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破国の召喚神   作者: 松本 豊
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〜新時代の幕開け〜

ーーー300年前ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


王国の歴史に深く刻まれた大戦の後、無残にも崩れ落ちたかつての居城バルストレス城の跡地では国王と1人の部下がその状況を眺めていた。


国王「これで終わったんじゃな、、、。」


そう呟いた国王の目の前には精霊達の発動した封印の繭の中で眠る一人の青年がいた。


国王「これがネロか、、この大戦の元凶がこのような子供とはな、、。しかし、よくぞこやつを封印出来たものじゃ。これもヘルツォーク、そなたのおかげじゃな。」


国王の隣に立っていた男は青年を見つめながら大戦の記憶を思い出し、苦悶の表情で返答をした。


ヘルツォーク「いえ、、、此度の終戦の立役者は私ではなくこの封印術を完成させた精霊達を始めに私の呼びかけに応じてくれた全ての生き物達、そして命がけで戦った王国の戦士達です。結局、私自身は彼らに守られながら戦いをただ見守ることしか出来ませんでした、、。」


話し終わると同時に突如ヘルツォークの体が光に包まれ始めた。


国王「やはりお主はいなくなってしまうのか、、?」


ヘルツォーク「えぇ。大きな賭けでしたが結果として終戦の鍵となった"彼"は私の命と引き換えに呼び出しましたので。そして彼の強大な力は危うさもありますが、今回の大戦でも証明された通りこれからも我々の陣営の切り札となるでしょう。もうこのような戦は二度と起こしたくありませんが、残念ながらネロの側近達はまだ生きていますから、、。」


そう言うとヘルツォークは手に持っていた剣を国王に手渡した。


「敵も今回の戦でネロという核を失い致命的な打撃を受けたでしょう。しばらくは攻め込んでこないはずです。しかし、奴らの個々の強さははっきり言って異常でした。私の死後にまた奴らが攻め込んで来た時、再び召喚士の力を有する者がいなければ次は敗北してしまう可能性は高い。そこで、この剣を対抗手段として保有していて下さい。」


「、、これは?」


それはとてつもなく禍々しい気を放つ長剣だった。国王はその剣に触れただけで自分の命を吸われるような感覚になっていた。


「"彼"は死ぬ直前に間一髪でこの剣へ仲間が封印しました。これは彼の力を体現する代わりに扱う者の命を奪いかねない妖刀です。そしてこの剣は意思を持っており、剣が選んだ人間しか扱うことは出来ません。必ず選ばれし人間を探し出し、その者が現れた際は必ず国で確保し重宝して下さい。次のネロの軍の侵攻に対する備えはこの剣を操る者と、、加えて召喚士も確保できれば、、、万全となりましょう、、、。」


それを遺言として英雄"召喚士"ヘルツォークは死んだ。

国王はその遺言に即座に従った。復旧作業と並行して部下の兵、城下町の住人全てで妖刀を鞘から抜き扱える者を探したが、最後までヘルツォークの言う"選ばれし者"が現れる事はなかった。


<1年後>

大戦の終結以降、人々を長年恐怖に陥れていたネロの軍勢による破壊や略奪が一切起こる事はなく平穏な生活が戻っていた。

そしてこの日、新たに建築されたバルストレス城では国をあげた盛大なパレードが行われていた。更に強固になって復活した壮大な城は終戦の象徴として多くの人々がその存在に歓喜していた。

その後も城での祭りは1日中続き、兵も国民もかつての大戦の傷を忘れて大いに楽しんだ。


しかし翌朝、衝撃のニュースが国内を駆け巡っていた。国王が祭りの後に城内で何者かに暗殺されたのだ。そして悪夢はそれだけでは終わらなかった。地下で厳重に管理していた封印されたネロも同時に何者かに奪われていたのだった。


