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ヒルダの初戦

「アンナちゃん、無事に勝てたね」

「あの程度の相手なら、もっと楽に勝ってもらわないと困るな。まあ、相手の魔術を相殺する際は、棒を狙えと教えなかった俺にも非はあるが」


 喜ぶレアルと対照的に、デルタは厳しい評価をしていた。


「非があるって認めているくせに、ちょっと厳しくない」

「そうかもな。ただ、あの程度の相手に勝って満足してもらってら困るのも事実だ。アンナにはもっと上を目指してほしい」


 やや非難するようなレアルに、デルタはそう言った。


「でも、アンナちゃんって凄い才能があるんでしょ。それをデルタが手取り足取り教えたんだから、苦戦するような相手がいないように思うな」

「確かに、才能という点では一期生でも随一かもしれない。だが、俺は他の生徒をあまり見ていないからな。アンナ以上に才能がある生徒がいてもおかしくはない」


 レアルは楽観視しているようだが、デルタはそうは感じていなかった。


「あっ、次の試合はヒルダ様が出るみたいだね」


 レアルに言われて競技場の方を見ると、ヒルダと対戦相手が対峙していた。


「しかし、姫様は何が目的でこの学院に来たんだろうな。魔術を学ぶだけなら王宮にいくらでも良い教師はいるだろうに」


 デルタは何気なく疑問を口にしていた。

 この国は魔術学院があることもあって、王族は皆優れた魔術師だった。もちろん、ヒルダも例外ではないだろう。そして、その英才教育に関しては、魔術学院で学ぶよりもずっと効率的といえた。


「そうなの」

「ああ。王宮の魔術師は、それこそ魔術学院の教師よりも圧倒的に優れた魔術師と言っていい。優れた教師と言い換えてもいいか。だから、わざわざ魔術学院に通う理由がわからないな」

「ヒルダ様にはヒルダ様の考えがあるんだよ、きっと」

「それはそうだろうが、だとしても解せなくてな」


 デルタはゆっくりと首を振った。ヒルダに何かしらの考えがあったとしても、わざわざこの学院に通う理由が見いだせなかった。


 そうこうしているうちに、ヒルダの試合が始まった。


「……風よ」


 ヒルダは風を右手に宿らせると、それを相手の棒目掛けて放つ。


「……火よ」


 対戦相手もまた、火をヒルダの棒に向けて放った。

 お互いに相手の魔術と打ち合わない選択をしたのか、それぞれの魔術はそれぞれの棒に激突する。


「相手の魔術を相殺しないんだ」

「そういう戦術もある。お互いに相手よりも先に棒を破壊することを選んだようだな。だが、基礎魔力においては姫様に分があるようだ」

「えっ、今の攻防だけでわかるの」


 レアルが驚いたようにデルタを見た。


「距離が遠いからはっきりと断定はできないが、姫様の魔術の方が対戦相手の魔術よりも強いことはわかるな」


 そんなレアルに、デルタはそう応える。


「じゃ、ヒルダ様が勝つってこと」

「対戦相手の出方次第だが、ほぼ姫様の勝ちは揺るがないな」


 デルタはそう確信していた。ヒルダの基礎魔力はもちろんのこと、詠唱速度も相手より優れている。余程のことがない限り、ヒルダの勝利は間違いないだろう。


「……風よ、撃ち抜け!」

「……火よ、焼き尽くせ!」


 一見すると地味にも見える魔術の応酬が続いていた。

 互いの棒には細かいヒビが入り、壊れるのも時間の問題だった。だが、ヒルダの棒よりも相手の棒の方が明らかに損傷が大きかった。


「くっ……火よ」


 対戦相手もそれがわかっていたのか、焦りの表情が見えていた。


「……風よ」


 対照的に、ヒルダは冷静に魔術を放つ。

 詠唱速度の差もあってか、次第にヒルダの手数の方が増えてきていた。


「……風よ、撃ち抜け!」


 そして、数回の応酬の後。

 対戦相手の棒が乾いた音を立てて粉々になった。


「勝負あり!」


 それを確認した審判がそう告げる。


「さすがだな、姫様。相手も決して未熟ではなかっただろうが、それでもああも圧勝してしまうとは」

「圧勝だったの? ボクの目にはよくわからなかったけど」


 デルタの言葉に、レアルは首を傾げた。


「姫様の相手は少なくとも、アンナの相手よりは強かったからな。それを魔術の威力でも手数でも圧倒してしまったから、さすがとしか言いようがない」


 アンナの時とは打って変わって、デルタはヒルダに称賛の言葉を送っていた。


「ヒルダ様が凄いのはわかったけど、アンナちゃんの時と違って褒め過ぎじゃない」


 そんなデルタに、レアルは不満げな表情を作っていた。


「確かに、ちょっと褒め過ぎた感はあるな。自分が直接教えたからか、どうしてもアンナには厳しくなってしまうな」

「厳しくするのもいいけど、頑張ったのは認めてあげないと。アンナちゃんがかわいそうだよ」

「それはわかっているつもりだが、中々難しくてな」


 デルタはたまらず苦笑してしまう。


「そうでなくても、アンナちゃんは苦労してきてるんだよ。そんな子が頑張ってるんだから、褒めてあげないと」

「そうだな。だが、アンナと姫様なら観客を沸かせる勝負ができそうだ。一期生は二期生や三期生に比べると未熟だから、見所がないとも言われがちだが、そんなこともなさそうだな」

「そうなの。確かに、アンナちゃんとヒルダ様はいい勝負しそうだけど」

「逆に言うと、それ以外の試合は見所がないとも言えそうだな」

「そういうことは、思っていても口にしちゃ駄目だと思うよ」


 レアルに冷ややかな視線を送られて、デルタは目を逸らしていた。

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