団体戦開始
個人戦が終わった翌日は、団体戦が行われる予定になっていた。
デルタはレアルと待ち合わせしていた場所に向かっていた。
「デルタ、今日はどうするの」
先に来ていたレアルは、デルタの姿を見つけるとそう聞いてきた。
「そうだな、アンナの試合があるわけじゃないし、団体戦の結果ももう見えているしな。適当に屋台でも回るか」
デルタは特に思案するでもなくそう答える。アンナの試合がないなら見る必要がないと思っていたし、団体戦はヒルダが出る以上ヒルダのチームが優勝するのは目に見えていた。
「そうだね、アンナちゃん出ないもんね。なら、今日はちょっとしたデートみたいな感じかな」
レアルは冗談半分でそんなことを言う。
「全く……まあ、たまにはそんなのも悪くはないかもな」
デルタは軽く息を吐くと、レアルの冗談に乗っかった。
「じゃ、行こっか」
レアルはさりげなくデルタの腕に自分の腕を絡ませる。
「そうだな」
デルタはその腕を振り払うことはせず、頷いた。
「あっ、先生!」
二人が屋台を見て回っていると、アンナが小走りで駆け寄ってきた。
「アンナ、今日は試合はないし休んでいても良かったんだぞ」
息を切らせているアンナを見て、デルタはそう言った。
「い、いえ。今日はお願いしたいことがあって、ずっと先生を探していたんです」
「お願い?」
思いがけない申し出に、デルタは小首をかしげる。
「はい、今日の団体戦ですけど、一緒に見て……」
そこで、アンナの言葉が止まった。視線はデルタとレアルの絡んでいる腕に向けられている。
「どうしたの、アンナちゃん」
そんなアンナに、レアルが声をかけた。
「あ、いえ。今日はお二人で何かしらの予定があったんですね」
アンナは残念そうに言う。
「いや、別にこれといって予定があるわけじゃないんだがな。ただ、やることもないから二人でぶらぶらとしていただけだ」
そんなアンナの様子に気付かず、デルタはそう言った。
「そうなんですか」
「ああ」
「それで、アンナちゃん、何かお願いがあったんじゃないの」
レアルはアンナの様子に気付いていたのか、フォローするように言った。
「あ、はい。今日の団体戦ですけど、一緒に見たいと思いまして」
「俺達と、か」
それが予想外だったこともあって、デルタは指で自分を指していた。
「はい。できれば色々と説明してもらいたいな、と」
「俺は魔術戦競技会に出たことはないからな。特に団体戦ともなれば、上手く説明できるかどうかはわからないぞ」
デルタは率直な言葉を口にする。個人戦であればある程度の説明はできるだろうが、団体戦となると経験がないことからそれが難しいと感じていた。
「それでも、構いません」
だが、アンナはきっぱりと言った。
「どうする」
デルタはレアルを見やった。
「いいんじゃない、どうせやることは特になかったわけだし」
レアルは特に渋ることもなくそう言った。
「そうか、なら一緒に団体戦を見に行こうか」
「はい、ありがとうございます」
当初の予定から一変して、団体戦を見に行くことになった。
団体戦の会場に行くと、予想よりも人混みが多かった。
「結構混んでますね」
アンナはそう口にした。
「昨日の個人戦が予想外に盛り上がったからな。それで見学者が増えたのかもしれない」
デルタはそんな予想を立てた。
「できるだけ、前の方で見たいけど。これじゃ無理そうだね」
「もっと早く来ればよかったかもしれないが、まあ仕方ない。できるだけ前の方の席を探そう」
三人は空いている席を探して歩き出す。
「あっ、あそこがいい感じに空いているね」
レアルが指さした先には、ちょうど三人分の席が空いていた。
「なら、あそこに座るか」
三人は空いている席に向かう。
「じゃ、デルタが真ん中ね」
「別に構わないが、俺が真ん中である必要があるのか」
「アンナちゃんにも、ボクにもしっかりと説明してもらわないとね」
「そういうことか」
デルタは納得して真ん中に座る。その右隣にレアルが、左隣にアンナが座った。
「まだ試合は始まらないようですね」
アンナは隣のデルタにそう言った。
「まあ個人戦と違って準備に時間はかかるだろうからな。始まる前に席につけてよかったと思うことにしよう」
デルタが試合会場に目をやると、選手たちが会場に上がるところだった。
「団体戦って、四人同士で戦うんだよね。個人戦よりも複雑そうだね」
レアルは隣のデルタに問いかける。
「まあ、な。チームの連携も重要になってくるだろうし、何より全員の属性を統一するのか、散らばしてくるのかでも大きく変わってくるだろうな」
「だろうって、断言はしないんだね」
「だから、さっきも言ったが俺は団体戦はおろか、魔術戦競技会に出たことがないからな。はっきりと断定するには経験が足りないんだよ」
デルタは小さく首を振った。
「あっ、次の試合は姫様が出るみたいですよ」
アンナはヒルダに気付いてそう声を上げた。
「ますます説明することがなさそうだな。姫様の試合なら、余程のことがない限り結果は見えているからな」
デルタがそう言うとほぼ同時に、試合開始の合図が告げられた。