機械の街
「その服で機械の街に行くのか」
「そうだけど、何か問題かな」
デルタの指摘に、レアルは当然というように答える。
「問題も何も、わざわざ教会の人間だと証明するような服で行かなくてもいいだろうに」
レアルの服装は修道服で、誰が見ても教会の関係者だということは明白だった。さすがに巡礼の神術使いであることまでは悟られないだろうが、それでも面倒ごとにはなりそうだった。
「ああ、そういうこと。ボクも最初は着替えようかと思ったんだけどね。よく考えたらその必要はないっていうか、あえてこの服で行こうと思ったんだ」
だが、レアルの答えは意外なものだった。
「どういうことだ」
デルタはレアルの真意が掴めずにいた。
「普通に考えれば、歓迎される存在じゃないってことくらいわかるよ。直接的な迫害はしてないけど、教会は機械を禁忌としているわけだし。だけど、それでボクが教会の人間であることを隠すのはフェアじゃないと思ったんだ」
「変なところで潔癖というか、生真面目というか。まあ、そういう考えは嫌いじゃないが」
レアルの言葉に、デルタは苦笑しつつもそう応える。
「あとは、教会の人間が機械のことを知りたいって言えば、それなりの対応をしてくれるかな、って。ちょっと期待しすぎてるかもしれないけど」
「門前払いされたらどうする」
「その時は、諦めて着替えるなりほかの方法を考えるなりするよ。そうならないといいな、って思ってるけど」
「レアルがそこまで言うなら、俺はそれに従うまで、か。一応、従者だしな」
デルタは改めて、レアルが物事を深く考えていることに驚かされていた。外見は自分よりも年下の少女なだけに、余計にそう感じてしまう。
「一応、じゃなくてれっきとした従者だよ」
「ああ、そうだったな。すまない」
レアルが口を尖らせたので、デルタは謝罪の言葉を口にした。時折こういった年相応の仕草を見せるのだから、かなり性質が悪いと思ってもいた。
「デルタの疑問も解決したことだし、先を急ごうよ」
「ああ」
機械の街はそう遠い距離ではないとはいえ、あまりのんびりしていると野宿するはめになってしまう。二人はどちらからともなく頷き合うと、先を急いだ。
「教会の人間が何をしに来た」
機械の街に到着して早々、予想通り門番に睨まれることになった。
「やっぱり、教会の人間はお断りなのかな」
レアルは門番をまっすぐに見据えた。
「俺個人としては、お断りもお断りなんだがな」
それに呼応するように、門番レアルをねめつける。
「個人としては、ということは、そうでない人間もいると」
デルタはレアルを庇うように前に出た。
「来る者は誰も拒まない、それがこの街の方針でな」
「例えそれが、教会の人間であってもか」
「そういうことだな」
門番は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「どうしてそんな方針を」
デルタとレアル、二人の声が重なっていた。二人は思わず顔を見合わせてしまう。
「この街を仕切っているお偉いさんは、また変わった奴でな。基本的には文句のつけようがないんだが、時々こういったわけのわからんことを言い出す」
そんな二人を意にも介さず、門番は答える。
「この方針も、その一端だと」
「まあ、な。最初は反対する奴もいたんだが、どうせ教会の人間なんか来やしねえだろ、ってことで決まっちまった。まさか、本当に教会の人間が来るとはな」
門番はそう吐き捨てた。
「なら、俺達は入ってもいいわけだな」
「ああ、くれぐれも余計なことはするんじゃねえぞ」
デルタがそう言うと、門番は心底面白くなさそうに答えた。
「心得ているさ」
門番の視線を受けながらも、二人は街の中に入る。
「どう思う」
しばらく歩いてから、デルタはレアル声をかけた。
「どう思うも何も、思ったより簡単に入れて拍子抜けだったかな」
「それもそうだが、この街の方針は妙というか、おかしくないか」
「うん、ちょっと……かなり、意外だったなって」
デルタの言葉に、レアルは同意するように頷いた。
「門番が言うには、この街を仕切っている奴の方針、ってことらしいが」
教会の人間であっても受け入れる。
デルタはその意図を測りかねていた。門番が言っていたように、どうせ教会の人間なんか来ないだろうから、というのは理由としては弱いとも感じていた。
「会って、話がしてみたいな」
「それは難しいんじゃないか。仕切っているってことは、実質的にここの一番上の存在だろう。一介の旅人が簡単に会えるとは思えないな」
「やっぱり、そうだよね」
レアルはどこか残念そうに、それでいて納得したように言う。
「色々考えても始まらないし、せっかく入れたんだから色々見て回ろうよ」
レアルは手を叩くと、デルタの手を引いて歩きだす。
「お、おい」
「時間は有限だよ。しっかり活用しなくちゃね」
デルタの抗議はあっさりと聞き流されるのだった。