魔術戦競技会開催
魔術戦競技会当日。
恒例のことだが一般公開されることもあって、ちょっとしたお祭りのような喧騒になっていた。屋台が並んでいたりすることもあって、人混みは相当なものになっている。
デルタとレアルは二人でそんな中を見て回っていた。
「凄いね、いつもこんな感じなの」
人混みでごった返していることもあり、レアルは特に取り繕った口調で話さなかった。
「俺がいた頃に比べると、規模が大きくなっているようだな。こんなに屋台が並んだり人が多かったような記憶はないな」
デルタはかつての記憶を手繰り寄せて、そう答える。
「そうなの」
「それに、俺は属性がないから代表者になれなかったからな。代表者以外の生徒は基本的に自由行動になるから、ここぞとばかりに金を稼ぎに行っていたからな」
「せっかくの行事なのに」
デルタの言葉に、レアルは苦笑していた。
「まあ、それがウィベル先生にばれてえらく怒られたんだが。いくら自由行動が許されているからといって、学業に関係ないことをするなって」
「そういうところ、厳しそうだもんね」
「仕方ないから、二期生と三期生の時は一応見学してたな。まあ、全く得るものがないわけでもなかったがな」
デルタはやれやれというように肩をすくめた。確かに見ることで得るものがないわけではないのだが、それよりも少しでも金を稼いでおきたいというのが本音だった。
「あっ、水飴売ってるんだね。ちょっと買ってくる」
レアルが指さした先には、水飴売りの屋台があった。
「巡礼の神術使いが屋台の水飴を、か」
「そういう偏見はないつもりだよ。それに、こういう機会でもないと水飴なんか食べれないからね」
レアルはそう言うと、水飴売りの屋台に歩いていく。
デルタははぐれないようにその後を追いかけた。
「おじさん、水飴をください」
「おっ、彼氏と一緒かい。それならちょっとおまけしておくよ」
レアルが声をかけると、店主は二人を恋人同士と勘違いしたのか、そんなことを言った。
「はいよ、お二人さん」
店主はデルタとレアルの二人に一本ずつ水飴を差し出した。
「ありがとう」
レアルは笑顔でそれを受け取ると、引き換えに代金を手渡した。
「ああ」
デルタは流れで水飴を受け取ったが、食べるつもりはなかったので困惑していた。
「ふふっ、恋人同士と勘違いされちゃったね」
レアルは笑みを浮かべながら、水飴を口にした。
「迷惑な話じゃないか。俺とレアルは主人と従者なのに」
対照的に、デルタは渋い表情をしていた。
「それは表向きの関係でしょ。少なくとも、ボクはそう思ってないよ」
「そうだとしても、恋人と勘違いされるのは迷惑だろう」
レアルがさして気にしていないようだったので、デルタは警告の意味も込めてそう言った。
「そう? ボクは別に構わないけど。そう勘違いしてくれた方が便利な時もありそうだし。実際、ボクが巡礼の神術使いだって気付いている人もいなさそうだしね」
だが、レアルはあっけらかんとそう言う。
「いや、そういうことじゃなくてだな」
何とか反論したかったが、デルタは上手い言葉が見つからずにいた。
「それに、そこまで気にしなくてもいいんじゃないかな。これからもこういうことが起こるかもしれないし、一々気にしてたらきりがないよ」
「レアルがそう言うなら、俺も気にはしないことにするが」
完全に納得できたわけではないが、デルタは渋々頷いた。
「食べないの? 美味しいよ」
デルタが水飴を持ったままなのを見て、レアルはそう言った。
「ああ……甘い、な」
デルタは水飴を口にする。それは思っていたよりも甘く、思わずそう口にしていた。
「美味しいでしょ」
「ああ」
正直美味しいかどうかはわからないところもあったが、デルタは頷いた。
「アンナちゃん、今日試合なんだよね」
不意に、レアルが話題を変える。
「そうだな。個人の部は今日が試合だったはず」
デルタはそう返事をした。
「もちろん、見に行くよね」
「まあ、な。さすがに見に行かないわけにはいかないだろう。あれだけお願いされてしまうとな」
デルタは絶対に見に来てくださいね、とアンナに念押しされたことを思い出していた。そうでなくても、アンナがどこまでやれるかを確認するつもりではいたが。
「そういえば、個人と団体があるって言ってたけど、どう違うの?」
レアルが疑問を口にした。
「個人は文字通り一対一での対戦だが、団体は四対四の対戦になる」
「どうして四人なの」
「魔術は四属性あるからな。各属性の使い手を揃えるとちょうど四人になる。もっとも、あえて属性を絞って特化するのも戦略としてはあるから、必ずしも各属性の使い手を揃えるのが正しい、というわけでもないが」
デルタはそう説明する。
「なるほど、戦う前から戦い始まっている、っていう感じかな」
「そうとも言えるな。そろそろ開会式が始まる頃か」
人々が開会式の会場に向かい始めているのを見て、デルタはそう言った。
「せっかくだから、開会式も見に行こうよ」
「そうだな」
二人は開会式の会場へと向かった。