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お茶会

 ラバンの研究室らしき場所に案内された二人は、その部屋があまりに雑多なことに驚いていた。足の踏み場もない、とまではいかないにしろ、必要な物がどこにあるのか、それを探すのには中々骨が折れそうだった。


「あまり綺麗な部屋とはいえないけど、座るところくらいは確保してあるから」


 ラバンが指さした先には、それなりに片付いているテーブルがあった。


「お茶を入れてくるから、座って待っていてくれないかな」


 二人はその指示に従って、空いている椅子に座った。


「いや、これ全部機械なのか」


 デルタは周囲を見渡した。金属の塊があちこちに散見されるが、それが機械なのかどうかすら判別できなかった。


「もうちょっと片付けた方がいいかなぁ、って思うけど」


 レアルは雑多過ぎるのが気になるのか、そんなことを口にする。


「お待たせ。ちょっとしたお茶菓子もあるから、気兼ねなくつまんでいいよ」


 そうこうしているうちに、トレイにティーポットとカップ、そしてお茶菓子を乗せたラバンが戻ってきた。


「さて、もう一度教会の主張をおさらいしてみようか」


 ティーポットからカップに紅茶を注ぎながら、ラバンはそう言った


「えっと、教会は機械が魔獣を生み出して、その魔獣によって機械が滅ぼされた、って言っているけど」


 レアルは確認するように言った。


「そうだね。でも、君達も見た通り、機械は決して魔獣に劣るわけじゃない。おっと、お茶が入ったよ」


 ラバンはカップをレアルに手渡す。


「ありがとう。いただきます」


 レアルはカップを口にした。


「そういえば、さっき魔獣に使っていた機械はどういう仕組みで動いているんだ」

「ああ、銃と大砲だね。二つとも原理は同じなんだ。違うのは大きさと威力だね。筒状の金属に球状の金属……これを弾と呼んでいるけど、弾を詰めて火薬の力で発射するんだ」


 デルタの問いに、ラバンはそう答える。


「火薬? 聞いたことがないな」

「火をつけると爆発する粉さ」

「そんな物騒な物だったのか。だが、そんな物は聞いたことがないな」

「たまたま製法を示した古文書が見つかってね、おかげで銃や大砲が実用化できた……ああ、君の分もあるよ」


 ラバンは思い出したように、デルタにカップを渡した。


「催促したわけじゃないんだがな」


 デルタは苦笑いしつつも受け取ったカップを口にする。


「ちょっと話が逸れたね。本題に戻ろうか。何かしらの原因で機械が滅んだというか、今の状況になったのは事実だ。でも、それは魔獣が直接の原因じゃないと僕は考えている」


 ラバンはカップを口にしつつそう言った。もしこの場にまともな教会の人間がいたら、激怒しかねないような内容だった。


「教会の言うように、機械が魔獣を生みだしたとしても、魔獣が原因で滅んだとは考えにくい、ってこと」


 だが、レアルは平然とそれを受け止める。教会の人間でありながら、教会の教えに疑念を抱いているだけのことはあった。


「大昔のことだからね、もっと強い魔獣がいたのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。僕が機械の研究を続けているのは、それを見つけるため、っていうのもあるかな。あっ、お茶菓子も好きに食べていいよ」


 ラバンは二人が遠慮していると思ったのか、自分からお茶菓子を手に取って口にする。二人もそれに倣った。


「その言い方だと、他にも目的があるみたいだな」

「鋭いね。僕の最大の目的は、機械を世界に普及させることだからね」

「なっ」

「えっ」


 そこで、二人の言葉が固まった。禁忌とされている機械の研究をするだけではなく、それを普及させようとまで考えているとは及びもしなかったからだ。


「他の街で魔獣の被害がないのは、神術使いが結界を張っているからだ。でも、この街は結界がなくても魔獣を対処することができる。機械が普及すれば、神術使いがいらなくなる可能性だってあるんだ」


 そんな二人の様子を気に留めることもせず、ラバンはそう続けた。


「いや、機械だって使う人間に左右されるんじゃないのか」


 デルタはそう反論する。傍目から見ても、銃や大砲が簡単に扱えるようには思えなかったからだ。


「機械は誰が使っても、一定の効果を発揮できる。君達が使っても、同じ効果を発揮することは十分に可能だ。もちろん、使い方を覚える必要はあるけどね」

「それが事実なら、普及すれば世界のあり方が変わってしまうな」


 反論をあっさりと覆されて、デルタは息を吐いた。機械が普及して神術使いがいらなくなる――それは魔術師も必要なくなる可能性をも示していた。


「だから、教会は機械を禁忌としているんじゃいかな。普及してしまうと、自分達の優位性が崩れてしまうから。ちょっと邪推し過ぎているかとも思うけどね」

「さすがにそれは飛躍しすぎな気がするよ」


 レアルは怒りこそしなかったものの、呆れ半分驚き半分といった感じだった。まともな教会の人間だったら、罰当たりと大激怒していたところだろう。


「ところで二人とも、一つ聞いていいかな。神術や魔術で空を飛ぶことはできるかな」


 ラバンは突然話を切り替える。


「そんな術、聞いたことがないよ」


 レアルは即座に首を振った。


「試してみたことはあるが、空を飛ぶことはできなかった」


 デルタはかつて、空を飛ぶ魔術というものを試してみたことがあった。風の魔術で自分の体を少しだけ浮かせることはできたが、それ以上の進展はなかった。


「神術でも魔術でもできないことが、機械ならできるってことを証明しようか」

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