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実演

「少しは慣れてきたんじゃない」

「どうだろうな。俺は教科書に書いてあることを教えているだけだし。正直、誰が教えても大差ない気がしている」


 レアルに言われて、デルタはそう答えた。

 実際のところ、教科書に書いてあることを教えているだけなので、さして難しいとは感じていなかった。無論、魔術の知識があるのとないのではかなり違ってくるだろうが。


「それなら、デルタがもっとわかりやすいように教えてみれば」

「それも考えたんだが、余計なことをして生徒を混乱させてもな、とも思ってな」


 レアルがそう勧めるが、デルタはあまり気乗りしなかった。


「勿体ないなぁ。デルタは一人で旅を続けてきたんだから、その見聞を生徒達に披露すればいいのに」

「三期生ならいいかもしれないが、俺が教えるのは一期生だからな。正直、それは持て余すと思う」

「三期生? ああ、そういうこと」


 レアルは一瞬疑問を浮かべたが、納得したように頷いた。


「さすがに臨時教師に三期生を教えさせるわけにはいかないからな。正直、一期生でも申し訳ないと思っているくらいだ」


 デルタはそう言った。 

 魔術学院は一期生、二期生、三期生と分かれており、一期生は基礎的なことを学び、二期生になると上位魔術などの応用的なことを学ぶ。三期生は実戦的なことを学び、実際に魔獣と戦ったりすることもある。

 また各期生は四つの組に分かれていて、一つの組に二十人程度が所属していた。

 デルタが担当しているのは一期生なので、学科の方も基礎的なことを教えていた。もう少し踏み込んでもいいのかもしれないが、あまり余計なことをすると生徒達も付いていけなくなるかもしれなかった。


「でも、ただ教科書通りに説明してるだけってのも、何か違う気がするよ。デルタは実力がある魔術師なんだから、もう少し考えたらどうかな」

「……まあ、考えておくよ。そろそろ、次の授業に行くか」


 そこで、デルタとレアルは次の授業へと向かった。


「火の魔術は一般的に扱いやすいとされているが、燃え広がりやすいという特性もある。だから、少しでも気を抜くと思いもよらぬ所に飛び火することが起こる」


 今日の授業内容は火の魔術についてだった。デルタは教科書を片手に火の魔術についての説明をする。

 アンナに魔術を使わせる前に、火の魔術について簡単に説明しておくべきだったかな。

 授業の傍らで、デルタはそんなことを思っていた。

 今日はアンナやヒルダが所属している組ではない組の授業だった。


「だから、火の魔術を使う際は……」


 教科書通りに説明をしようとして、一瞬言葉が止まった。このまま教科書通りに説明するよりも、実際に見せた方が分かりやすいような気がしたからだ。


「火の魔術を使う際は、こうして……炎よ、灯れ」


 デルタは自分の指先に小さな炎を灯らせた。

 学科の授業で魔術の実演をされると思わなかったのか、生徒達が少し騒めいた。


「火を自分の体の一部と思って、魔力を通すこと。また、消す際にも魔力循環の応用で魔力を火から自分の体に移すこと。まあ、これは全ての魔術に通ずるところでもあるが」


 デルタは指先の炎をすっと消した。

 生徒達は大きく頷く者や、その過程をずっと見つめる者など様々だった。


「特に火はその特性上、暴走しやすい魔術でもある。扱いやすいことには違いないが、決して甘く見ないように」


 そこで、デルタは教室全体を見渡した。


「慣れればこんな感じで……炎よ、渦を巻け」


 デルタは炎を渦状にすると、自分の体に巻き付ける。一歩間違えれば自分の体を焼きかねないそれを見て、生徒達がどよめいた。


「ここまでやる必要もないかもしれないが、こんなこともできる、という参考にしてもらえればいい」


 デルタの体に巻き付いていた炎が消えた。


「さて、余計なことをしてしまったな。授業を再開しよう……ん? もうそんな時間か。では、今日の授業はここまでとする」


 そこで、終業を告げる鐘が鳴り響いた。


「起立、礼」


 今日の当番らしき生徒が声をかけると、生徒達は一斉に立ち上がった。


「ありがとうございました」


 そして、一斉にそう言った。

 その声を背に受けて、デルタとレアルは教室を後にする。


「デルタ、やればできるじゃん」

 

 教室を出て、レアルがそう囁いた。


「やればできるって……まあ、教科書通りに説明するよりは、実際に見せた方が分かりやすいと思ったからな」


 デルタは苦笑しつつもそう答える。

 レアルに言われたから、ということもあるが、実際にそう思ったからやってみた。それだけのことだった。


「そういうのが、大事だと思うな」

「そういうものかな」


 デルタは首を傾げた。正直なところ、今回の授業が正しかったのかどうかわからずにいた。


「そういうことだよ。デルタは何かにつけてボクの方が教師に向いている、っていうけど、それはデルタが良い教師になろうとしてないから、そう思うだけだよ」


 レアルはそう力説する。


「あくまで俺は臨時教師だからな。良い教師を目指しても仕方ない気もするが」

「だから、それが駄目なんだって。臨時でも何でも、教壇に立つんだから、良い教師を目指さなきゃ」

「そうか……そうだな。少なくとも、生徒達が俺に教わって良かった、と思えるようにはならないとな」


 いつまでここで教えるかはわからないが、それでもできる限りはやろう。

 デルタは決意を新たにした。

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