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真実

「ここが、あなた達の拠点なの」


 レアルが連れていかれたのは、当然のことながら全く知らない場所だった。見たことがないような物も散見される上に、建物自体も全く見たことがないような材質で作られている。


「見ず知らずの場所に連れてこられたというのに、随分と落ち着いているな」


 レアルが取り乱したりしないのを見て、ドロクは意外そうに言う。


「今更じたばたしたって、何にもならないからね」

「確かにそうだが、不安にはならないのか」

「不安に決まってるじゃない。でも、こういう時こそ、自分に何ができるのか、最善の手は何なのか、しっかり考えないと」

「さすがは、巡礼の神術使い様といったところだな」


 ドロクは馬鹿にしているのか、それとも褒めているのかわからないような口調で言った。


「そこは、巡礼の神術使いとか関係なくて、ボク自身の資質だって言って欲しいところだけど。ほとんどの人が、ボクのことを巡礼の神術使いという色眼鏡で見るから、嫌になっちゃうよ」

「肩書もまた、人を成す一角だとは思うがね。まあ、それに惑わされて本質を見れないのは三流だが」

「何で、敵であるあなたとこんな話をしてるんだろう」


 ドロクが思いの外饒舌で、なおかつ話の内容も本質を突くようなものだったこともあって、レアルは少し戸惑っていた。


「ドロク様。お戻りになられたのですか」


 そうこうしていると、ドロクの部下らしき男が話しかけてきた。


「ああ」

「? 今回は、巡礼の神術使いを殺害することが目的だったはずでは」


 男はドロクの隣にいるレアルを見て、怪訝そうな表情になった。


「予定が変わってな。彼女は巡礼の神術使いだが、リリアンの娘でもあった。だから、適合する可能性が高いと踏んで、こうして連れて来た」

「リリアンというと、あなたが初期に作り出した……まさか。子を成すとは」


 ドロクの答えに、男は驚いた表情を見せた。


「そうだな。私も初めて彼女を見た時は、リリアンの生き写しかと思って驚いた。見た目の年齢的には本人とは思えなかったが、まさか娘だったとは」

「では、今行っている適合実験は中止しますか」

「いや、続けろ。あくまで彼女は可能性が高い、というだけだ。必ず適合するとは限らん」

「わかりました」


 男はそう言うと、足早にその場から立ち去った。


「あの時も、適合とか何とか言ってたけど、どういうことなの」


 ドロクが答えるとは思えなかったが、レアルは聞かずにいられなかった。少なくとも、まともなことではないことは予想できたが、それ以上は何もわからない。


「この世界の成り立ちを、少し話そうか」

「この世界の、成り立ち?」


 全く関係のない話を始めるドロクに、レアルは若干苛立ちを感じつつも聞き返す。


「元々、この世界には魔術も神術も存在していなかった。もちろん、魔獣もだ。なら、それらはどうして存在するようになったのか」

「人間が、機械を悪用したから魔獣が生まれて、魔獣に対してなす術がない人間を憐れんだ神が、神術と魔術を授けた」


 ドロクの問いかけに、レアルはそう返した。といっても、それは教会の教えであり、レアルが真実かどうか疑っていることでもあった。


「それは、教会の教えだな。そして、それが人々の間で信じられている……その様子からすると、お前はそれを信じてはいない、あるいは疑っているようだが」


 レアルの表情を読み取ったのか、ドロクはそう言った。


「それは、否定しないよ」

「全くもって、お前は面白い。教会を代表するような立場でありながら、教会の教えに疑問を抱くとは」


 ドロクは愉快そうに笑っていた。


「続きは」

「教会の教えは、半分は真実だ。だが、半分は嘘でもある。魔獣を生み出したのも、魔術や神術が存在するのも、全て人の手によるものだ」

「どういうこと」


 ドロクの言葉は衝撃的なものだった。魔獣も神術も魔術も全て、人が生み出したのなら、何のためにそんなことをしたというのか。


「お前の母親は、私が作り出したと言ったな。人を作り出すことができて、魔獣を作れないなんていう話はないだろう」

「!?」


 そこで、レアルははっとした。まさに、ドロクの言う通りだったからだ。


「そして、それらを作り出したのは、全て機械によるものだ」

「機械が、魔獣を。それだけじゃなくて、神術や、魔術まで生み出したっていうの。どうして、そんなことを」

「大昔の人間が考えていたことなんぞ、わからんよ。ただ、事実としてそれが原因で機械によって栄えていた文明は滅び、機械そのものもほとんど姿を消した。そして、生き残った僅かな人間達は、過ちを再び犯すまいと機械を禁忌として定めた」

「そんな、ことって。でも、それなら魔獣が存在するのも、機械が禁忌とされているのも、全て説明は、つく、ね」


 レアルはドロクの口から語られたことを、全て真実としては受け入れられなかった。だが、それが真実であるのなら、色々なことに説明がつくのも否定できなかった。


「きゃあぁぁぁ!!」


 突如として、甲高い悲鳴が上がった。

 どこから聞こえたのかわからなかったが、声の主が女性であることはわかった。


「また、失敗したか」


 それを受けて、ドロクはいつものことだ、というように淡々としていた。


「あの悲鳴、ただ事じゃないよ。一体、何をしているの」


 レアルは思わずドロクに詰め寄っていた。


「適合するかどうか、それを実験している。失敗した素材は、九割方死んでいる。運よく生き残ったとしても、それはもはや生きているとは言えないがな」

「全く関係ない人を犠牲にしてまで、何をしようとしているの」

「神の再誕だ」

「神の、再誕?」


 ドロクが予想だにしなかったことを言うので、レアルはそれをただ復唱してしまう。


「そうだ。かつて、機械が栄えていた頃に存在していた神。どういうわけか、その神は精神だけが存在し、今まで私達に指示を出してきた。そして、自分がこの世界に再誕すれば、世界をあるべき姿に戻すと」

「そんなことのために、神術使い達を犠牲にしたっていうの」

「人の心配よりも、自分の心配をしたらどうだ。お前も実験体の一人に過ぎない」

「くっ」


 レアルは唇を噛み締めた。この状況では、他の神術使いを助けるどころか、逃げることすらままならない。


「精々、適合することを祈るんだな。もっとも、適合したらそれはそれで生きているとはいえないだろうが」

「どういう……」


 レアルの言葉を最後まで聞かずに、ドロクはそこから去っていった。

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