〜ミストラ〜
ーーーヴェン・ハル・レオン ドワーフの城ーーーーーーーーー
囚われたレオンとハルが目の前の状況を泣き叫びながら見ていた。
視線の先には自らが人質になった為に反撃ができず、ハイクに無抵抗でやられている血だらけのヴェンが膝をついていた。
ハイク「武装をせずに来たのは大間違いだったな?俺たちの中でも奇能石の恩恵を受けていないのはヴェン、お前だけだ。そして素手の格闘がいかに強かろうが、抵抗すれば人質は2人とも即殺す。この状況では流石のお前も為す術もあるまい。」
ネロの攻めてきた理由から推測して、レオン達を生かしていく理由もない。この言葉が嘘ではないとヴェンは確信していた。
ヴェン「ハイク、お前はいつからネロと共謀しこの計画を進めていた、、?」
危機的な状況下でもヴェンは未だ冷静だった。今出来る事として可能な限り敵の情報を得ようとしていた。
ハイク「いつから?すまないなヴェン。私はお前にずっと嘘をついていた。私は元々ネロの領土で生まれた。つまり生粋のネロの人間なのだよ。」
ハル「そんな、、」
ヴェン「、、、お前と初めて会った時の事は、よく覚えている。」
ヴェンは目を瞑り当時を思い出していた。
ーーー5年前 南東のとある村の跡地ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハル「ヴェン、これ以上はネロの軍の領土に入るよ。ここの村にも"あれ"がなかったらもう戻った方が良いよ」
ヴェン「あぁ、それにしてもここは特にひどい有様だな。何か圧倒的な力で破壊されたようだ、、これではもしここに存在していたとしても、もうひどく損傷してしまって読めないかもな。」
ハル「そもそも、奇能石の全てがまとめられた歴史書なんて、本当に存在するのかしら。」
この頃バンとハルは奇能石を初めて国王軍が見つけた際に同時に近場の廃村から発見されたという奇能石の全てが記されているとされる歴史書を探していた。
ヴェン「この情報が嘘だとしても、もし本当にそんなものが存在するなら所有しておいて損はない。何しろ、奇能石にはまだ謎が多すぎる。」
しばらく2人は村を調べたが、見つけ出す事は出来なかった。
ハル「やっぱりダメね。昔王国に使えてた兵の家系っていうおじいちゃんから"かつて国王軍からその本を奪った人物はその後空を飛び南東に向かった"っていう噂だけが唯一の情報じゃ、流石に見つかんないよ」
ヴェン「そうだな。そろそろ宿に戻るか。」
最後に村を見渡すと、ハルは木の下で倒れている傷だらけの男を見つけた。
ハル「大変!」
その男に急いで駆け寄った。
ヴェン「これはひどいな、助かるか?」
ハル「まだなんとか生きているから、大丈夫だと思う。」
そういうとハルは男の額に手を当て目を閉じた。
するとみるみるうちに男の傷は癒されていった。しかし、男はまだ気を失っていた。
ヴェン「とりあえず間に合ったな。」
ハル「でもこれで私は今日もうこの力は使えない。戦闘でヴェンが怪我をしたら大変だし、この人を連れてすぐに宿へ帰り行きましょう。」
その日の夕方、ロウソクの火のみで照らされた薄暗い部屋の中で男は目を覚ました。
ヴェン「お、目を覚ましたか?」
ハル「良かった。あ、まだそのまま寝ててね。」
男は2人の顔を見た後に辺りを見回した。
「ここは?」
ヴェンとハルは簡単な自己紹介と男にここはバルストレス城から遠く南にある村の宿だと伝え、木の下で死にかけていた所を連れてきた事を伝えた。
ハイク「なるほど。お二人には本当になんとお礼をいったら良いのか、、申し遅れましたが私の名前はハイク。私はネロの軍勢に追われており、執拗な攻撃を受けていました。傷を追い、命からがらあの廃村に入り休憩していた所意識を失って、、、」
ヴェン「どうした?」
ハイク「、、、なんだ?何も思い出せない。なぜ私は追われる事になったのだ?何か大事な事だった気がするが。」
その様子を見たヴェンとハルはお互いの顔を見合った。
ヴェン「記憶喪失か、、」
ハル「彼を見つけた時、頭も怪我をしていたわ。その衝撃で断片的に記憶を失っているのかも。」
ヴェンは取り乱すハイクに即座にある提案をした。
ヴェン「なぁハイク。俺たちは仲間と訳あって国王軍にもネロの軍にも目立たない場所に暮らしている。そこに記憶が戻るまででも良いから一緒に来ないか?」
ハイク「それは助かるが、私のような素性の分からないような人間を招き入れても良いのか?」
