた。
「ここは、、あの兵士に落とされた場所、、?あれは、、夢だったのか?」
ネロの体はすっかり回復していた。
しかし代わりに首回りを一周する程の巨大な痣が出来ていた。
ネロ「よし!とにかく動ける!早くアジトに戻ってこの事を話さなきゃ!」
ーーー ノクシム一家のアジト ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ノクシム「それでテメェは土産もなしにノコノコ帰ってきやがったのか?」
生き残ったネロの報告を聞いたノクシムは恐ろしい形相で睨みつける。
ネロ「どうしようもなかったんだ!丸腰の俺たちに対して国王の軍は完全防備で、、一瞬の出来事だった、、」
ノクシム「、、、まぁ、テメェには"借り"がある。そのおかげで一家もしばらくは食い繋げるからな。一度だけ見逃してやる。」
それを聞いたノクシムの周りの幹部がヘラヘラ笑っている。
ネロはなんの話だったかすぐには分からなかった。
ネロ「ところで、リラは!?リラを見ていないが、どこにいるんだ!?」
早足で近寄ってきたノクシムの幹部の一人がネロの胸ぐらを掴んだ。
幹部「テメェは何かあればリラ、リラ、リラだな。今頃リラはお前の知らねぇジジイと仲良くしてるよ。」
ネロ「、、、どういう事だ?」
幹部「ボスの言葉で分からねぇとは勘の悪いやろうだ。お前の妹は売られたんだよ!ガキの割には綺麗な顔だったからな、いつも以上の高値で売れたよ!」
その報告を聞いたネロの頭は真っ白になった。1日中続く悪夢の様な出来事の最後には最大の事件が残っていた。さっきからこれは現実なのか、、何度も自問自答した。
ネロ「どこに売った?」
幹部「ポルクという富豪だ。奴は奴隷を散々弄んだ上で殺す変態なんだぜ?何なら奪い返して来るか?だがあいつは屋敷に屈強な私兵を置いている。行っても死ぬだけだがな!」
幹部達は絶望したネロの顔を見て大声で笑っていた。
しかし、ネロの耳には笑い声ではなく「あの声」が入ってきていた。
サタン「悲しいなぁネロ、、しかし、お前は妹を救えない、、一つの方法を除いてな。」
ネロはその声に向かって小さく問う。
ネロ「どうすれば良い?」
幹部の男はネロに近づき、髪を乱暴に掴んで頭を上げさせた。
「あぁ?なんか言ったか?それになんだお前、仕事もしねぇで首にタトゥー入れてきやがったのか?」
サタンは低く不気味な声でネロに告げる。
サタン「なぁに、簡単さ。受け入れろ、、、この力を!!!!」
その瞬間ネロの体から闇が溢れ出てきた。
「何だ!何が起きた!!!」
「くそ!!前が見えねぇ!」
「ぎゃああぁあぁぁ!!」
闇に覆われた部屋の中に叫び声が響くと、ノクシムの机に幹部の頭、手、足、胴体が次々と飛んできた。
「ひぃっ!!」
ノクシムにとってこれまでの人生で初めて出した悲鳴であった。百戦錬磨のノクシムでも目の前の予測不能な状況がそれほどまでに恐ろしかった。
そして直後には、ノクシムの首も天高く飛んでいた。
ーー夕刻ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
血だらけのネロは巨木の枝に座り込み夕日を眺めていた。
そこでリラはネロの腕の中で目覚める。
「お兄ちゃん、、、?」
「リラ!?目が覚めたか!?」
リラは泣きながらネロに抱きついた。
「恐かった、、本当に、、、」
ネロはそんなリラを力強く抱きしめる。
「ごめんなリラ、、俺がノクシムの所に行くなんて言ったから、こんな事になった。」
リラは強く首を横に振った。
「でも、ちゃんと助けてくれた、、」
「あぁ、だがもう人に頼るのはやめよう。前みたいに俺たちだけで生きよう。」
ネロは目の前の夕日に向かって、これからより強くなってリラを守る事を誓った。
ーーー ポルクの屋敷 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
騒ぎを聞きつけた警察が屋敷を取り囲んでいた。
老警官のジョシュは現場を見て大きなため息をついた。
「なんてこった、、色んなもんを見てきたが、こんな事件現場は見たことがない、、」
屋敷の人間は全員殺されていた。それだけではなく、全員が判別の困難なほどバラバラになっていた。
「同じ様な死体がノクシム一家のアジトからも見つかっております」
「あぁ、しかし一体何がどんな力で攻撃すればこうなるのだ、、」
すると1人の部下が大きな声をあげる。
「ジョシュさん!地下にも、、死体が!!ただ、、」
地下へ急いだ。
入り組んだ地下階段を抜けた先にあった屋敷の地下室には驚くべき光景が広がっていた。
ジョシュ「なんの為に、、こんな場所が、、、?」
最近も使われていたであろう悍ましい拷問部屋に無数の子供の死体があった。しかし子供達の死体は綺麗に並べられて大量の花が添えられていた。
次回〜ネロ②〜