王国側はこの事件の首謀者をネロの残党によるものと断定。ネロが奪還されたこの一件は、王国に住む人間にとって悪夢はまだ終わっていない事を明確に示していた。そしてもう一つの問題は国王だった。当時の国王は愛する国を守るためとはいえ時に悪人に対して行き過ぎた対応をした兵の行動も黙認するなど多くの反感も買っていたが、その豪腕で国を長きに渡り一手にまとめていた大きな柱だった。突如として多くを失った国はここから再び混沌の時代を迎える事となった。


この長きに渡る混沌が真の終結を迎えるのは、この事件から300年も先の未来。


そしてこれはその時代の中心で命を燃やした"英雄達"の物語である。


ーーー現代 バルストレス城近郊の小屋ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昨日の記録的な大雨が嘘のように、その日は天候に恵まれていた。


青い瞳の少年はその大きな瞳で目の前の光景を見て残念そうに呟く。

「あーあ、お家の中までびちゃびちゃだね。グレイおじさん。」


金色の髪を後ろで縛り、無精髭を蓄えた初老の男は素早くノートに文字を書く。

(お前はこんな日にもこの家にくるのか。しかし、お前の読みかけの本もだいぶ濡れてしまった。)


少年の名前はレオン。普段は村の学校に通い、授業終わりや休みの日には

ここグレイの家に頻繁に遊びに来ていた。


「大丈夫だよ!今日は天気が良いから外にこの本干しとくよ。乾いたらまた読めるから!それにあんな雨の後だったし、おじさん大丈夫かなって思って。」


グレイは再び文字をノートに起こす。

(そうか。じゃあ、その本が乾くのを待つ間ちょっとだけ掃除を手伝ってくれないか?)


「はーい。」


グレイはレオンにとって家族でも親戚でもない。グレイは昔の戦いで受けた怪我の影響で言葉を喋る事は出来ないが、今も国の為に働く現役の"国王直下兵団"の一人だという。


そして物心のつく頃にはすでに兵団に憧れていたレオンは、1年前の凱旋パレードの後に城から出てきたグレイを"尾行"した結果、この家の存在を知った。そこからは内緒で家に遊びに来ては、グレイの冒険の話を教えてもらったり持っている珍しい本を読ませてもらったりしていた。


「よし!だいぶ綺麗になった。おじさん、こんな感じでどう!」


「あぁ、良く働いてくれたな。恩に着るよレオン。もう本を読む時間もなくなってしまった。今日はお前の誕生日なんだろう?乾いた本はお前にやるから、それを持って早く家に帰ってあげなさい。」


「あ、本当だ!すっかり日が落ちちゃってる!お母さんがご馳走を作って待ってるんだった!!」


グレイはその慌てた様子を見て笑みを浮かべた。


最後にグレイはレオンに紙を通じて言葉を伝える。


「"動物と喋れる"なんて言うおかしな親父さんにもよろしくな。」


「あ!それはグレイにしか教えてない秘密なんだから、その紙破っといてね!お父さんから絶対に誰にも言うなって言われてるんだから。」


そう言うとレオンは慌てて家に帰って行った。


グレイはその姿を見て再び微笑むと、レオンを見送り家の中へ戻っていった。


「さてと、、」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「変だな〜この道でいつも帰っているのに、どうして見覚えのない道ばかりなんだろう」


帰路についたレオンは林の中で焦りながら彷徨っていた。普段なら遅くても30分ほどで到着出来るはずが、1時間経っても家につけないでいた。

しばらく真っ直ぐ道を進むと、突然いつもの道に出ることが出来た。安堵したレオンはその目が捉えた念願の家に向かって全力で走った。


「今日はお母さんがケーキまで作って待ってるから早く帰って来いっていってたのに、ちょっと遅れちゃったな。お父さんとお母さん、怒ってるよな。」


楽しみと焦りの気持ちが混じり、勢い良く入り口のドアを開けた瞬間レオンは言葉を失い立ち尽くした。


「お父さん、、お母さん、、?」


遅くなった帰宅に怒る母親とそれを見て困った笑顔の父親が自分を迎えてくれると思っていた。


しかし現実はレオンの理想とは遠く離れた光景が目の前には広がっていた。その視線の先には部屋中に広がる夥しい血と倒れた父と母がいたのだ。


この状況を目の当たりにした時、レオンはいつかの先生の言葉を思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