ヴェン「お前はネロに追われていたんだろ?だったらネロ側の人間じゃない。国王軍の紋章を身につけている訳でもない。それに、お前の境遇を知っちまったら放っておけないさ。」
そこから仲間となったハイクはヴェン達の夢を叶えるべく3城攻略の絵図構築をはじめ、その他隊の具体的な作戦を練った。緻密で合理性のある作戦を立て、その中で仲間の安全も同時に考えるハイクは皆から自然と副隊長としても認められるようになっていった。
ヴェンも常々自分に何かあった時は際の次の隊長はハイクだと語り、隊はハイクの加入で一気に盤石となった"はず"だった。
ーーードワーフの城ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハイク「私がネロに追われていたのも記憶を失っていたのも本当だ。あの時はお前達が神に見えたよ。だが、ある日の任務の中私は思い出した。自分がネロの人間だった事にな。」
ハイクはヴェンを見つめながら当時の話を続けた。
「私はネロの仲間として奇能石や古の戦いについて研究をしていた。そんな日々を送っていたが、ある日私はネロの居城の中で幹部以外は踏み込んでいけない場所がある事を知った。次なる研究の為そこに一歩踏み込んだ瞬間、私はネロの片腕と呼ばれる男に追われる形となった。その後はお前も知っているだろう?」
ハイクは笑みを浮かべた。
「記憶さえ戻ればお前達の元から離れても良かったが、お前達の夢は私のネロの軍復帰への良い手土産になると思った。私はネロが有利になるような策を練り、裏でネロと結託した。"未開の北西の地と引き換えに私を幹部として再びネロに戻す"事を条件にな!!」
ヴェン「く、、ハイク、、貴様、、!」
睨みつけたヴェンの頭をハイクは強く踏みつけた。
ハイク「いや〜実に不快な日々だったよ。だが、ネロの使いのものと秘密裏に情報交換をする為に私が奇行癖のある人物として立ち振る舞う事も、こんな小汚い小人どもの城に入り浸る事ももうしなくても良い。私は今実に開放的だよ、ヴェン。」
ヴェンは全てを知り悔しさのあまり言葉が出なかった。これまでの自分たちの夢の実現の為の行動は全てネロに利用されていたのだ。
「ここでお前達を殺し、魔女の城の仲間がミストラを連れてこれば作戦は全て終わる。まさかお前達がこの力を保有していたとは、私もつくづく運が良い。」
一連の話を聞いていたレオンが口を開く。その声は震えていた。
「ミストラがなんでネロに狙われるの?」
ヴェンの頭を踏んだまま、ハイクはレオンを見て答える。
「知らんのか?お前は確かミストラと仲が良かっただろう?まぁ、ガキ同士だ。そんな話はせんか。」
ハイクは少し間をおいて答えた。
「奴は確認されている奇能石の力の中でも"最強"の力の一つ、天候を操る事の出来る人間だ。」
レオンはミストラの能力を知り驚愕した。その能力の存在は知っていたが、あまりにも非現実的な力に神話の世界の話だと思っていたのだ。
「私も研究をしている中でこの能力が実在する事は知っていた。そしてこの力さえあれば激しく変わる天候の為長くの間未開だった北西の地、つまりハームリック城を手にする事が出来ると考えていた。いや、これはヴェンもそうだったようにこの力を手に入れれば、まず全員同じ事を思うだろう。」
再びヴェンを見つめたハイクはさらなるネロの野望を口にした。
「そしてついにネロはその力を手に入れた!私たちは北西の地を手中に収め、東と西から王国に総攻撃を仕掛ける!」
3人はその宣言を聞き目を見開いた。ついにネロは王国と大規模な戦争をするつもりなのだ。
ヴェン「やめろハイク!!そんな事をすれば一体どれだけの人間が死ぬと思っている!?」
ハイク「なんだヴェン?お前達はあの国に恨みがある側だろう?なんなら賛同してくれると思ったがな。」
そういうとハイクは腰につけていた剣を取り出す。
ハイク「そういう事だ。では、ミストラを捕えたあとにお前達が結託して奪回に来られても面倒だ。お前達は全員殺すが、ヴェンお前は特別だ。」
ヴェン「、、、どういう事だ?」
ハイク「私はお前に興味がある。奇能石が唯一反応を示さず、さらには古の怪物"デイダラボッチ"を宿すとされ、一振りで全てを無に帰す世界最悪の妖刀を何故かお前だけが扱う事が出来る?」
ヴェン「、、、かつて、、お前には既にいった事があるだろう。そんな理由は俺には分からない。」
