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魔力の矯正

「魔力循環の矯正、ですか」


 聞きなれない言葉に、アンナは困惑した表情を見せた。


「何、そんなに難しいことじゃない。アンナは魔力が強すぎるから、魔力の循環が上手くいっていない。それを上手くいくようにするだけだ」


 そんなアンナに、デルタは諭すように言う。


「わたしが……そんなことって」

「まあ、論より証拠だな」


 デルタは両手をすっと前に出した。


「俺の魔力の流れ、分かるな」


 デルタは右手から左手へと、自分の魔力を循環させた。


「凄いです……こんなに淀みなく魔力を循環させられるなんて」


 アンナは感嘆の言葉を漏らしていた。


「それが分かるなら、話は早い」


 デルタは魔力の循環を止める。


「もう一回、魔力を循環させてみろ、ただし」


 デルタはアンナの両手を取った。


「えっ」

「俺が補助をする。アンナの強すぎる魔力が暴走しないように」


 アンナは戸惑いながらも、魔力を循環させる。


「やっぱり……上手くいきませんね」


 そして、落胆の溜息を漏らした。


「だから、俺がこうやって……」


 デルタはアンナの魔力を調整するために、自分の魔力を少しだけ流し込んだ。アンナの魔力が予想外に強く、少々手こずってしまう。


「俺の魔力が流れ込んでいるのが、わかるな」

「はい」

「よし、もう一回やってみろ」

「はい」


 アンナはあまり期待しないようにしつつも、魔力を循環させた。


「えっ!?」


 そして、驚きの声を上げる。今まで上手くいかなかった魔力の循環が、ぎこちないながらもできていた。


「どうして……今まで、全然上手くいかなかったのに」

「俺の魔力が、アンナの魔力を少しだけ抑え込んでいるからな。強すぎる魔力を抑えてやることで、魔力の循環をやりやすくした」


 驚くアンナに、デルタはそう説明した。


「それだけで、ですか」

「全く、さっきは学院の生徒の質が落ちたと言ったが、生徒だけでなく教師の質も落ちているようだな。こんなことにすら気付かないなんて、才能ある生徒がそれを生かせずに潰れるところだった」


 そこで、デルタは呆れたように溜息をついた。まさか自分が卒業してからこんなことになっているとは思いもしなかった。


「でも、デルタはどうして気付けたの?」


 そんなデルタに、レアルが疑問を口にした。


「俺も、そうだったからな。幸い、俺の場合はウィベル先生がすぐに矯正してくれたから、アンナのようなことにはならなかった」


 デルタはアンナの手を放すと、そう答えた。


「だから、ウィベル先生に頭が上がらないんだね」

「まあ、それだけじゃないんだが。しかし、ウィベル先生が現場を離れたのは結構大きいな。ウィベル先生なら、アンナのことにもすぐに気付けただろうし」

「えっ、ウィベル先生は教壇に立たないの」


 レアルは意外そうに言う。


「主任になったらしいからな。そうなると、教壇に立つことはなくなる。確かに、いつまでも同じ人が教壇に立つのは、後進が育たたないという問題もあるが。それにしても、もう少しまともな教師を増やしてからの方が良かったな」


 デルタは難しい顔をする。ウィベルに何かしらの意見をするべきかもしれない、とも思っていた。


「うーん、難しいところだね。後進の教育って、生徒を教えるよりも難しいと思うよ」

「だからといって、何もしないわけにもいかないだろう」

「そのために、ウィベル先生が主任? になったんじゃないかな」

「かもしれないな」


 レアルに言われて、デルタは思わず頷いていた。


「あの、お二人はどういった関係なんですか」


 そんな二人のやり取りを見て、アンナがそう聞いてきた。


「ん? 巡礼の神術使いと、その従者だが」


 その問いに、デルタはそう答えた。


「先生は従者なんですよね。それにしては、態度が普通というか」


 アンナの疑問はもっともで、普通主人と従者といえばもっと上下がはっきりしているものだ。だが、デルタとレアルのやり取りはそれを感じさせるものではなかった。


「ああ、レアルがそれでいいって言うから」

「うん、あくまで立場はそうかもしれないけど、主従関係っていうのが肌に合わないんだよね。だから、ボク達はあくまで対等な関係かな」


 レアルはそこでアンナに対して優しく微笑んだ。


「よく言うな。今回ここに来ることになったのは、レアルが主従関係を盾にしたからだろう」

「そこは譲れないっていうか、ボクの旅だからね。行き先の決定権はボクにあるよ」

「それは否定できないがな」


 デルタはやれやれ、というように肩をすくめた。

 

「お二人は、素敵な関係ですね」


 アンナはどこか羨ましげにそう言った。


「うん、ボクもそう思っているよ。ありがとね」


 レアルは自慢げに胸を張った。


「やれやれ、だな。ところでアンナ、授業が終わってからどこかに行くとか、何かしら予定があったりするのか」


 デルタは思い出したようにアンナに問いかけた。


「いえ、特にはありませんけど」

「矯正には時間がかかるからな。しばらくの間、授業が終わってから俺の所に通うように、いいな」


 その返事を聞いて、デルタはそう言った。アンナの魔力が予想外に強かったこともあって、一日二日では矯正が終わりそうになかったからだ。


「はい、お願いします」


 アンナは深々と頭を下げた。

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