300年前の"あの日"以来 人の突然の死はより身近に起こり得る事になったと先生は授業で教えてくれた。


その日、国家繁栄の為に新たなる資源を求めて旅立った国王直下の調査兵達がユリ鉱山から持ち帰った鉱石はその後の国の在り方を大きく変えてしまった。


彼らの持ち帰ったその鉱石は現在 "奇能石" と呼ばれている。その名の通り人に奇怪な能力を授ける石、または奇跡の力を授ける石と言われる。


初めにその恩恵を受けたのは持ち帰った調査兵の者達だった。その石を身に着ける事により、兵士たちは特別な力を得る事が出来た。ある者は火を放ち、ある者は当時の最先端の医療でも手の施しようのなかった不治の病を治し、またある者は大空へ舞い上がったという。


そして新たな技術が流通するのはいつの時代も国の次は"闇の市場"だった。

あまりにも強大な力、故に国王の兵以外の使用を硬く禁じた国王であったが、邪な者の手によってユリ鉱山から奇能石が持ち去られる事は時間の問題だった。


そこからの大陸は大きく揺らいだ。強大な力を手にした"悪"は力のない市民から全てを奪い去った。力の強すぎた悪に対しては国の法も秩序も通用しなかった。

同じく特別な力を有する兵団達も阻止に出向いたが、膨れ上がった悪の全ての蛮行を塞ぎきる事は出来なかった。


「全ての国民に奇能石の使用を許可する。但しあくまでそれは自己防衛の手段である。」


未来を見据え断固として認めなかった国王も、最終的には国の緊急事態に各自でも対応出来るように全国民へ奇能石の使用を許可した。つまりこの特異な力との共存を宣言したのである。


先生は最後に生徒に伝えた。「国王の判断は当時の治安を考えると当然だろう。しかし国王の危惧した通り世の中は善人ばかりではない。一般の人間の中でもこの力を悪事に使おうとする者が多く現れるのは分かりきっていた事だ。つまりこれは奇能石が存在する限り永遠に続く混沌の時代の始まりでもあったのだ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして長く続くその混沌の中にあって、目の前に広がっている父と母の死も当然起こり得た話なのだろう。


さらにレオンを襲った突然の悪夢はそれだけで終わった訳ではなかった。レオンは今まさにこの惨劇を引き起こしたであろう人物と対峙しているのだ。


仮面を被っているため、犯人の顔は一体それが誰なのか判別が出来なかった。

ただあまりの恐怖に数秒前に開けた入り口の扉の位置から一歩も動けないでいた。


「、、、」


少しの沈黙の後に大柄な男は仮面の着用によりこもった小さな声で呟いた。


「、、、仕事は終わりだ」


その言葉と同時に男は裏口から足早に出て行った。


混沌極まるこの世界。自分たちがいつ邪悪な事件に巻き込まれるか分からないと家族で話す事はあった。ただ心のどこかでは自分たちには関係の無い事だと軽く考えていたのも事実だ。


「なんで、、?」


男が立ち去った直後、レオンはその場で気を失ってしまった。今目の前で起こっている事への恐怖心、殺されなかった事への安堵感、親が殺されてしまった悲壮感の全てが小さな体に大きくのしかかってきたためだった。しかし、気を失う前最後に口から出た言葉は彼が最後に見たある衝撃的な事実に対してであった。


レオンはこんな事が起る時、犯人は決まって希能石で力を得た野蛮な賊だと思っていた。


しかしこの事件を起こした男の手袋に付いていた紋章に見覚えがあったのだ。


「、、国王軍の証、、」


国の守護者にして国民の希望であるはずの正義の証を確かに身に付けていた。


14歳の誕生日、この悪夢のような出来事をきっかけに彼は300年以上続く混沌の時代の"最後の主役"としてその人生を歩む事となる。



次回:出会い



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