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崩れた均衡

「ほう、私の本気を受け止めるか」


 自分の放った氷がデルタの炎に相殺されたのを見て、ドロクは感心したように言った。


「俺の炎は二発分なんだがな」


 デルタは内心でかなり焦っていた。

 一見すると互角のようにも見えるが、デルタの方が数多くの魔術を放っている。このまま戦い続ければ、デルタの方が先に魔力が尽きるのは目に見えていた。


「同時に複数の魔術を扱うというだけでも、称賛に値するがな。だが、それもいつまで持つかな」


 ドロクもそのことに気付いているようで、決して勝負を急ごうとはしない。


「それに、私とお前は互角でも、あちらはそうはいかないだろう」


 ドロクの指摘通り、護衛達はかなり押されていた。

 レアルの神術の加護を受けているとはいえ、人数的にも技量も相手の方が上回っている。


「さすがに放置はできないか」


 デルタは若干苛立ちつつも、援護しようとする。


「させるとでも」


 だが、すぐさまドロクの魔術が放たれた。


「くっ」


 デルタは援護を諦めて、ドロクの魔術を相殺した。


「このままじゃ、ジリ貧だな」


 デルタは思わず舌打ちしてしまう。


「ぐわぁ!」


 ついに、護衛の一人が戦闘不能に陥ってしまった。


「偉大なる主神の名において、かの者の傷を……」

「させるかよ」


 レアルは倒れた護衛の傷を癒そうとするが、敵の一人がそれを阻むように飛び掛かった。


「偉大なる主神の名において、我を外敵から守りたまえ」


 レアルが咄嗟に張った障壁に弾かれて、敵は大きく吹き飛んだ。


「さすが巡礼の神術使い。一筋縄ではいかないか」


 かなり吹き飛ばされたが、敵は難なく体勢を立て直す。


「おい、残りの二人をさっさと片付けて、巡礼の神術使いに集中するぞ」

「おう」


 そうでなくても押され気味だった護衛達は、数が減ったことでますます押されてしまう。


「ぐっ」


 そうこうしているうちに、残りの二人も戦闘不能にされてしまった。


「よし、巡礼の神術使いを捕らえるぞ」


 敵はレアルの神術を警戒してか、すぐに行動を起こさなかった。

 じわじわとレアルとの間合いを詰めて、ある程度縮まったところで一斉に飛び掛かる。

 だが、レアルの張った障壁に阻まれて次々に弾き返された。


「デルタ、こっちはこっちで何とかするから、自分の方に集中して」


 レアルはデルタに向かってそう言った。


「いくら強固な障壁でも、一点に集中すればいずれは砕ける。また張り直すには時間がかかるだろうから、その僅かな隙を見逃すなよ」


 ドロクが敵の男達にそう指示を出す。


「いくら何でも、レアルが本気で張った障壁がそうやすやすと」


 デルタも神術に詳しいわけではないが、熟練者が張る障壁を破るのは並大抵のことではない、ということくらいは知っていた。それが巡礼の神術使いであるレアルのものなら尚更だ。


「まあ、普通ならそうだろうな。だが、こちらも精鋭を集めてきた。いかに巡礼の神術使いが張った障壁とはいえ、完全な物など存在はしまい」


 だが、ドロクは余裕のある口調でそう言う。

 その様子を見て、デルタは相手が今回の作戦を全て看破していたことを思い出した。


「くそっ」


 どうにか援護をしようにも、ドロクの魔術に対応するだけで手一杯だった。


「余所見をしている余裕などあるのかね」


 ドロクの放った氷は、先程よりも威力が増していた。

 デルタは炎と風を同時に放つことで、どうにかそれを打ち消した。


「違う属性を混ぜることで、互いの威力を高めるか。だが、それだけ術を乱発していれば、魔力が尽きるのも時間の問題だろうな」

「本当に余裕だな。全く持って憎らしい」


 ドロクの言うように、デルタはかなり疲弊していた。息切れを起こすまでには至らないものの、全身にうっすらと汗がにじんでいる。


「研鑽を長いこと続けてきたと言っていたが、一体、どこでそんな魔術を身に付けたんだ」

「組織の中には力を授かった者も数多いが、私は効果的な研鑽方法を授かったに過ぎない。まあ、力を授かることそのものは否定も肯定もしないがね。それこそ、各自の自由だ。最終的に我々の目的が達せればいいからな」


 ドロクは再度、右手に氷を宿らせた。

 デルタもまた、右手に炎を、左手に風を宿らせる。

 デルタは一瞬だけレアルの方に目をやると、敵はレアルの障壁の間合いを見切ったのか、弾かれないギリギリを保って一点に集中して攻撃をしていた。


「余所見とは余裕だな」


 ドロクの放った氷は、今までとは比べ物にならない速度で飛んできた。

 デルタはそれを打ち消すように炎と風を放ったが、今度は完全に打ち消すことができなかった。


「なっ」


 咄嗟に炎を放つことで、どうにかその氷を完全に打ち消すことができた。


「そろそろだな」


 それを見たドロクは、そう呟いた。

 何がそろそろだ、とデルタが聞こうとした時、硝子が割れたかのような音が鳴り響いた。


「まさか」


 デルタが音のした方を見ると、敵が一斉にレアルに飛び掛かっていた。


「偉大なる主神の名において、我を外敵から……」

「遅い!」


 レアルはすぐに障壁を張り直そうとするが、敵の動きの方が僅かに早かった。

 そして、その手がレアルに触れようとした時。


「雷よ、全てを貫け!」


 デルタはあらかじめ詠唱済みだった上位魔術を敵に放った。

 雷は男達を次々と貫いていく。

 不意を突かれたせいか、ほぼ無防備で雷をくらっていたが、奥の方にいた二人は咄嗟に飛び退いて雷をかわしていた。


「打ち漏らしたか」


 デルタは唇を噛み締める。

 当初の予定では、一瞬の隙を付いて上位魔術で全員を倒し、レアルと二人でドロクを何とかしようと考えていた。

 だが、二人も打ち漏らしてしまったことで、その計画も全て破産になってしまった。


「まさか、上位魔術までも同時に詠唱できるとはな。お前にはつくづく驚かされる。お前達、その男の足止めをしろ。私が上位魔術を詠唱する時間を稼げ」


 その言葉を聞いて、デルタはかなりまずいことになったと思っていた。

 通常魔術の打ち合いでも分が悪いのに、上位魔術など使われたら対処のしようがない。


「こうなったら、詠唱する時間を与えないようにするしか」


 デルタはドロクの詠唱を阻止しようとするも、その前に二人が立ちはだかる。


「まさか、一度に四人もやられるとはな。だが、ドロク様が本気になった以上、お前はもう終わりだ」

「まだ、終わってないよ」


 レアルがデルタの横に立った。


「デルタ、まだ終わってないよ。最後まで、諦めたら駄目だからね」

「ああ」


 デルタは頷くと、状況を打開するべく策を巡らせ始めた。

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