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対峙

「今はお互いに様子を見合っている、といったところでしょうか」


 エクスの視線の先には、互いに牽制し合っている二組の集団があった。激しくぶつかり合った後だったのか、死体らしきものもかなりの数横たわっていた。


「あれには関わらずに、その彼女とやらを倒す方向でいいんだな」


 それらを横目で見ながら、デルタはそう言った。

 二人で介入したところで状況が変わるとも思えなかったし、それなら頭を潰した方が効率的に思えた。


「そうですね。頭を潰せば、自然と集団は瓦解するものですよ」

「だが、よくその彼女の位置がわかるものだな」

「彼女はその強力な力故、気配が独特なのですよ。一回それを覚えてしまえば、絶対に忘れられないほどに」

「だが、恐らく頭の傍にはドロクがいる。俺はそいつに手も足も出ない、とまではいかないにしろ、まともにやり合って勝てる相手ではないんだが」


 デルタはかねてからの懸念を口にした。切り札ともいえる魔術を覚えたとはいえ、発動するにも制御するにも時間がかかる。ドロクの相手をしながらそれを行うのは到底無理だった。


「なら、そのドロクとやらは私がどうにかしましょう」


 すると、エクスは事も無げにそう返した。


「簡単に言ってくれるが、あなたは相手の実力は知らないだろう」

「私が敵わないのは彼女だけですよ。それ以外の相手に引けは取りません」

「随分な自信だな」

「無駄に長生きしているわけではありませんので」


 エクスは自嘲気味な笑みを浮かべる。


「最低でも、五百年以上は生きているんだったな」

「ええ。もうどれだけ生きているのかも覚えていませんが。まあ、時間だけは無駄にありましたので、各地を転々として、そこで起こったちょっとしたトラブルを解決したりと、気ままにやってはきました。もちろん、彼女の痕跡がどこかにあるかもしれない、という危惧からですが」

「それだけ長い間探していても、見つからなかったのか」


 そこで、デルタは疑問を抱いた。五百年以上世界を回っても見つからない、などということがあるのだろうか、と。


「お恥ずかしい話ですが、彼女に気付いたのは本当につい最近のことです。それこそ、まるで降って湧いたかのように、突如として彼女の気配を感じた、という感じですね」

「いや、あなたを責めているわけじゃないんだ」

「いえ、責められても仕方ないとは思っています。私がもっと早く気付ければ、このような事態にはならなかったのですから……彼女の気配が近くなってきましたね。覚悟はいいですか」


 エクスに言われて、デルタは頷いた。


「ですが、あの集団に見つかっても厄介ですので、見つからないように迂回して行きますよ」

「ああ」


 二人は慎重に足を進めた。


「ルグレ様。どうしてこのような回りくどいことを」


 ルグレの傍らに控えていたドロクがそう尋ねる。


「回りくどい?」


 ルグレは心底からその問いの意味がわからない、というように返す。


「あなた様が本気になれば、あの程度の一団を蹴散らすことなどわけないはず。いや、そもそもこれが世界を元の姿に戻すことと、何の関わりがあるのでしょうか」

「私の命が聞けないと」


 ルグレはドロクの問いには答えず、威圧するように言う。


「いえ、そういうわけでは」


 それに押されたのか、ドロクは言葉を濁した。傍から見れば、十代の少女が四十過ぎの男を威圧しているという異様な光景だった。


「愚かな人間同士で、殺し合って勝手に滅びればいい」


 そして、ルグレはそう呟いた。


「何か、おっしゃいましたか」

「お前が気にすることではない」

「そうですか、わかりました」


 ルグレに言われて、ドロクは渋々ながらも引き下がった。


「ネズミが紛れ込んでいるようだな」


 不意に、ルグレはそう言った。


「ネズミ、ですか。おい、周囲を探れ」


 何者かが接近していることを示唆されたので、ドロクはすぐさま指示を飛ばした。


「待て、二匹ほどいる。一匹は、私もよく知っているネズミのようだ。そうなると、下手な者を送っても返り討ちに合うのが見えている」


 だが、ルグレはそれを制止する。


「では、どうしますか」

「もう何百年前のことになるかも忘れたが、久々の再会だ。私直々、丁重にもてなすことにしよう」

「わかりました」


 ドロクはルグレの旧知の者がいる、ということに疑問を感じたものの、最終的にはその言葉に従った。


「さて、恐らく彼女の方もこちらに気付いていることでしょう。それでも、動いてこないということは、いつでもこい、という挑発でしょうか」


 ルグレとドロク、それと数人の男達の姿を確認すると、エクスはそう言った。


「あの中に、彼女とやらがいるのか。この距離だと、俺には性別を判別することもできないんだが」


 デルタも数人の集団がいることは確認できたが、それが男なのか女なのか判別することはできなかった。


「私も似たようなものですよ。気配で判別していますから」

「で、どうするんだ。気付かれているなら奇襲は無意味だろう」

「正面から行くしかありませんね。こうなったら、小細工は効きませんから」


 エクスはこれといった策も立てずに、集団の前に姿を現す。


「誰だ!?」


 突如として姿を現したエクスに、ドロクを除いた男達は反射的に飛び掛かっていた。

 エクスはあっという間に男達を叩きのめす。


「さっき言っていたこと、ただの強がりじゃなかったようだな」


 それを見て、デルタはエクスが言葉通りの強さを持っていたことを思い知った。


「久しいな、エクス」

「ええ、お久しぶりです。ルグレ」


 そのやり取りから、目の前にいる少女が今回の黒幕だとわかる。だが、その姿はどう見てもレアルで、ルグレと呼ばれるような存在ではない。


「何を言っているんだ。あれは、レアルだ。ルグレなんて名前じゃない」


 エクスが名前を呼んだことといい、レアルが知らないはずのエクスを知っていたことといい、わけがわからずにデルタは取り乱していた。


「あなたのお知り合いですか。でも、間違いなく彼女はルグレです」


 その様子を見て、エクスはそう断言した。


「ほう、この体の知り合いか。残念だが、この体は私のものになった。元の持ち主は死んだと思ってくれていい」


 ルグレはデルタに興味を示したのか、説明するように言う。


「そんな、馬鹿な……」


 最悪の事態を想像して、デルタは立っているのもやっと、という状態になってしまう。


「信じる信じないはお前の自由だ」


 デルタは必死になってそれを否定しようとするも、レアルの姿で全く違う口調で話すルグレに、それができずにいた。

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