思いがけない勧誘
「どうしたの? そんなにボクの顔を見て」
「あ、いや。すまない」
少女に指摘されて、デルタは自分が無遠慮に少女を見ていたことに気付く。
「こんな小娘が巡礼の神術使いだなんて言うから、驚いちゃったかな」
「ああ」
ここでごまかしても仕方ないと思い、デルタは正直に答えた。
「みんな驚くから、気にしなくていいよ」
少女は驚かれることには慣れている、という感じで言った。
「そう言ってもらえると助かるよ」
「あ、そういえばまだお互いに自己紹介してなかったね。ボクはレアル」
少女は思い出したかのように言うと、名前を名乗った。
「デルタだ」
デルタもまた、自分の名前を名乗る。
「そういえば、責任者の人に用があるって言ってたけど、どんな用なの」
「一晩泊めてもらおうと思ったんだが」
レアルの問いに、デルタはそう答えた。
「旅の人だったんだ。でも、珍しいね。宿じゃなくて教会を選ぶなんて」
「恥ずかしながら、持ち合わせが乏しくてね」
デルタは苦笑を浮かべる。
「確かに宿よりは安くすむけど、そんなにお金に困ってるの」
「訳ありでね」
デルタは曖昧に答える。
さすがに融通してもらった学費を返さないといけない、とは言えなかった。
「ということは、もしかして一人なのかな」
「一緒に旅をしてくれる物好きもそういないしな」
「一人で旅をできるってことは、相応に強い人ってことなんだよね」
何か思うところがあるのか、レアルは身を乗り出すかのようにしていた。
「もしよかったら、どうして旅をしているか聞いてもいいかな」
そして、そう続ける。
「仕官先を探しているんだが、中々うまくいかなくてね」
「でも、一人で旅をできる程度には強いんでしょ。そんな人なら引く手あまたじゃないかな」
「それを証明する手段があれば、な」
デルタもまた、レアルと同じように考えていた時期があった。一人で旅をすることで実力を証明すれば、どこかしら仕官はできるだろう、と。
だが、それを証明する手段がないことに気付くまで、そう時間はかからなかった。
「どうしてうまくいかないのか、心当たりがあったりする?」
「俺は魔術師なんだが、属性がないからな。属性のない魔術師なんて中々雇ってはくれないんだ」
「属性がないと、何か問題なの」
レアルが疑問を抱くのはもっともだった。
魔術は神術に比べると一般的にはそこまで知られている術ではない。身近な術ではない、と言い換えてもいい。
「魔術は火水雷風の四属性から成り立っているんだが、魔術師であればいずれかの属性を持っている。そして、自分の属性の魔術なら十分にその力を引き出すことができる」
デルタはそこで言葉を切った。
「だけど、俺は属性がないからどの魔術も八割程度の力しか引き出せない。要するに魔術師としては最弱なんだ。そんなのを雇ってくれる所なんか、そうそうあるものじゃない」
そして、小さく息を吐いた。
「つまり、デルタは今どこにも所属していないんだ」
「まあ、どこかに物好きがいるかもしれないから、諦めずにやってはみるさ」
デルタは自嘲気味にそう言う。
「ねえ、ボクから一つお願いがあるんだけど」
そんなデルタに、レアルはそう言った。
「お願い? 出会ったばかりの俺にか」
デルタはやや怪訝な表情を浮かべる。巡礼の神術使いが属性のない魔術師の自分に何をお願いするのだろうか。
「巡礼の神術使いの従者になる気はないかな」