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囮作戦

「護衛といっても、それほど数がいるわけでもないんだな」


 作戦決行当日、神術使いの護衛として割り当てられた人数を見て、デルタはそう言った。さすがに十人近くの人数がつくとは思っていなかったが、それでも五人程度はつくと思っていた。


「神術使いも、それなりに人数がいるからね。一人一人に五人も六人も護衛をつけていたら、いくら人がいても足りないよ」


 一応変装のつもりなのか、レアルはヴェールを目深に被り、目元を隠していた。


「だが、孤児出身に限定すればそれほど数はいないんじゃないか。孤児が全員神術使いになるわけでもないだろうし」

「それもそうだけどね。あんまり護衛の数が多いと、相手が警戒して襲ってこない可能性があるからね。だから、意図的に護衛の数は減らしてもらったんだ」

「そういうことか」


 それを聞いて、デルタは頷いた。囮作戦なのに敵が襲ってこなかった、なんてことになったらそれこそ意味がない。


「それに、ね。ボクはデルタのことを信頼しているから。正直、デルタ一人でも十分だって思っているくらいだよ。でも、さすがに護衛が一人だとそれは逆に怪しまれるからね」

「なら、その信頼には応えないとな」


 レアルの信頼が重くも感じたが、それでもそれに応えたいとデルタは感じていた。


「お二方、そろそろ出発しますが、よろしいですか」


 護衛の一人が、二人に声をかける。


「あっ、ついつい話し込んでしまいましたね。それでは、出発しましょうか」


 レアルは神術使いの口調で答えた。


「しかし、わざわざ巡礼の神術使い様が囮になるなんて……確かに、他の神術使いよりはさらわれる可能性は低いでしょうが。もし、何かしらの問題があったらと思うと」

「わたくしの命も、他の神術使いの方の命にも差はありません。それなら、より問題を解決できる可能性がある人間が囮を務める方が合理的でしょう」

「それは、そうでしょうが」


 護衛は納得できないようで、言葉を濁らせる。


「もし、万が一があって、その責を問われることを気になさっているのでしたら、それは大丈夫です。わたくしの権限において、あなた方に責を問われないように手配します」

「い、いえ。別にそういうつもりでは……」


 図星を付かれたのか、護衛はしどろもどろになってしまった。


「それに、その結果は最悪の結果です。そうならないように全力を尽くすのが、あなたの仕事でしょう。よろしくお願いしますね」

「は、はい!」


 レアルの激励を受けて、護衛は勢い良く返事をした。


「大丈夫か」


 その様子を見て、デルタは若干の不安を覚えていた。この護衛の技量はわからないが、立ち振る舞いからしてそこまでの腕利きとは思えなかった。


「不安になった?」


 デルタの様子を見てか、レアルがそう囁いてきた。


「若干……いや、かなり、だな」


 デルタは言葉を濁そうとしたが、少し思案して正直に答える。


「どうしても、腕が立つ人って上の立場になっちゃうからね。こうして現場に来るのは、そこまで技量が無い人になることが多いんだ。それでも、今回はそこそこの人を回してもらえたとは思うけど」


 レアルは三人の護衛にちらっと目をやった。


「護衛をつけても誘拐されたのは、それが原因じゃないのか」

「かもしれないね。孤児出身の人達は、これといった後ろ盾もないし。あんまり技量が無い人が回されていたのかもしれないね」


 そう口にするレアルの表情は、どこか悲し気に見えた。


「レアル……」


 そんなレアルに、デルタはかける言葉が思い当たらなかった。


「レアル様」


 微妙な空気を打ち破るかのように、護衛の一人が声をかけてくる。


「どうしましたか」

「今まで神術使いが誘拐された場所を照らし合わせると、大体同じような場所になるようです」

「では、その場所を中心に回りましょう。もちろん、囮なのですから自然な形でお願いしますね」

「はい、我々が先導します」


 護衛は一人が先頭に立ち、もう一人がレアルの後ろに、残りの一人が左横に立った。デルタがレアルの右横にいるので、丁度レアルを囲むような形になった。


「この辺りで、神術使いが誘拐されたようですね」


 しばらく歩いた後、先頭の護衛が足を止めた。


「なるほど、ここなら物陰も多いし、潜んでいて奇襲するにはうってつけだな」


 デルタは周囲を見渡してそう言った。

 近くに森林があり、その中の様子は暗さもあって伺えなかった。この中から奇襲されたら、余程準備ができているか、相当の手練れでもない限り対処は難しいだろう。


「ええ、実際、この森の中から奇襲を受けたという報告も上がっています」

「だが、今のところはそういった気配はなさそうだが」


 デルタは森の方を注視したが、何者かが襲ってくるような感じはなかった。


「ここは空振りだったのかもしれませんね。次の場所に向かい……」


 護衛がそう言いかけた時、土中から五、六人が飛び出してきた。


「なっ……」

「構えろ!」


 突然のことに言葉を失う護衛を、デルタは怒鳴りつけた。

 それで我に返った護衛達は、次々に剣を構える。


「風よ、吹き荒れろ」


 飛び掛かってきた相手を押し返すように、デルタは風を巻き起こした。その風に押されて、相手はこちらに到達することなく地面に叩きつけられた。だが、そこまでダメージになっていないのか、相手はすぐさまに立ち上がった。


「まさか、土の中に潜んでいたとはな。完全に裏をかかれたか」


 奇襲を凌いだとはいえ、相手の数はこちらよりも上。それに、地面に叩きつけられてもすぐさま立ち上がったのを見る限り、相応の手練れだと予想できた。


「ほう、あの奇襲を難なく凌ぐか。さすがに巡礼の神術使い様には、良き護衛がついている」


 今度は森の中から何者かが姿を現す。ミハエルと同年代か、それより少し上か。いずれにしろ、今まで出会って来た相手よりはかなり年上だった。


「ばれていたのか」


 その言葉に、デルタはぞっとした。この作戦を立ててから実行まで、ほとんど時間は経っていない。作戦が漏れる可能性は、ほぼなかったはずだった。


「我々の情報網を、甘く見てもらっては困るな」

「なら、もう姿を誤魔化す必要はありませんね」


 レアルは目深に被っていたヴェールを上げて、素顔を露わにした。


「リリアン?」


 レアルの顔を見て、男は驚いたように声を上げた。


「……どうして、お母様の名前を」


 今度はレアルが驚きの表情を見せる。


「お母様、だと……なるほど、そういうことか。これはまた面白いことになっていたな」


 男は合点がいった、というようににやりと笑った。

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