機械の街の指導者
破裂音が絶え間なく響き渡った。
三つ首は動きを鈍らせるものの、致命傷には至っていない。
「距離を取って戦うように。また神術使いのお世話になりたくはないだろう」
旦那の指示で、男達は三つ首から距離を取る。
三つ首の前足が薙ぎ払うかのように放たれたが、それは空を切った。
「このままだと、じり貧だな」
デルタはそう呟いた。一見優勢に事は運んでいるように見えるが、何かの拍子で崩れてもおかしくはない。手を出さないことは決めていたが、最悪の場合は致し方ないと覚悟していた。
「大砲、準備できました」
その言葉と共に、人が二人三人くらいは入れそうな筒状の物が運ばれてきた。
「よし、銃撃隊は牽制射撃に切り替えて」
「了解」
今まで直接本体を狙っていたものが、足元に切り替わった。
そのせいか、三つ首は一瞬動きを止める。
「大砲、発射!!」
轟音が響き渡った。
「すごい音」
レアルは思わず耳を押さえていた。
「全くだ」
デルタは耳こそ押さえなかったものの、レアルと同じ感想を抱いていた。
三つ首の方を見ると、相当に効いているのか悶え苦しんでいる。
「大砲、再発射までどれくらいかかりそうかな」
「はい、さして時間はかかりません」
「なら、準備完了次第追撃を。銃撃隊は牽制を続けて」
「了解しました」
三つ首が悶えている間に、次の準備に取り掛かっていた。
「大砲、発射準備完了しました」
「よし、大砲、発射!」
二発目の大砲が放たれた。
三つ首は悲鳴を上げると、そのまま崩れ落ちるように倒れこんだ。
「終わった、のか」
三つ首が動かなくなったのを見て、デルタは大砲の威力に脅威を感じていた。どういう原理で動かしているのかはわからないが、下手な魔術よりも威力がある。
「ありがとう、と言いたいところだけど」
旦那が二人の前に立った。
「色々と聞きたいことがある。構わないかな。まずは名前を名乗っておかないといけないかな。僕はラバン。一応、この街の指導者ということになっている」
「デルタだ。見ての通り、魔術師だ」
「レアルだよ」
「さて二人とも、どうしてこの街に来たのか説明してくれないかな」
簡単な自己紹介を終えると、ラバンは単刀直入に聞いてきた。
「この街は誰であっても受け入れる、というのが方針のはずだが」
「もちろんだ、それを決めたのは僕だからね」
「なら、わざわざ理由を問う必要はないだろう」
「ああ、勘違いさせたようだね。別に責めているわけじゃない。これはあくまで僕個人の興味本位だよ」
ラバンはゆっくりと首を振った。
「興味本位?」
「そう、あんな方針を決めておいてなんだけど、本当に教会の人間、しかも神術使いが来るなんて思いもしなかったからね」
そう言われて、デルタはレアルに視線をやった。それを受けて、レアルは小さく頷く。
「ボクは、機械が本当に禁忌なのか。それを確かめるためにこの街に来たんだ」
「教会の人間が、教会の教えを疑うのかい」
ラバンは驚いたような表情になった。
「本当に機械が禁忌なら、この街はとっくに滅んでいるはずだよね」
「そういう考え方もあるのか、いや、実に興味深いね、君は」
「だから、機械のことを色々と教えてほしいな、って」
「それなら、僕の研究を直接見るといい。最先端の機械は取り揃えてあるから」
レアルがそう言うと、ラバンはあっさりと快諾した。
「ラバン、いくらなんでもそれは」
大砲を持ってきた男が声を上げる。
「テッサ、僕は一度教会の人間とじっくり話をしたいと思っていたんだ」
「ですが、ここを潰しに来たのかもしれませんよ」
「それなら、わざわざ僕達を助けたりはしないと思うけど」
「確かに、そうかもしれませんが」
「何かあったらそれは僕の責任でどうにかする」
「あなたがそこまで言うなら、仕方ありませんね」
テッサはレアルを一瞥すると、諦めたようの息を吐く。
「大砲のメンテナンスがありますので、これで失礼します」
そして、数人の男達と一緒に大砲を引きずって行った。
「すまないね。テッサは優秀な副官なんだけど、どうにも教会に対して敵対心が強くて」
「いや、あれが当然の反応じゃないか」
軽く頭を下げるラバンに、デルタはそう返していた。むしろ、教会の人間に対して開放的なラバンの方が異常といってもいい。
「まあ、普通に考えればそうだろうけど、僕は教会の主張が曖昧なように思えてね。一度、教会の人間と話をしたいと思っていたんだ。それが神術使いなら更に言うことはないかな」
「まあ、教会の主張が曖昧だということは、俺も感じてはいたが……そこまで、深く考えたことはなかったな」
「詳しい話は僕の研究所でしようか。お茶でも飲みながらね」