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アンナの初戦

 魔術戦競技会の会場には、それなりに人が集まってきていた。だが、一期生の試合ということもあってか、二期生や三期生の会場に比べると、人の集まりは多くはない。

 デルタとレアルはできるだけ前の方で空いている席を探すと、そこに腰掛ける。いくら一期生の試合とはいえ、さすがに最前列は席が埋まっていた。


「さすがに最前列は無理だったか。まあ、ここからでも十分に試合は見れるな」


 デルタは会場全体をくるりと見渡した。


「できれば、もっと前の方で見たかったけど。もっと早く来ないと駄目だったね」

「最前列はたまに魔術が飛んでくることがあるからな。それに対処できる人間じゃないと着席は許されない」

「そうなの?」


 レアルが意外そうな表情になる。


「滅多にないがな。ただ、一期生はまだ未熟だからそういうことが起こらないとは言い切れないな」

「ふうん」


 デルタの説明に、レアルは納得して頷いた。


「さて、試合開始まではまだいくらか時間があるか」

「アンナちゃん、優勝できるかな」


 レアルはデルタにそう聞いた。


「基礎魔力の高さに、高速詠唱のセンス。あれだけの才能があれば優勝することもできるかもしれない」


 デルタはアンナが優勝できる可能性はかなり高いと思っていた。自分が教えたという贔屓目を抜きにしても、アンナの才能は他の生徒に比べて頭一つ抜けているといっていい。


「優勝できるといいね」

「そうだな。アンナはちょっとばかり自分に自信が持てずにいるから、優勝すればそれも解決するだろう」

「そうだね。アンナちゃん、ちょっとそういうところあるから」

「お、そろそろ始まるようだな」


 競技場に選手が並んだのを見て、デルタはそう言った。


「あ、アンナちゃんだ。初戦からなんだね」


 レアルがアンナを見つけてそう言う。


「初戦からか。緊張してなければいいんだが」


 デルタはそこが気がかりだった。アンナが緊張しやすいかどうかわからないが、それでも初戦となればかかるプレッシャーは大きい。


「ああ、そういうこともあるよね」

「こればっかりは、教えてどうにかなるものじゃないからな。本人がどうにかするしかない」

「大丈夫だよ、きっと。あれだけ練習したんだもん。緊張してても体が動いてくれるはずだよ」


 レアルはゆっくりと首を振る。


「そう、だな。今はアンナを信じて見守ろうか」


 それを受けて、デルタは頷いた。




 まさか、初戦からなんて思わなかったな。

 アンナは内心でそう呟いた。


「先生、見てくれているかな」


 アンナは観客席を見渡してデルタを探すが、さすがに人が多すぎて見つけることができなかった。


「おい、そろそろ試合を始めるぞ」

「あ、すみません」


 審判に声をかけられて、アンナは気持ちを切り替える。

 純粋な実力差で負けたならまだしも、余計な雑念のせいで負けたとなれば言い訳のしようがない。

 対戦相手は他の組の男子生徒だった。当然面識はない。ただ、自分が絶対に勝つという自信に満ち溢れているのがわかった。


「準備はいいか」

「はい」

「はい」


 審判の声に、二人はそう反応する。


「それでは、第一試合……始め!」


 審判の合図と共に、二人は魔術の詠唱を始める。


「雷よ……貫け!」


 アンナの方が早く魔術を発動させていた。相手の男子生徒が詠唱し終わる前に雷が放たれる。

 雷は相手側の棒に当たり、棒にヒビが入った。


「凍り付け!」


 相手の詠唱が終わったのはアンナの魔術が棒に当たった後のことだった。


「先生に比べれば……遅い。これなら連続詠唱を使うまでもないわ」


 アンナは続け様に雷を放つと、相手の氷を相殺する……つもりだった。

 アンナの放った雷は相手の氷を相殺するどころか、打ち消して観客席の方へと飛んで行ってしまう。


「えっ!?」


 予想外の出来事に、アンナは一瞬硬直してしまう。


「この程度の魔術など、何でもない」


 雷は最前列に飛んでいくが、最前列の観客は慣れたものでその雷をあっさりといなしてしまった。


「良かった」


 アンナは胸を撫で下ろした。自分の魔術の誤爆で怪我人が出たとなれば、とてもではないが試合どころではなくなってしまう。


「本当に観客席に飛んでいくことって、あるんだね」


 それを見てレアルはそう呟いた。


「アンナの魔力が強いとは思っていたが、まさかあそこまでだとはな。相殺を狙う場合は、相手の棒を狙えと教えておくべきだったか」


 デルタは自分の見立てが甘かったことを痛感していた。観客が怪我をするようなことはまずないとはいえ、気の小さいアンナは動揺してしまいかねない。


「おい、よそ見している余裕なんかあるのか」


 アンナが観客席の方をずっと見ていたのが気に障ったのか、相手はそんなことを口にする。


「わざわざそんなことを言ってくれるなんて、随分と余裕があるのね。その隙に一、二発くらいは叩き込めたんじゃないかしら」


 アンナは相手に向き直った。


「お前の組の生徒に聞いているぜ。落ちこぼれなのに何をとち狂ったか競技会の選手に立候補したってな。そんな奴相手に隙を付くなんてできるかよ」

「あら、わたしの魔術があなたの魔術を打ち消したのを見ていなかったのかしら」

「ふん、ちょっと手抜きしただけだ……凍り付け!」


 相手は氷を放った。

 今度は、観客席に飛ばないように、棒を狙って。


「雷よ……貫け!」


 先程の失敗を生かして、今度は棒に行くように雷を放った。

 雷は氷を打ち消すと、そのまま相手の棒に直撃した。


「何だと!?」


 相手の顔が驚愕の者へと変わった。


「これで、終わりよ」


 アンナは続け様に雷を放つ。その雷が棒に直撃すると、乾いた音を立てて棒が粉々になった。


「勝負あり!」


 それを見た審判がそう告げた。

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