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誘拐の真相

「ドロク様。当初の予定通り、巡礼の神術使いは殺してしまって構わないのですか」


 土中に潜んでいた男の一人が、後から現れた男にそう尋ねた。


「ん? ああ、当初はその予定だったな。だが、事情が変わった。生け捕ることにする」

「命令とあれば、従いますが。しかし、相手は巡礼の神術使い。そう簡単にいくとは思えません」

「だから、私も手を動かすことにする」

「そういうことでしたら」


 男は納得したのか、そこで引き下がった。

 このドロクとかいう男、相当な技量を持っているようだな。

 一連のやり取りを見て、デルタはそう推測していた。当初は殺すつもりだったのを生け捕ることにした、ということも気にはなっていたが、今はそれよりもこの状況をどうやって切り抜けるかの方が重要だ。


「答えていただけますか。どうしてお母様のことを知っているのかを」


 だが、レアルはドロクが自分の母親のことを知っていることの方に気が行っていた。


「レアル、今はそれどころじゃないだろう」

「わたくしのお母様は、どこで生まれたのか、どうやって育ってきたのか。それすらわからない人でした。ある時、お父様が行き倒れになっていたお母様を助けたのが馴れ初めだと」


 デルタが窘めるが、レアルは止まらなかった。


「ほう。リリアンは伴侶を見つけたか。そして、信じ難いことだが子まで成している。失敗作だとは思っていたが、別の意味ではそうでなかったかもしれんな」


 レアルの言葉を聞いて、ドロクはそんなことを口にする。


「失敗作、だと」


 その言葉の響きが気に入らないこともあって、デルタはドロクを睨みつけた。


「そうだな。どうせこの後絶望しかないのだから、お前の母親について教えてやろう。あれは、私が作った物だ」

「……どういうこと、ですか。まさか、あなたの娘だ、とでも」


 ドロクの言葉の意味がわからずに、レアルは困惑していた。


「娘、か。ある意味ではそうともいえるな。だが、あれは自然に生を受けたわけじゃない。文字通り、私が無から作り出した物だ」


 それを聞いて、デルタとレアルは言葉を失っていた。護衛の三人は、何のことかよくわからずに戸惑っている。


「人を、無から作り出す、だと。そんなことができるわけが……」


 デルタはどうにかそれだけを口にする。


「信じる信じないは自由だが。私がここでこんなでたらめを言う理由も、特にないとは思わないか」

「もし、本当に人を無から作り出せるとして。何のためにそんなことを。神をも恐れぬ行為ではありませんか」


 レアルの身体は震えていた。


「とある目的のために、調整された人の体が必要でね。それは自然に生まれた人の体では適合しないのだよ」

「適合?」

「まあ、それは君達が知る必要はないことだ。そんなわけでいくつも作ったが、リリアンはその内の一つだったわけだ」

「お母様が、自然に生まれた存在じゃない……」


 レアルは衝撃を受けたのか、膝から崩れ落ちる。


「レアル」


 デルタは咄嗟にレアルを支えた。


「あんな奴の言うことを、真に受けるな。どうせ、口からでまかせを言っているに過ぎない」

「でも、誰も素性を知らないはずの、お母様の名前を知っていた」


 デルタは震えるレアルの身体を必死になって支えるが、返す言葉は見つからなかった。


「リリアンは、最初こそ良く出来た素材だった。だから、名前を付けて安定するまで育てた。だが、成長するにつれて、全く適合していないことがわかった」

「だから、捨てた、のか」


 ほとんど言葉を口にできなくなっているレアルの代わりに、デルタはそう言った。


「察しがいいな。役立たずをいつまでも抱えていられるほど、我々も余裕がないのでね」

「傍から見れば、人と変わらないわけだからな。捨てたところで、普通に行き倒れていると見られるわけか……まさか⁉」


 そこである仮説を思い立って、デルタは顔を上げた。


「今までの神術使いの誘拐事件。被害者は全員が孤児だった。ということは、お前達が作って放り出した物を、回収しているのか」

「よく頭が回るようだな。ご名答だ。作り出した物を一々育てるのもまた手間だ。だから、少し育ったら後は孤児として放り出す。そして、勝手に育ててくれたのを回収する、という寸法だ」


 ドロクは感心した、というように数回手を叩いた。


「だが、どうして神術使いを回収する。お前達が作り出した物が全部が全部、神術使いになるとは限らないだろう」

「今までの実験の過程で、神術使いが適合しやすいと判明しているからな。だから、神術使いになった物だけを回収していた」

「お母様は……神術使いとしての適性はなかった。だから、捨てたの?」


 レアルは絞り出すように言った。もう、取り繕うような余裕すらなくなっていた。


「有体に言えば、そういうことだな。だが、まさか子を成して、しかもその子が巡礼の神術使いときた。これが運命の悪戯と言わずに何と言おう。間違いなく、最高の適合体になるに違いない」

「だから、レアルを回収すると、そういうことか」

「この人数差。それに、お前はともかく残りの輩は大したことはなさそうだ。そして、肝心の巡礼の神術使いはもはや立っているのもやっと、という状態。痛い目を見る前に撤退することをお勧めするが」


 ドロクは馬鹿にするかのように言う。


「ふざけるな! さっきか好き勝手なことを言って。そう簡単にお前達の思い通りにさせない」


 デルタは珍しく、声を荒げていた。


「できるかな」

「やってやるさ。レアル」

「……え?」


 デルタが声をかけると、レアルは弱々しく答えた。


「ショックなのはわかる。自分の母親が、自然に生まれた存在じゃない、なんて言われれば、俺だってショックを受けると思う。だけど、それ以上に、俺はレアルを失いたくない」


 デルタはレアルの肩を強く掴む。


「デルタ……」

「だから、今は無理してでも立ち直ってくれ。レアルが誘拐されたら、俺は今のレアル以上に落ち込むだろうから」

「全く、ボクが落ち込んでるのに、自分のことばっかり。でも、ボクのことを必要としてくれているのは、嬉しいよ」


 レアルは顔を上げると、弱々しいながらも笑みを浮かべた。


「なら、今は落ち込んでいる場合じゃないよね」


 そして、デルタの腕を掴むようにして立ち上がった。


「今は、ここを切り抜けることだけを考えるよ。デルタ」

「ああ」


 その様子を見て、デルタは力強く頷いた。

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