〜真相〜
ヴェン、ハル、レオンの3人は目の前の現実が受け入れられないでいた。
「ハイク、、なんの真似だ?」
ヴェンが必死に言葉を絞り出す。
血まみれのハイクは突如場内に響き渡るほどの大声で笑い始めた。
「ヴェン、随分とのんびり到着したな?お前があまりにも遅いから、もうドワーフどもを全員殺し終わってしまったではないか!?」
ハルが泣きながらハイクを見つめる。
「嘘よ、、こんなの、、」
ヴェン「お前、、ジョーは、、?ジョーをどうした!!!」
怒りの咆哮が場内に響いた。
その怒号にもハイクは眉ひとつ動かさずに冷静に返事をする。
ハイク「ジョー?お前の後ろにいるではないか」
3人は後ろを振り向くと、無数の武器に体を突き刺され無残に殺されたジョーが横たわっていた。
ヴェン「おい、、、ジョー、、?」
レオン「そんな、、」
真っ先にハルが泣きながら走ってジョーの元へ駆け寄る
(まだ、私の能力なら、救えるかも知れない、、、!)
ハイクはその光景を見て再び笑いながら話しかける
「無駄だよハル、君はどんな傷をも癒してしまう驚異的な能力の持ち主だが、、死者を生き返らせる事は出来まい。」
ハルはジョーの近くで膝から崩れ落ちた。
「そいつも大好きな武器で串刺しにされて本望だろう。やれやれ、それにしても、そいつの戦力を削るために武器を置いてこさせたというのに、、やはりヴェン、"私達"の仲間は皆、化け物だな。私一人では、苦戦したかも知れん。」
「!?」
ハイクがそういうと暗闇から現れた新たな敵にレオンとハルは喉にナイフを当てられたまま、ハイクのバリアーの中にそれぞれ閉じ込められてしまった。
レオン「しまった、、」
完全に不意をつかれた。2人も同時に人質を取られたヴェンがこれから追い詰められるのは目に見えて分かった。
そこでハルがある事に気づく。
「え!? こいつらの手袋に付いているマークって、、」
ハルの言葉にヴェンも敵の手元に目を向ける。
ヴェン「ネロの軍勢のマーク、、まさか、、!?」
ハイク「察したかヴェン?そうさ、バリアーを解きネロを招き入れたのはこの俺だ。さぁ、これからが"本当の計画"の始まりだ!」
ヴェンはすぐに冷静さを取り戻し、現状の把握に努めた。ハイクの裏切り、ネロの進行、、頭には最悪のシナリオが浮かんでいた。
「お前たちの狙いは3城を奪い、ハームリックを奪う事、、そして」
ヴェンは少し間を置きその名を口にした。
「ミストラか?」
ハイクはニヤリと笑みを浮かべて答えた。
「やはりお前はこんな状況でも冷静だなぁ」
ヴェンは他の城の状況もすぐに察した。
(コルト、ミストラ、リンナ、バロン、、!)
