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ゼロ・リベルタの苦難

作者: 優雨月

シキノーザス村。

人々からはじまりの村と呼ばれる、のどかな村の外れに、一際目立つ家がある。

周りの家はこじんまりとしつつも、どこか懐かしくなるような暖かな雰囲気をもっている。


だが、この家だけはなんとも言えない。

良く言えば、質素倹約。悪く言えばボロ、いや、廃屋にも等しいかもしれない。

壁面はペンキが剥がれ、ヒビもある。

屋根は僅かに傾き、ドアは少々建て付けが悪い。

だが、僕だって直さない訳ではない。直せないのだ。

何をするにも先立つ物が無ければどうにもならない。世の中金が全てということだ。


その金を得る為人は皆仕事をするのだが、もう一度あえて言おう。

『先立つ物が無ければ、どうにもならない。』

仕事さえ選ぶ事もままならないのだ。

何も無い者が出来る事は限られている。

コツコツ堅実派の雇い主を探し仕えるか、一発逆転派の冒険者だ。


そして、その冒険者こそが、村の南の森で現在獣と死闘を繰り広げているゼロ・リベルタである。


見事な角に、小柄で俊敏性のきく身体、独特の狡猾さ。

一体ならまだ耐えれたが、角に傷をつけた時点で仲間を呼ばれ、今は二体に挟まれている。

それに対して僕の装備は小振りのダガー2つ。

出来る事は逃げの一手だ。


ゼロは足の速さには自信がある。

逃げ場はもちろん木の上だ。

あの獣なら追っては来れないし、木を倒すなんて事もない。

考えるや否や、すぐさま木に登ると、あっと言う間に3m上の枝に腰を下ろした。


「しばらくはここで待機かな。」


レベル3のジャッカロープ二体に立ち向かう、今のゼロには少々無謀が過ぎるだろう。この状況でさえ、逃げたのか追い詰められたのかわからないくらいだ。

ウエストバックから来る途中で取ってきたリンゴを取り出し、遅めの昼食を摂りながら、しばし考えを巡らせる。


獣は変異種はいるものの種類で大体ランク分けされる。

ランクD 害獣、害虫と呼ばれる程度

ランクC 単体で人的被害を出す

ランクB 群を纏める頭脳をもつ

ランクA 人型を取ることが出来る

ランクS 自然災害をも操る

ランクSS 全ての獣を従える事ができる


ジャッカロープはランクD。

二体ともレベル3なので、まだ若い個体だろう。

肉は柔らかくて美味い筈だ。

一体でいい。狩れたら2日、いや、3日は食べれる。

加工に良し、薬に良しの角なんか売れば1週間は1日に飯3食なんて贅沢も許せそうだ。


倒す為にはダガーでは殺傷能力が低い。

皮も傷つけてしまうのでなかなかに効率が悪い。

ショートボウでもあればいいのだが、無い物ねだりだ。


下を見ればまだジャッカロープがウロウロしており、しばらくは動きそうにない。

食べ終わったリンゴの芯を一体めがけて投げてみると、アッサリと避けられる。

リンゴの芯を見つめるジャッカロープ。

ほぼ真上からだと言うのに、何処まで見えているのだろうか…


ゼロの好奇心が疼いた。

投げられる物は少ない。ダガー2本は僕の唯一の武器なので投げる事は出来ない。装備にしてもそうだ。あとは取ってきたリンゴが2つ…


「1つならいいかな。」


一番近くのジャッカロープに力いっぱい投げてみる。

案の定、避けられてしまいリンゴは地面に落ちてグシャリと潰れた。

…やっぱり勿体無い。

取ってきた物とはいえ、食べ物だ。粗末にするといい気分はしない。


さて、それなら何を投げようか。

空を見上げてみる。手頃な木に登って逃げたにしては、最適な木だったようだ。

小さな木の実がキラリと太陽の光に照らされていた。


「当たるまで投げるにはたくさん必要だろうな。」


これも修行だと、腹をくくる。

木の上にさらに登り、ウエストバックぱんぱんに木の実を詰めて下の腰掛けていた枝に戻る。

ジャッカロープ達の方に目をやると、潰れたリンゴを食べていた。食べ物を無駄にしてしまわなくて済んだ事に、思いの外胸がスッキリした。


木の実はあまり大きくはない。一口大の物で、それなりに硬い。角以外に当たればそこそこに痛いはず…物は試しだ。1つ投げてみる。

食事中だからか、避けはしなかったが角で弾かれてしまった。


さらにもう1つ…2つ…3つ。2つ同時攻撃‼︎


頑張ってはみてもなかなか当たらない。

むしろジャッカロープは百発百中。見事である。

気付くと周りは木の実だらけになり、ウエストバックはもう少しで空になる。



大抵の生き物は食事中邪魔が入ると、少なからずストレスを感じるだろう。一回ではなく、十回、何十回、それはそれは腹も立つだろう。

そして、そのジャッカロープは短気であったようだ。

限界というものは予想よりも早くきた。



ただ投げるのではなく、木に弾いて横から当ててやろうと、半ば遊び半分になってきた頃、狙っていたジャッカロープが雄叫びをあげた。

急に走り出したかと思えば木の実を踏み、勢いよくゼロの登った木に激突。

もう一体のジャッカロープは驚き、凄い勢いで逃走。

周りにいた鳥達でさえ飛び立ってしまった。


この状況に取り残された、ゼロ。


ジャッカロープが動かないので、木を降りてみる。

ラッキーな事に気絶しているではないか‼︎

その場でトドメを刺し、雄叫びのおかげで静かになった森を抜け、急いで村へ帰った。


ランクD。レベル0。

ジャッカロープ(通称:角兎)一体でさえ、力で倒す事は困難。


それがゼロ・リベルタの日常である。

余談ですが、ウサギってストレスにめっぽう弱いらしいですよー。


一応、続きはあります。

書くかどうかは追い追い決めますが(笑)


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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