決着
「複数の魔術を同時に!?」
テッサが驚いた表情になる。
「属性がない魔術師が、どうして巡礼の神術使いの従者になれたのか、疑問に感じなかったのか」
「なるほど、そういうことですか。ですが、それだけで勝てるとは思わないことですね」
テッサも右手に炎を宿らせた。
「焼き尽くせ!」
「燃え尽きろ!」
二人が放った炎がぶつかり合う。
互いの炎が喰らい合い、それが消えるまでにはさほど時間はかからなかった。
「切り裂け!」
炎が消えたタイミングを見計らって、デルタは風の刃を放つ。
「くっ」
テッサは次の詠唱が間に合わなかったのか、それをどうにかかわす。
「氷弾!」
デルタはその隙を見逃さず、続け様に氷の塊を放った。
「相殺しろ!」
テッサは炎で氷の塊を相殺する。
「雷よ、貫け!」
デルタが放った電撃を、テッサはもろに受けた。
「?」
それがあまりに無防備だったので、デルタは疑念を抱いていた。
次の瞬間、テッサが無防備に電撃を喰らった理由が理解できた。
「禁術か」
自分の体が自由を失ったことに気付いて、デルタはそう呟いた。
「先程のあなたの戦術、そのまま使わせてもらいましたよ」
電撃をまともに受けてもなお、テッサは余裕があるようだった。
「まさか、魔術勝負で遅れを取ることになるとは思いませんでしたよ。属性がないというのも虚偽なのかもしれませんね」
「さて、それはどうかな」
体の自由を封じられて、デルタは次の策を思案していた。魔術を使うこと自体は問題なくできるが、今までのように続け様に放つのは難しい。
「その状態では一度に放てる魔術はせいぜい一回が限度。これで勝負はありましたね」
テッサは右手に炎を宿らせる。先程からの魔術の使用割合から、炎属性であることがうかがえた。もっとも、属性のないデルタにしてみれば相手がどの属性であろうとあまり意味はなさなかった。
それよりも、今はこの状況をどう打破するかだ。
「燃え尽きろ!」
「焼き尽くせ!」
テッサが放った炎を、デルタはどうにか相殺する。
「妙ですね……私は自分の属性を使っているのに、属性のない魔術師の魔術に相殺されるとは」
テッサは怪訝な表情を作っていた。
属性がないというのが虚偽だとしても、自分の属性である炎魔術が相殺されるということに納得がいかなかった。考えられるのは、デルタも炎属性だということだ。
「属性がなくても、基礎魔力の向上如何ではどうにかなる。俺は魔術師になって以来、基礎魔術の向上訓練を欠かしたことはない」
デルタは毅然とした態度でそう答えた。属性がなくてもどうにか魔術師として評価されたい。その思いからできることは全てやってきた、という自負もあった。
「あなたの言うことが全て事実なら、私はあなたよりも数段劣る魔術師、ということになりますね。認めたくはありませんが」
その言葉を受けて、テッサは渋い表情を作っていた。
「なら、私は禁術使いとしてあなたと対峙しましょう」
だが、すぐに取り直すとそう宣言する。
「禁術使いとして対峙するのなら、俺は魔術師としてお前を止める」
「その状況でできるものなら、やってもらいましょうか」
「切り裂け!」
禁術をまともに使わせる時間を与えないために、デルタはテッサに先んじて風の刃を放った。
「打ち消せ」
だが、風の刃はテッサの目の前で何事もなかったかのように消えさった。
「反魔術の禁術か」
「これで、あなたの魔術は全て通じません」
「だが、上位魔術は防げないはず」
「そんな隙を、私が与えるとでも」
テッサが右手を上げると、デルタの右腕が自分の意思とは関係なくあらぬ方向へとねじ曲がった。
「その激痛の中、上位魔術を詠唱できるものならやってもらいましょう」
「そう簡単に、やられるか……焼き尽くせ!」
デルタは激痛に耐えつつも、炎を放った。
やはり、先程と同じようにテッサの目の前で消え去ってしまう。
「無駄ですよ」
今度は左腕があらぬ方向へとねじ曲がる。
「ぐっ」
これにはたまらずにデルタは悲鳴を上げていた。
「デルタ!!」
思わずレアルがそう叫んだ。この状況をどうにかしたくても、先程の禁術解除と傷の回復でほとんど力を使い切っている。
「だ、大丈夫だ。レアルがせっかく状況を良くしてくれたんだ。そう簡単には諦めない」
それを受けて、デルタはどうにかそう言った。
「強がりを」
テッサがそう吐き捨てると、更にデルタの腕がねじ曲がる。これ以上ねじ曲がったら、骨が折れてしまいそうなほどになっていた。
「雷よ、稲妻となって貫け!」
「無駄だと言って……何!?」
デルタが放った稲妻が、テッサが作った障壁を貫いていた。
稲妻をまともに受けて、たまらずテッサはその場に崩れ落ちた。
同時にデルタにかかっていた術が解けたのか、あらぬ方向へとねじ曲がっていた両腕が元に戻る。
「ば、馬鹿な……あの状況、あの短時間で上位魔術を詠唱できるはずが」
「俺は複数の魔術を同時に詠唱できる。そして、それは上位魔術であっても変わらない」
デルタは大きく息を吐くと、その場に片膝をついた。
体の自由が戻ったとはいえ、折れる寸前までねじ曲がっていた腕から痛みはなくならない。
「そんな芸当が……本当に、魔術師としては規格外にもほどがあります」
テッサは自分の敗北を認めて、そう呟いた。