交渉成立
「従者?」
「そう、従者になってボクと一緒に旅をしてくれないかな」
「何故俺なんだ。巡礼の神術使いなら従者のなり手などいくらでもいるはずだ」
そこで、デルタは疑問を口にした。
「確かに、ボクが旅に出る時に従者になりたいって人はたくさんいたんだけどね。誰を選んでも問題になりそうだから、全員断っちゃった」
「断っちゃったって、まさか、ここまで一人で来たのか」
「そうだよ」
レアルは事も無げに言った。
「よく教会の上層部が許したな」
巡礼の神術使いともなれば、一人で旅をしても問題はないだろう。それでも万が一があった場合、上層部の責任問題になりかねない。
「誰か連れて行け、とは強く言われたんだけどね。巡礼の神術使いの従者なら、一人で旅をできるくらいの実力は欲しいって言ったら、あっさりと通っちゃった」
「それで俺に、か」
デルタは納得がいったように頷いた。教会の上層部にそう言ってしまった手前、最低でもそれだけの人間でないと従者にはできないだろう。
「うん、一人で旅をできるくらい強い人って、大抵どこかに仕官しているからね。だから、デルタに出会えてボクは運が良かったよ」
「違いないな」
レアルに言われて、デルタは思わず苦笑していた。
「それもあるんだけどね。もう一つはボク自身の目的のためかな」
「目的?」
「ボクは機械の街に行きたいんだ」
「正気か、確か教会は機械を禁忌としているはずだ」
レアルの言葉に、デルタは驚いてそう返していた。教会の人間が禁忌とされている機械に興味を持つだけでも異端なのに、ましてやレアルは巡礼の神術使いだ。
これが教会の人間に知れたらどれほどの騒ぎになるか。デルタでなくても簡単に想像はつく。
「そう、禁忌としているよね」
「ならわざわざどうして」
「教会が機械を禁忌としているのは、機械によって魔獣が生まれて、それで世界が壊滅したからっていうことになっているけど」
レアルはそこで言葉を切った。
「それが真実なら、機械が存在すること自体がおかしいよね」
そして、同意を求めるようにそう続ける。
「俺も詳しいことはわからないが、言われてみればそうだな」
デルタは頷いた。
デルタも魔術学院で学んでいたから、一応は機械についての知識はある。だが、レアルのように考えたことはなかった。
「だから、ボクは真実を知りたい。そのためには、まず機械のことを知る必要があるでしょ」
「だが、俺が従者になるのとどういう関係が」
レアルの目的はわかったが、デルタは自分が従者になることとの関連性を測りかねていた。
「ボクが一人で機械の街に行くと、何かと詮索されそうだからね。巡礼の神術使いってばれちゃったら、最悪入れてもらえないかもしれないし」
「だから、誰かを伴って、か」
「もちろん、ただとは言わないよ。巡礼の神術使いの従者には、お給金として毎月金貨三枚支払うことになってるから」
レアルは指を三本立てて見せる。
金貨一枚で一家四人が一か月暮らしてもお釣りがくる。というか、下手な仕官先よりもずっといい給料だった。
「ダメ、かな」
レアルは縋るような眼をしてデルタを見つめる。
「わかった、引き受ける」
デルタはそう返事をした。この話を断って仕官先を探しても、仕官できる可能性は低い。それに、レアルが機械の街に行ってどういう結論を出すのかも気になっていた。
「ありがとう。これからよろしくね、デルタ」
レアルは全身で喜びを表すと、デルタに手を差し出した。
「ああ、こちらこそよろしく、レアル……いや、従者だからレアル様と呼ぶべきか」
「そこまで堅苦しくしなくてもいいよ。従者っていっても身の回りの世話をしてもらおうってわけでもないし」
「確かに、俺にそれを求められても困るな」
「だから、ボクのこともレアルって呼んで」
「わかった、レアル」
デルタはレアルの手を取った。それは思いの外柔らかく、そして小さかった。