ハイク「哀れだなヴェン。理由も分からぬまま"皆を守れてしまうような"特別な力を有してしまい、そして仲間を救うためその力を使うたびにお前の体はデイダラボッチの呪いに蝕まれていく。虚しくはないか?私はお前を救いたいのだ。」
ヴェン「、、救うだと、、?」
「ネロの軍に一緒に来ないか?私と共にお前の謎を解明できれば、その力を完全にコントロール出来る日が来るかも知れんぞ?」
ヴェンは笑みを浮かべる。
「答えの分かりきっているくだらん質問はやめろ。理由は分からんとは言え、この力に俺は感謝している。お前の言う通り、もう俺の体は五感も上手く働かない程衰えてしまっている。でもな、そのおかげで今日まで皆を守ってこれた。そしてこれからも俺は命の続く限りあの剣で皆を守り抜く。それで死ぬ事になんの悲観もない!」
ハルもレオンもヴェンの体の異変は知らなかった。ヴェンの皆を心配にさせないための気遣いだろうが、その告白は衝撃的なもので2人の目からは自然と涙が溢れていた。
2人とは対照的にハイクは無表情でその話を最後まで聞いていた。
ハイク「ご立派だな。まぁ、予想通りの回答だ。」
そういうとハイクは突如刃をヴェンの右腕に振り落とした。
右腕は宙に舞い、ヴェンの苦痛の叫びが場内に響いた。
それを見たハルはついに気を失ってしまった。
「ククク、良い事を思いついた。お前は二度と忌々しい"あの剣"が扱えないように両腕を切り落とした状態で生かしておいてやる。そしてこれから我々ネロの軍の行いを敗北者としてじっと眺めておけ。」
ヴェンは大量の汗にまみれた顔でハイクに対して笑みを浮かべた。
ハイク「なんだ?気でもおかしくなったか?」
ヴェン「ふふふ、ハイク、、お前はなんでもう全てが上手くいくと思っている?」
ハイク「なにを言い出すかと思えば。他の城にもネロの精鋭達がいる。奴らにはお前達の戦力も性格も全てを知っている私が情報を伝えてある。それに私の策が万が一にもしくじる事はないのはよく知っているだろう?」
ヴェンは不敵な笑みを崩さずに続ける。
「俺たちの全てを知っている、、?お前は何も知っちゃいない。お前が仲間に入る前から、俺たちはこんな修羅場を数多く切り抜けてきた。彼らは判断を間違わず、今回も最善の策で切り抜けるだろう。そもそもミストラには"あの"コルトが付いているんだぞ?ネロはちゃんと精鋭100人でも引っ張り出して来たんだろうなぁ、、?」
ヴェンの話を聞いたハイクからは逆に笑みが消えていた。
ハイク「あんな馬鹿はとっくに死んでおるわ!」
ヴェン「ふ、だったら、今頃ミストラを連れて来てるんじゃないか?狼人の城からもお前の援軍がくる様子もない。残念だったな、お前の天才的な策でお仲間は全滅だ。」
追い込んでいる側のハイクの表情に余裕がなくなってきていた。
「お前の命は助けてやると言ったが、やめだ。今すぐに殺す。レオン、お前達の馬鹿な隊長の最期をその目に焼き付けろ。」
ヴェンは微笑んでレオンを見つめ、最後の言葉を絞り出した。
「レオン!どんな形でも良い、、、必ず生きてくれ。後は頼んだぞ。」
レオンは一連のやりとりを見ているしかない足手まといな自分が悔しくて涙を流し続けていた。仲間達が苦しんでいる中で何も出来ない自分を憎んでいた。
頭に次々と仲間との思い出が溢れていた。ヴェンはああいったが、みんながジョーのように死んでいるかも知れない。頭にはあの日の父と母の死の映像が鮮明に流れていた。
そしてあの日孤独になるはずだった自分を救いこの仲間達と引き合わせ、夢と居場所を与えてくれた最大の"恩人"が今目の前で死を迎えようとしていた。
目からは大粒の涙が溢れる中、レオンが呟く。
「そんな悲しい事言わないでよ、、」
「みんなもうどこにもいかないでよ、、一人にしないで、、」
ハイクは剣を振りかざした。
「さらばだ、ヴェン!!」
レオン「やめろぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
レオンが叫んだ瞬間だった。レオンの腕輪が虹色に、そして強烈に光輝いた。
ハイク「、、、な!?」
ヴェン(!? レオン、、、)
直後に次は強烈な爆音と共に城壁が崩れ落ち、場内は爆風と煙に包まれる。
ハイク「く、、なんだ!何が起こっている!?」
全員が目を開けるとそこには炎に包まれた美女が悠然と浮いていた。
レオンには不思議とそれが敵ではないとすぐに分かった。そして問いかける。
「、、あなたは?」
それはゆっくり口を開き答える。
「私は4大精霊の一人、サラマンダー」
次回〜終結〜