表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/70

意外な繋がり

「埒が明かないな」


 一向に進展しない会議に、デルタは苛立っていた。こうしている間にも生徒達は危険に晒されていると思うと、余計に苛立ちが募ってくる。


「ウィベル先生、ちょっと外に出てきます」


 この場にいると気がおかしくなりそうなこともあって、デルタはウィベルにそう言った。


「外にか。まあ、お前の意見は求められていないようだから構わないが。あまり余計なことはするなよ」

「はい」


 おおよそのことを察したのか、ウィベルはあっさりと許可を出した。


「待って」


 デルタが外に出ていくのを見て、レアルはそれを追いかける。


「どうするつもりなの」

「中の様子をどうにか知ることができないか、と思ってな」

「禁術の結界は透明じゃないから、難しいと思うよ」


 レアルは結界を指さした。その言葉の通り、建物の一部を黒い膜が覆っているようで、中の様子を窺うのは難しそうだった。


「それでも、何もしないよりはましだろう」

「それはそうかもしれないけど、下手なことして、中の生徒達に危険が及ばないようにね」

「ああ、わかっている」


 レアルに言われるまでもなく、デルタはそのつもりだった。


「せめて、もう少し色が薄ければどうにかなったかもしれないな」


 窓から中を見ようとしたが、黒い膜に邪魔されて全く中の様子がわからなかった。


「これは、さっさと禁書庫とやらを解放するように言った方が早いか」


 結界に衝撃を与えずに中の様子を見ることができなさそうなので、デルタは呟いた。


「でも、禁書庫っていうからには、下手に手渡したらまずい本とかもあるんじゃないの」

「だから、さっき中身を確認させろって言ったんだが、禁書庫を解放すること自体に抵抗があるらしい」


 デルタは小さく息を吐いた。偽善と思われるかもしれないが、禁書とやらよりも生徒達の方が大切だろうと思っていた。


「あれ? もう結論は出たのかな」


 そこに、軽薄な声がかけられた。


「タスク……」


 デルタの口から、声の主の名前が漏れていた。


「そんなに怖い顔をしないで欲しいね」

「まさか、いい顔ができるとでも」

「ははは、そりゃそうか」


 デルタに睨まれても、タスクは軽薄な態度を崩さない。


「で、結論は出たのかな」

「いや、もう少しかかりそうだ。だが、お前には幾つか聞きたいことがある」


 デルタはタスクにそう言った。軽薄な態度の割には隙が無い相手だが、会話をしていれば何かしらボロを出すかもしれない、という目論見があった。


「早くしないと、中の生徒達が危ないのにねぇ。ま、僕も暇だし答えられることなら答えてもいいよ」


 デルタの目論見に気付いているのかいないのか、タスクはへらへらと応じた。


「お前達の目的については、答える気がなさそうだから聞かないでおく。まず、禁書庫の存在をどうやって知った。この学院の卒業生である俺でも知らなかったことを、部外者のお前が知りえるはずがない」

「いい質問だね。確かに、禁書庫の存在は一部教師以外は知らないみたいだけど。まあ、僕達の組織にかかれば、そういったことを知ることもわけないかな」

「組織、だと」


 どこかで聞いた言葉に、デルタはそれを復唱していた。


「まさか、僕達二人だけで行動を起こした、なんて思っていたのかな。実際に行動を起こしているのは二人だけど、下準備から始まって結構な数の人が関わっているんだけどね」


 タスクの言葉に、デルタは思わず納得していた。禁書庫の存在を調べることといい、実行するにあたり、ほぼ一期生しかいない今を選ぶことといい、これだけ大掛かりな計画をたった二人だけで行うのは無理がある。


「その組織とやらが、禁書をどうして欲する」

「この世界は歪んでいるからね。それを正しい在り方に戻す。そのために禁書が必要になる。それが僕達の組織の目的かな」


 タスクの言葉に、デルタとレアルは互いに顔を見合わせた。


 この世界は歪んでいる。


 機械の街で、テッサが口にしていた言葉。まさか、この場でそれを聞くことになるとは思いもしなかった。


「へぇ、僕達の組織について、いくらかは知ってるんだ」


 二人の反応を見て、タスクは驚いたように言う。


「機械の街を滅ぼそうとした人間も、同じことを言っていた」

「あ、あれ失敗したって聞いてたけど。まさか君達が邪魔をしたのかな。機械の街程度で失敗するなんて、随分無能な奴だと思ってたけど、そういうことだったのか」


 タスクの態度から軽薄さが消えていた。


「ってことは、ここで君達を殺せば、僕らの評価は跳ね上がる……ま、今は禁書が優先だからそれはしないけど」


 タスクは人差し指を立てると、それを小さく左右に振った。


「戯言を」


 どこまで本気なのかわからないタスクの言葉に、デルタはそう吐き捨てた。


「で、もう質問は終わりなのかな。さっきも言ったけど、答えられることなら幾らでも答えるよ。僕も暇なんだしね」


 タスクは再び軽薄な態度に戻っていた。


「お前は、どうして組織に所属している。お前の態度からして、世界は歪んでいようがいまいが、さして関係ないようにも感じるが」

「ああ、それね。君の言う通り、僕は世界が歪んでいようがいまいが、どっちでもいいんだよ。ただ、組織は僕に力をくれたからね。一応、その恩義があって従っているだけのことさ」

「組織が力を、だと。一体……」


 デルタがそう言いかけた時、結界に強い衝撃が走った。


「何だ!?」


 予想外のことに、タスクが目を見開いた。

 

「まさか、君たちが何かを……いや、あれは内部からの衝撃だった」


 タスクがそう言ったのを見計らったかのように、結界にヒビが入っていく。


「内から誰かが結界を破壊した、のか。ジネマは一体何をやっているんだ。いや、そもそもお姫様以外で上位魔術を使える生徒なんか……」


 タスクは明らかに混乱していた。

 だが、デルタは誰が上位魔術を使ったの検討は付いていた。


「くっ、とりあえず中に……」

「おっと、そうはいかせない」


 中に入ろうとするタスクをデルタは遮った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