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落ちこぼれ

「くそっ、いくら教師でも、属性のない魔術師にあそこまでやられるかよ」

「全くよぉ、何だってんだよ、あの教師は」


 その日の放課後、デルタに二人掛かりで挑んで返り討ちに合った二人組がそうこぼしていた。


「何が“俺は基礎魔力の向上訓練を一日たりとも怠ったことはない”だよ。そんな程度で魔術が上達すれば苦労しねえよ」


 そんな二人の近くを、一人の女生徒が通りかかった。


「おい、落ちこぼれ」


 そう声をかけられて、女生徒はビクッとして動きを止める。


「俺達がいいようにやられて、いい気味だとでも思ってるんだろ」

「べ、別にそんなことはないよ」


 因縁をつけられて、女生徒はおどおどしながらもそう答えた。


「どうだかな。日頃から馬鹿にしている俺達のことを良く思ってないんじゃねえのか」

「まあ、お前みたいな落ちこぼれが俺達に意見するなんて十年は早い」


 そう言い詰められて、少女は下を向いて俯いた。


「何をしている」


 たまたま通りかかったデルタは、その様子を見て声をかける。


「……何でもありませんよ」

「ええ、何でもありません」


 二人は小さく舌打ちすると、そそくさとその場を去っていった。


「何があった」


 一人残された女生徒に、デルタはできるだけ優しく声をかける。


「あっ……その」


 女生徒はどう答えていいのかわからないのか、そう口ごもった。


「デルタ、ここで話を聞くのではなくて、あなたの部屋で話を聞いた方がいいでしょう。ここでは人目もありますし」


 そんな女生徒を見かねて、レアルが助け舟を出す。軽く周囲を見渡すと、こちらに生徒達の注目が集まっていた。


「それもそうだな。何か用事があるなら無理にとは言わないが、どうする」

「は、はい、お願いします」

「なら、俺に付いてきてくれ」


 女生徒が何とか返事をしたのを確認すると、デルタは付いてくるように促した。



「で、何があったんだ」


 デルタがあてがわれている部屋の中で、女生徒にそう問いかける。


「あっ……その……」


 場所を変えても女生徒はうまく言葉にできないようだった。


「デルタ、こういう時はまず名前を聞くところから始めるものではありませんか」

「……レアルの方が、余程教師に向いている気がするな」


 レアルに指摘されて、デルタは素直な感想を漏らしていた。


「おだてても何も出ませんよ。それに、今この学院の教師なのはあなたですから」

「そうだな。すまないが、名前を教えてくれないか」

「は、はい。アンナと言います」


 デルタが名前を聞くと、女生徒はそう答えた。


「なら、アンナ。何があったか話してくれるかな」

「えっと……その……」


 アンナはうまく言葉にできないのか、また口ごもってしまう。


「こういう時は、お茶でも飲んで気持ちを落ち着けましょう。デルタ、わたくしがお茶を入れてきますわ」

「ああ、頼む……っていうか、お湯準備するのは俺じゃないか」


 この部屋にお湯を沸かすような器具は揃っていない。必然的に、デルタが魔術を使ってお湯を準備しなくてはならなかった。


「なら、一緒に来てください」


 レアルに言われて、デルタは立ち上がった。


「すまないが、少し待っていてくれ」

「は、はい」



「どう思う」


 魔術でお湯を作りながら、デルタはレアルにそう聞いた。


「どう思うも何も、大体の見当はついているんじゃないの」


 デルタが用意したお湯と茶葉をティーポットに入れながら、レアルは答える。


「俺の予想通りなら、随分と学院の生徒の質も落ちたもんだな。俺がいた頃は自分の魔術を磨くことに必死で、他人のことに構っているような生徒は稀だった。まあ、だからこそ属性のない俺も何とかやってこれたんだが」

「そうなの。でも、今はそうじゃないみたいだし、現にこうして問題が起こっているよね」


 レアルはティーカップにお茶を注ぎながらそう言った。


「じゃ、これはボクが持っていくね」

「ああ、頼む。後、アンナの前で素を出すなよ」


 お茶の準備が終わって、二人はアンナの元に戻っていく。


「待たせたな」

「どうぞ、熱いから気を付けてくださいね」


 レアルからカップを受け取って、アンナはゆっくりと口を付ける。


「……おいしい」


 そして、そう漏らした。


「少しは落ち着いたか」

「あっ、はい」

「なら、何があったか話してくれるか」

「……私、落ちこぼれなんです。この学院に入ったはいいですけど、今までまともに魔術を使えなくて。だから、ああやってよく馬鹿にされて」


 アンナはたどたどしい口調ながらも、そう言った。


「学院の入学試験は通っているんだろう。魔術がまともに使えないなんてことは……」


 デルタはそこで思案する。魔術学院にも入学試験はあり、一定の魔力を持たない人間は軒並み落とされてしまう。そこを通っているということは、全く魔術が使えないというのはあり得ない話だった。


「はい、だから、みんな裏口で入学したんじゃないか、って。わたしにそんなお金もつてもないのに」


 そこでアンナは小さく唇を噛んだ。


「属性は?」


 自分と同じで属性がないのかと思い、デルタはそう聞いた。


「あっ……雷です」


 だが、アンナはきちんと属性を持っていた。


「雷か、よりにもよって厄介な属性だな」


 デルタは顎に手を当てる。雷属性は威力こそあるものの、使いこなすのが難しい。魔術の初心者が使うには適さないとされていた。


「でも、他の属性も全くダメなんです」

「そうなると、考えられるのは……ちょっと、基礎魔術の向上訓練をやってみろ」


 思い当たる節があって、デルタはそう言った。


「えっ、は、はい」


 アンナは戸惑いながらもデルタの指示に従った。


「思った通りか。魔力の循環が上手くいっていない」


 アンナの魔力が上手く循環していないのを見て、デルタは頷いた。


「ど、どういうことです」

「魔力が強すぎる魔術師にはよくあることだが、強すぎるが故に魔力を制御できない。だから……レアル、時間がかかるから先に帰っていてくれ」


 これからの作業は少々時間がかることもあって、デルタはレアルにそう言った。


「デルタ先生の個人授業、見逃す手はないと思うんだけどな」

「おい」


 素が出ているレアルを窘めたが、遅かったようだ。アンナが驚いた表情になっていた。


「ああ、これがレアルの素っていうか、本性だったりするんだが、さすがに驚いたか」

「ごめんね、みんなには内緒にしていてくれる?」

「は、はい。それに、誰も信じないと思いますから」


 レアルに言われて、アンナはそう答えた。


「話がまとまったところで、魔力循環の矯正をするか」

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