団体戦終了
「では皆様方、打ち合わせ通りにお願いします」
ヒルダがそう言うと、ヒルダのチームメイト達は一斉に頷いた。
ヒルダは棒の前に立ち、他三人は相手の棒に向かって魔術を放つ。
「なっ」
鮮やかな先攻に相手チームは虚を突かれたのか、放たれた魔術に対処することができなかった。
「姫様が中心になって攻めてくるんじゃないのかよ」
「それならそれで、やりようはある。気を切り替えていくぞ」
それでもすぐに気を切り替えたのか、棒を二人で守り、二人で攻めるという戦術を取った。
「姫様のチームは、姫様一人で棒を守るか。確かに合理的ではあるな。二人掛かりでも姫様一人には及ばないだろうからな」
その様子を見て、デルタはそう言った。相手チームは二人でヒルダを攻めるようだが、力の差は歴然だ。
三人がかりで攻めてようやくヒルダの守護を突破できるかどうか、といったところだろう。
「どうしたの、アンナちゃん。複雑そうな顔をして」
アンナが複雑な表情をしているのに気づいて、レアルはアンナの方に身を乗り出した。
「あ、いえ。姫様の相手チーム、わたしの組なんです」
アンナは小さく首を振ると、そう答える。
「やっぱり、自分の組には勝って欲しい?」
「どうでしょうか。わたし、落ちこぼれって散々馬鹿にされてきましたから。でも、負けてしまえと素直に思えなくて」
「アンナちゃんは、優しいね」
「そうでしょうか」
レアルに言われて、アンナの表情はますます複雑になっていた。
「レアル、あまり身を乗り出されると俺が困るんだが」
「あっ、ごめん」
デルタに指摘されて、レアルは乗り出していた体を引っ込める。
「アンナ、そんなに難しく考えなくてもいい。自分を馬鹿にしていた相手に良い感情を持たないのは当然のことだから、それを嫌悪する必要もない。それに、今のアンナはそいつらを見返してやるには十分な力が付いている」
そして、アンナに対してはそう言った。
「は、はい」
デルタの言葉に、アンナは小さく頷く。
「それに、来年以降は団体戦にも出場させられるだろうから、しっかりと見ておいた方がいい。まあ、姫様が圧倒的過ぎて参考にはならないかもしれないが」
「わかりました」
アンナは試合場に目をやった。
相変わらずヒルダのチームはヒルダ一人が棒を守り、相手チームは二手に分かれて戦っていた。
「ちっ、さすがに姫様は手強いな」
相手チームの男子生徒が舌打ちする。
「だからって……炎よ、焼き尽くせ!」
もう一人の生徒が、炎をヒルダの棒に向かって放つ。
「水よ、氷となって貫け!」
先程舌打ちした生徒もそれに続いた。
「その程度で、わたくしを突破できるとは思わないことです……風よ、吹き飛ばせ!」
ヒルダは通常魔術で二人分の魔術を打ち消していた。
「まだ終わりませんわよ……風よ、吹き飛ばせ!」
続け様、相手の棒を攻めている味方を援護するように魔術を放った。ヒルダの放った風は相手の棒に直撃した。
「あんな距離から、だと」
思わぬ位置からの奇襲に、棒を守っていた相手は驚愕する。
「姫様、昨日に比べて魔術詠唱速度が上がってないか」
それを見て、デルタはそう言った。
「一日二日で、詠唱速度なんて早くできるものなの」
「普通に考えれば無理だが……昨日のアンナとの試合で、アンナの詠唱速度に押されていたからな。そこから何かしら得るものがあったようだ」
あなたとは、切磋琢磨していきたいと思いますわ。
デルタの言葉に、アンナは昨日のヒルダの言葉を思い出していた。
「姫様、本気で言っていたんだ」
そして、そう呟く。
そうこうしているうちに、相手チームの棒が乾いた音を立てて粉々になった。
「勝負あり!」
審判が決着の合図を出した。
「終わりましたね」
それを聞いて、ヒルダは小さく息を吐いた。
アンナさんの組だと聞いていましたから、もっと苦戦するかと思っていましたが……考えられるのは、アンナさんは短期間で格段に成長を遂げた、ということでしょうか。
そんなことを考えながら、ヒルダは何気なく観客席を見渡した。
「あれは……デルタ先生とレアル様、それに、アンナさん?」
三人の姿を見つけて、ヒルダはそちらの方を凝視してしまっていた。
「気のせいでなければ、姫様、ずっとこっちを見ているような」
その視線に気付いてか、アンナはそう言った。
「ヒルダ様、何でこっち見てるんだろうね」
レアルもそれに気付いたのか、アンナに同意する。
「俺達三人が一緒にいるから、ちょっと気になったんじゃないか」
「そうでしょうか」
「まあ、悪いことをしているわけでもないし、気にすることもないだろう」
デルタはさして気にも留めずにそう言った。
「どうして、あの三人が一緒にいるのでしょうか」
ヒルダは思わずそう漏らしていた。
デルタ先生とレアル様が一緒なのは不自然ではありませんが……ああ、そういえばアンナさんはデルタ先生に師事していた、と言っていましたね。
そこで、ヒルダは納得いったというように頷く。
「姫様、どうしたんですか。次の試合の邪魔になるから、早く移動しないと」
「あ、いえ。何でもありませんわ」
チームメイトに声をかけられて、ヒルダはゆっくりと首を振った。
「意外と良いものが見れたかな」
観客の一人が、隣の観客に話しかける。
「そうだな。お姫様の一人舞台になるかと思ったが、そうでもなかったしな」
「ほら、三位になった子いたよね。実戦になったら、多分あの子が一番だね。あれだけの技術を仕込める教師がこの学院にいるってことだよ」
「ああ。それに、お姫様が上位魔術を使えるとわかったのも収穫だったな」
「どうするの。計画は予定通り実行する?」
「もちろんだ。予定に変更はない」
「そうだよね。じゃ、行きますか」
「ああ」
二人は立ち上がると、会場を後にした。