魔獣襲来
機械の街というから、あちこちで機械が使われている。
少なくとも、デルタはそう思っていた。だが、実際のところはそうではなく、他の街とさして変わらない風景が流れていた。
「思ったよりも、普通の街みたいだね」
レアルも同じ感想を抱いたようだった。
「どこか、適当な店にでも入ってみるか。機械が売っているかもしれない」
「そうだね」
二人はそう決めると、手近にあった店の扉を開いた。
「いらっしゃ……」
店員の言葉がそこで止まった。視線はレアルの服に釘付けになっている。
「旅の者なんだが、この店で売っている物を見せてくれないか」
教会の人間がどうしてここにいる、と言われる前にデルタは話を進めた。
「あ、はい。ここでは農作業用の機械を取り扱っていますが」
相手が客だとわかると、店員は態度を一変させた。このあたりの機敏はさすがに商売人といったところか。
「農作業用か。具体的にはどんなものなんだ」
「例えば、こちら」
店員は奥の方を指さした。
そこには人が二人くらいは乗れそうな大きな箱状の何かがあった。
「あれで畑を耕すことができます。操作にちょっと慣れがいりますが、人力よりもはるかに効率的です」
「へぇ」
レアルは思わずそう声を洩らしていた。
「あとは、こちらの……ちょっと危ないから下がっていてください」
店員に言われて、二人は距離を置いた。
「はい、結構です。こちらの機械は、と」
店員は腕ほどの長さの何かを持ちあげると、何かしらの操作をする。
けたたましい音が響き渡った。よく見ると先端から半分ほどが回転しているように見えた。
「この回転部分を木に当てる事で、木を切断することができます」
店員は機械を止めてからそう説明する。
「斧よりも楽に切れるのか」
「はい、もちろんです。稼働させたらあとは当てるだけですから」
デルタの問いに、店員はさも当然というように答えた。
「他の機械も説明してくれないか」
「いいでしょう」
「いかがでしょうか」
店内の機械を一通り説明し終わると、店員はそう言った。一口に農作業用といっても用途や値段も様々だった。
「色々と説明してもらって悪いが、ちょっと俺達には扱いきれそうにないな」
「旅の方が持ち歩くには、かさばる物も多いですからね」
デルタが申し訳なさそうに言うと、店員はさして気にもしていないというように応じる。
「色々とありがとう」
二人は店を後にした。
「農作業用の機械があるなんて、意外だったね」
「そうだな」
レアルの言葉に、デルタは頷いた。話を聞いた限りではかなり便利な代物で、農作業の効率が跳ね上がりそうな物ばかりだった。
「なんか、騒がしくなってきたけどどうしたのかな」
レアルが不意に足を止める。それまでもそこそこの喧騒ではあったものの、この騒ぎは異常といっても良かった。
「言われてみれば」
デルタは周囲を見渡したが、これといった原因は特定できなかった。
「何かあったのかな」
「わからないが、この騒ぎはあまりよろしくない感じがするな」
二人の疑念は、直後に上がった悲鳴で判明することになる。
「魔獣が街に侵入してきた!」