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個人戦終了

「アンナちゃん、負けちゃったね」


 レアルは残念そうに言った。


「試合には負けはしたが、勝負には勝ったようなものだな。まさか、あそこまでやれるとは思っていなかった」


 対照的に、デルタはアンナを褒める。


「そうなの?」

「姫様も上位魔術は使うつもりはなかったはずだ。それを使わせた上に、通常魔術で上位魔術の障壁を打ち破った。これ以上ない戦いぶりだった」

「なら、それを直接言ってあげなきゃね」


 レアルはデルタの手を取って立ち上がる。


「これから行くのか」

「そうだよ、アンナちゃん、負けちゃって落ち込んでるだろうし」

「それもそうだな」


 少し思案してからデルタは頷くと、レアルに続いて立ち上がった。


 選手控室に行くと、アンナは俯いて座っていた。


「アンナ」


 デルタが声をかけると、アンナははっとしたように上を向く。


「先生……負けちゃいました」


 そして、消え入りそうな声でそう言った。


「……よくやったな」


 デルタはどう言葉をかけていいのか迷ったものの、飾らない言葉でアンナを労う。


「えっ? わたし、負けちゃったのに」


 褒められるとは思わなかったのか、アンナは驚いた顔でデルタを見た。


「確かに試合には負けてしまったが、恥じることはない。むしろ、誇っていい」


 デルタはゆっくりと首を振った。


「で、でも……」

「姫様は、上位魔術を使うつもりはなかったはずだ。それを使わせただけでも大したものだし、さらに上位魔術の障壁を通常魔術で打ち破った。ここまでやったのに褒めることはあっても、怒るなんてことはできないな」


 何かを口にしかけたアンナを遮るように、デルタはそう続けた。


「は、はい」


 デルタに褒められたせいか、アンナの表情が一変して明るくなった。


「あ、あの……頭、撫でてくれないんですか」


 そして、上目遣いでそんなことを口にする。


「俺がそれをやるのは意外じゃかったのか」

「はい、でも、嫌いじゃないです」

「全く」


 デルタは一息つくと、そっとアンナの頭を撫でた。


「えへへ」


 アンナはくすぐったそうにはにかんだ。


「いいなぁ、ボクも頭撫でて欲しいかも」


 二人のやり取りを見て、レアルがそんなことを言う。


「おい」

「なんて、ね」


 デルタが呆れていると、レアルは笑みを見せた。


「さすがに従者にそんなことはさせられないかな」

「冗談にしてもちょっと性質が悪いぞ」

「ごめんごめん」


 レアルは形だけの謝罪の言葉を口にする。


「全く……それに、アンナ。まだ全部の試合が終わったわけじゃないぞ。まだ三位決定戦が残っているはずだからな。しっかり勝って、姫様との試合が事実上の決勝戦だったと観客に示してこい」


 デルタはアンナの頭から手を離すと、そう言った。


「はい」


 アンナは力強く返事をする。


「よし、しっかりな」


 デルタはアンナの肩を軽く叩いた。



 結果として、三位決定戦でアンナは圧勝した。決勝戦のヒルダも一方的な試合となり、アンナとヒルダの試合が事実上の決勝戦だったことを観客に知らしめるには十分だった。


「アンナさん、何か良いことでもあったのですか」


 表彰式が終わった後で、ヒルダがアンナに声をかける。


「えっ? どうしてですか」


 思いがけないことを言われて、アンナは逆に聞き返していた。


「いえ、わたくしとの試合が終わった後は、随分と落ち込んでおられたようですが、今はとても良い表情をしていらっしゃいますから」

「そうですか」


 アンナは自分の顔に手を当てる。


「ええ」

「そうですね、先生が姫様との試合をよくやった、と褒めてくれたからだと思います」


 アンナはそう言った。

 確かにヒルダとの試合直後は落ち込んでいたが、デルタに褒められたことで立ち直れた。


「意外ですわね。デルタ先生は結構厳しそうな雰囲気がありますから、負けた試合を褒めるなんてしそうにはありませんのに」


 ヒルダは意外そうに言う。


「わたしも、そう思います。だから、褒められたことが余計に嬉しかったんです」


 アンナはヒルダに同意しつつも、そう言った。


「そうでしたか。それは良かったですね。それと、デルタ先生に対する認識を改めないといけませんわね」


 ヒルダは顎に手を当てた。


「姫様?」


 そんなヒルダを、アンナは不思議そうに見る。


「あ、いえ。そこまで深い意味はありませんわ。ただ、人を見た目や印象だけで判断するのは間違っていたな、と思いまして」


 アンナに見つめられて、ヒルダは慌てたように首を振った。


「姫様でも、そうなんですね」


 アンナからしてみれば、ヒルダが自己を反省するのが意外だった。

 自信家のようでいて、間違ったことはきちんと認めれる度量も持ち合わせている。それがヒルダという人間の根本かもしれなかった。


「当然です。わたくしとて人間ですし、まだまだ未熟な身です。今回のことも良き経験になりましたわ」


 ヒルダはそう言うと、柔らかい笑みを浮かべた。


「わたしも、もっと頑張らないといけませんね」


 ヒルダほどの魔術師が自己を高める努力を怠っていないのだから、ヒルダに劣る自分はもっと努力しなければいけない、とアンナは思った。


「アンナさん、先程も言いましたが、あなたとは切磋琢磨していきたいと思いますわ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 アンナはヒルダに頭を下げた。

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