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決意

「私も気になってはいたのですよ。どうして、以前と姿が異なっているのか、と。まさか、その少女の体を乗っ取った、というのですか」

「あの時、私は肉体を消滅させられ精神だけがこの世界を漂っていた。最初こそ、僅かな意識しか持っていなかったが、長い年月をかけてようやく他者に関与できる程度まで回復した。そして、かつての技術を用いて私の肉体を作らせていた。全ては、こうして甦るために」


 エクスの問いに、ルグレはこれまでの経緯を簡単に説明する。


「それで、つい最近まであなたの気配を感じなかったわけですね。そこまでして、この世界に甦ってどうするつもりです」

「世界をあるべき姿に戻す」

「あるべき姿に戻す、ですか。随分と抽象的な言い方をしますね。かつては、この世界そのものを滅ぼそうとしていたとは、到底思えませんよ」


 エクスの言葉そのものは丁寧だったが、鋭さが増していた。


「どういうことです。あなたは、この世界をあるべき姿に戻す。だから、自分を甦らせる手伝いをしろ、と。ですが、世界を滅ぼすなどとは聞いておりません」


 それを聞いて、ドロクがルグレに詰め寄っていた。


「人間……いや、私を人間と呼んでいいのかはわからないが。数百年も経てば、考え方も変わるものだ。今では、世界を滅ぼすことに意味はないと考えている」

「そうでしたか」


 ドロクは完全には納得できていないようだったが、それを聞いて引き下がった。


「返せ」


 それまで黙っていたデルタが、急に言葉を発した。


「レアルを返せ。レアルの身体は、お前のものじゃない‼」


 デルタは激高してルグレに叫んでいた。


「何を今更。もはやこの身体は私のものだ。元の持ち主は死んだのと変わらない。返せと言われて、返すとでも」


 ルグレは冷ややかに返した。


「ふざけるな! 俺は、レアルを助けるためにここまで来た。それなのに、こんな、こんなことが許されるのか」


 デルタは膝から地面に崩れ落ちる。


「まさか、こんなことになってしまうとは」


 エクスは崩れ落ちたデルタに手を差し出した。


「俺は、どうすれいい」


 デルタはエクスを見上げてそう尋ねた。差し伸べられた手を取ることができなかった。


「このままルグレを放置すれば、世界にとっては良くないことになるでしょう。ですから、私としてはルグレを倒してほしいと思っています」


 エクスはそこで言葉を切った。


「ですが、ルグレがあなたの大切な人の体を乗っ取っている以上、ルグレを倒すことはあなたの大切な人を倒すことにもなります。だから、あなたが決めてください」


 そして、エクスはデルタを無理に立ち上がらせた。


「世界のために、苦渋の決断をしてくれ、とは言わないんだな」

「こういうことは、最終的に自分で決めないといけません。そうしないと、後悔します。私も、経験がありますので」


 エクスはふっと笑みを見せた。


「さっきから聞いていれば、まるでその男が私を倒すかのような物言いだな。まあ、エクスは私には敵わないのはわかっているから、その男を連れて来たことは容易にわかるが。その体たらくで、私をどうにかできるのか」


 ルグレが小馬鹿にするように言う。


「そうですね。あの時も、私はあなたに全く敵いませんでした。今でも、その力関係は変わっていないと思いますよ。ですから、彼を連れてきました」

「だが、この身体の持ち主の知り合いだった、ということが誤算だったか」

「全く、運命というのは皮肉なものです」

「そして、それは私にとって都合よく働いた、と」


 ルグレの言葉を聞いていて、デルタは気が狂いそうになっていた。レアルの姿で、レアルの声で、全く違う何かが喋っている。それを事実として受け入れることができなかった。


「ルグレ様。どうします」

「私がエクスの相手をしよう。お前は、そっちの男を適当にあしらえばいい」


 ドロクの問いに、ルグレはそう指示を出す。


「まずいですね。デルタはこの調子ですし、最悪私が一人で二人を相手にしないといけませんね。一旦離脱することも考えた方がよさそうです」


 状況が悪化していることに気付いて、エクスの表情に焦りが見え始めていた。


「エクス、俺は……」


 デルタはまだ迷っていた。このままでは、レアルの身体を乗っ取った何かが世界を良くない方向に向かわせる。それは、レアルも望んでいないだろう。だから、それを止めることはレアルの為でもある。

 理屈ではわかっていても、感情がそれを許さなかった。どうしてもレアルを倒したくない、そういう感情を捨て去ることができずにいた。


「止めて、ボクを殺さないで」


 急にそう言われて、デルタはルグレを見てしまう。一瞬、レアルが意識を取り戻したのかと思ったからだ。


「元の身体の持ち主なら、そう言うかと思ってな」


 デルタの反応を見て、ルグレは愉快そうに笑った。


「エクス、俺は覚悟を決めた。もうこれ以上、レアルの身体で好き勝手されるのは許せない」

「……わかりました。あなたには、辛い役目を負わせてしまったこと、申し訳なく思います」


 デルタの悲壮に満ちた表情を見て、エクスは申し訳なさそうに言う。


「ルグレ、だったな。お前は俺にとって触れてはいけない部分に触れた」

「ほう、だから何だというのだ」

「倒す。それだけだ」


 デルタは右手に炎を、左手に氷を宿らせた。


「いいだろう。相手をしてやろう。ドロク、エクスの足止めをしていろ。お前でもエクスの相手は厳しいだろうからな」


 ルグレはデルタの方に興味を示したのか、自ら相手をすることにする。


「レアル、お前を助けられなくてすまない。だが、お前だけをいかせたりはしない」


 すぐさま炎と氷が切り離され、今度は雷と風が右手と左手に宿った。


「!?」


 それを見て、ルグレの表情から余裕が消えていた。


「その魔術は、まさか……」


 かつて自分を倒したものと同じ魔術を見て、ルグレはすぐさま動き出した。

 デルタは四つの魔術を合成させると、間髪入れずにそれをルグレに放った。


「ちぃ」


 ルグレは舌打ちすると、地面を蹴ってその魔術をかわす。


「戻ってこい」


 デルタは飛ばした球体を引き戻した。もう一回同じ物を作るのは時間がかかるし、その隙をルグレがくれるとは思えなかった。


「よもや、その魔術を使いこなす人間がこの時代にもいようとは。魔術師が属性を持つようになった現代で、それを使える魔術師がいるとはな」

「あいにく、俺は属性がないからな。おかげで、こんなよくわからん魔術が使えるのは喜んでいいのか、悪いのかわからないが」


 デルタはこの球体をルグレに当てることの難しさを痛感していた。

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