ーーーコルト・ミストラ 魔女の城ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コルトは目の前の惨劇を見ながら昔を思い出していた。
ーーーある日の魔女の城ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王女の部屋でコルトはベットに横たわり、魔女の城の女王アンジェはその横に座っている。
コルト「もう随分と長い事、この城に居座ってんなぁ。」
アンジェ「なにコルト?もうこのお城には飽きちゃったの?」
コルト「んな事言ってんじゃねぇよ!むしろ逆だ、、、良いのかよ?こんなにも長い間、嫌ってた人間を住まわせちまって。ほとんどお前の独断だろ?」
アンジェ「ふふ、なんだ、そんな事考えてくれてたの?優しいねコルト。」
コルト「なんだよそれ、はぐらかすなよ」
アンジェ「ふふ、初めはそれは反発もいっぱいあったよ。私は若くて王女になったから、特に。でもミストラはとっても頭が良くて私たちが知らない事を沢山教えてくれる。今も子ども達に人間の勉強を教えてくれてるんだよ!それにコルトもこれまで散々私たちの困っている事を解決してくれた。」
コルト「あー、あの城の近辺に住み着いたっつーバカでけぇブラックスネークと闘わされた時はマジで死ぬかと思ったけどな。」
アンジェ「あれの皮膚は私たちの魔法を受け付けなかったからしょうがなく頼んだんだよ。でもおかげでみんな安心して暮らせてる。だからもう私たちはあなた達とその仲間に対する嫌悪感なんてこれっぽちもないの。」
コルト「なら、命をかけた甲斐がありましたよ、王女様。」
アンジェ「でも、だったらコルト達はどうしてこんなにも居てくれるの?調印式の件はずっと昔に受けるって返事してるし帰ってみんなと過ごす事も出来るでしょう、、?」
らしくない事を考えている自分に対して、コルトの顔がどんどん赤くなる。
コルト「そ、それは、、お前も話す相手が居なくなったら寂しいだろ!?だからもうちょっとだけ居てやるよ。なんか迷惑か!?」
アンジェはそんなコルトを見て優しく笑っていた。
アンジェ「このままコルトとずっと一緒にいられたらいいな」
コルトはさらに顔を真っ赤にして声を荒げる。
コルト「お、お前急に何言ってんだよ!そんな事、、思ってたのか!?」
アンジェ「なんか迷惑か〜?」
アンジェは弾けるような笑顔でコルトの真似する。
そんなアンジェをコルトも大好きだった。
そんなアンジェの肩を両手で掴み、まっすぐ目を見てコルトは答えた。
コルト「アンジェ、、俺達はハームレック城を拠点にして、今まで誰も見たことがない、どんな種族も一緒にみんなが笑って暮らせる世界を作る!人間も魔女も関係ない!ここではみんなで暮らせるんだ!だから俺たちの夢が叶ったら、、」
アンジェ「叶ったら?」
コルト「その時は俺と、、、」
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王座の隣に立っている紫色の仮面の男が右手に持つ胴体の繋がっていない頭部にはしっかりと見覚えがあった。
いつもこの城で誰よりも近くで見ていた美しい黒髪、紛れもなくアンジェのものだった。
仮面の人物の男は高らかに叫ぶ
「ようこそ!我がネロ軍の新たなる居城へ!」
男の周りには無残に殺された魔女達の姿もあった。
ミストラ「子どもまでみんな殺されてる、、、」
コルトは今にも溢れ出しそうな怒りを堪えていた。
「、、お前がやったのか?」
仮面の男は答える
「ははは、"ハイク"からの報告だと、この状況を見れば怒りで飛びかかってくるような男だと思ったがな」
ミストラ「今、、ハイクって言った?なんでハイクを知っているの、、」
ミストラは明らかに動揺していたが、コルトは冷静に現状の把握に神経を集中させていた。
(、、ハイクが首謀者、、そしてネロの奴らがここを奪って次に欲しいもの、、狙いは、、、)
(ミストラかっ!!)
仮面の男「ふふ、意外と頭も切れるのかな?ならば私の次の目的は分かるか?」
そういうと男の視線がわずかにミストラに移った事を見逃さなかった。
コルトは自分の推理が正しい事を確信した。しかし一つだけ計り知れない事があった。
この男の未知数の実力である。
(あのアンジェを打ち取った人物が本当にこいつだとすると、こいつの強さは"異常"だ。)
さらにコルトは推測する。
(何よりアンジェが魔法を使った痕跡がなく、そして男の服装は少しも乱れていない。だとすると、勝負は一瞬だった、、?それか別の奴が隠れている、、?)
まだ思考はまとまっていなかったが、最悪の事態を避ける為にやるべき事をコルトは瞬時に判断した。
(絶対に最悪は回避しねぇと、、だろ?ヴェン。 だったらこれしかねぇ!)
「ミストラ!こっちにこい!」
するとコルトは走り近寄ってきたミストラを殴り、気絶させた。
仮面の男「、、?なんのマネだ」
コルトが気絶したミストラに小声で声をかける。
「また、後でな」
すでに殴った方と逆の腕が銀色に変わっていた。
仮面の男「、、まさか!」
コルトはミストラを強化した片手で掴んで入り口を出た。
(俺たちの家の方角は、、、あっちか!頼む、せめて湖に落ちてくれよ。その後はゼンと合流しろ!)
そしてミストラを天高く投げ飛ばす。無事に逃げ切る事を祈りながら。
コルトはどんな形であれミストラを奪われる事こそ避けるべき最優先事項と考えたのだ。
しかしまだ危機が去ったわけではなかった。
(次はあの仮面野郎だが、、、)
そう思い振り返ろうとした瞬間、自分の腹部を刃が貫いた。
仮面の男「油断したよ。そんな馬鹿力の使い方もあったとはな。」
コルトも油断をしていた。あの距離から一瞬で間合いを詰める事など不可能だと思っていたからだ。
コルト「これがてめぇの能力って事かよ、、」
口から血を流しながら問いかける
仮面の男「いかにも。私は奇能石により脚力が飛躍的に上がったネロの軍の中でも最速の男。私の事を知らない人間の不意をついて殺す事など容易いのだよ。(もっとも、我々の力には他にも秘密があるがね、、、。)」
コルト「、、ふふ、、ありきたりなクソ能力だぜ。しかし、そんなちんけな能力であのアンジェが殺れるとは思えねぇがな。」
仮面の男「ふふふ、その通りさ。お前も知っていようが、古くよりその魔力の改良に年月を費やした魔女どもの強さはまさに大陸内でも最強クラスだ。ましてやその長とまともに戦っては勝算などない。」
コルト「、、、?」
仮面の男「実に滑稽だったよ。私が到着した時、こいつらは何をしていたと思う?貴様らとの約束どおり全員武装をといて大層な式の準備をしていたんだ。決して脱ぐ事のなかった奴らの魔力の源であるローブを着ずに似合わぬドレスなんざ着ておったわ!」
そこでコルトは執拗に武装解除の条件を出していたハイクの意図が分かった。
(つまり、随分前から奴は裏切り者で、この計画をしていたのか、、)
仮面の男「人間に強い恨みを持っていた魔女どもが私を認識した後もしばらく無警戒だったのはお前らのおかげだよ。後は適当な子どもを人質に取ったら、王女は城の他の奴らの命を守る代わりに自らの命を差し出しやがった!」
コルト「!!!!??」
仮面の男「そして王女様をさっさと殺した後、城中全員私の最速の美技で殺してやったけどな!」
先ほどまで私情に流されずに冷静さを保っていたコルトだったが、もう怒りを止めることが出来なかった。
コルト「、、お前は殺してやる」
これを聞いた仮面の男は甲高い声で笑い始めた。
「私を殺すか!?お前も気づいているだろう!?この刃には神経を麻痺させる強力な毒が塗ってある!これで貫かれた時点でお前はもう能力も使えまい!つまりはお前はこれから馬鹿な王女と同じ運命を辿るんだよ!」
しかしコルトは鬼の形相で男の顔を仮面ごと掴んだ。
「お前を殺すのに能力なんざ必要と思うか?時間が必要だと思うか?」
仮面にコルトの指がめり込む。瀕死のはずの男のその規格外の力に仮面の男は戦慄した。
(毒は間違いなく効いている!なのに何だこの異常な力は、、!!)
「ごふっ、、!」
しかし毒は確実にコルトの体力を奪っていた。コルトが突如大量の血を吐き出し、力が緩んだ瞬間に仮面の男は脱出し距離をとった。
これまで経験した事のない不気味な力に仮面の男も冷静さを無くしていた。
「化け物め!!お前などさっさと殺して、さっきのガキを追いに行かねばな!」
コルトは自身の戦意とは裏腹に急速に意識が遠のいて行くのが分かった。
(アンジェ、お前馬鹿だなぁ、、ガキの一人や二人殺されてる間に戦闘の準備も出来たはずだ、、でもお前は誰一人も傷つけたくなかったんだよな、、、)
コルトの目には涙が浮かぶ。
(お前は、俺たちが殺したようなもんだな、、。俺たちが現れなければ、きっと今日こんな事にはならなかったんだよな、、、ごめんな、アンジェ)
脳裏にアンジェの笑顔が浮かび上がった時、コルトは再び息を吹き返し血走った目で仮面の男を睨みつける。
「お前はミストラを追えねぇよ、、。お前はここで俺が殺す。その後は、、ネロのクソどもも皆殺しだ、、」
仮面の男は刀を再び振りかざす。
「ほざくな!死に損ないがぁ!!」
次回:〜撤退戦〜