黒幕登場
「テッサ、君は何を言っているんだ」
「言葉通りですよ。小鬼では役不足だから、代わりに彼らを使うことにした、と」
信じられないという表情をするラバンに、テッサは淡々と答えた。
「まさか、身内に禁術使いがいたとは予想できなかったな」
デルタは肩口を押さえつつ舌打ちする。傷はそれほど深くはないとはいえ、魔術を使うのにはそれなりに支障が出そうだった。
「一体、何が目的でこんなことを」
「機械が発展しすぎると困るんですよ、色々とね」
「どういうことだ」
「それを説明する義務はありません」
「教会の関係者が、あなたに依頼したの?」
レアルが二人に割って入った。
「教会? そんな古い組織と我々には何の関係もありませんよ」
「我々、ということは、お前の背後に何らかの組織が関係しているということか」
テッサの言葉から、デルタはそう推測した。
「少々、お喋りが過ぎましたね。まあ、知り過ぎたところでここで終わるのですから関係ありませんか」
テッサが右手を上げると、操られた男達がデルタを取り囲んだ。
「君は最初からそのつもりで、この街に来たというのか」
「まあ、そうなりますね。正直、ここまでこの街が発展するとは思ってもいませんでしたが。あなたの手腕は大したものですよ、ラバン」
「くっ」
ラバンは小さく唇を噛んだ。
「魔術師と神術使いがいてもなお、全滅したとなればやはり機械は禁忌だった、そう勘違いしてこの街も終わるでしょう。まずは一番厄介なあなたからやらせてもらいますよ」
「デルタ君、彼らのことはいいからまず自分の身を守ることだけを考えるんだ!」
ラバンはそう叫んでいた。
「そうしたいところだが、下手に殺しても死者を操るような禁術もある。一番いいのは術者そのものをやることだが」
デルタはテッサを見やった。
男達に囲まれていることを差し引いても、この距離から魔術で仕留めるのは無理がありそうだった。
「さすがに属性がないとはいえ魔術師。禁術に関しては知識があるようですね。だが、この状況はどうにもできませんでしょう。やりなさい」
テッサが指を鳴らすと、男達が一斉に銃を撃った。
「風よ、巻き起これ」
デルタは自分を中心にして風を起こした。
風が障壁となって銃弾を弾き返す。
「ほう、それなりにはやるようですね。ですが、その傷ではいつまで持ちますかね」
それでも優位に立っていると感じているのか、テッサは顔色一つ変えなかった。
「甘く見てもらっては困るな。これでもそれなりにはやれるつもりだ」
デルタは強がっては見せたものの、状況的には不利だということを実感していた。肩の傷がなくてもこの状況を打破するのはかなり難しい。
「さて、その強がりがいつまで続くか見物ですね」
「そう簡単に行くと思わないことだな」
デルタは一か八か、次の銃撃に合わせてテッサを狙ってみることにした。このまま守っていてもジリ貧になるのは目に見えている。
問題は銃撃のタイミングがわからないことだが、テッサがこちらを甘く見ているのなら、また指を鳴らしてくる可能性があった。
「では、見せてもらいましょうか」
テッサが再び指を鳴らした。
「焼き尽くせ!」
デルタは銃弾をまともにくらいつつも、テッサ目掛けて炎を放った。
「術者本人をやろうというのは悪くない考えです。ですが、甘いですね」
テッサの右手に炎が宿っていた。
「なっ」
デルタはテッサ自身が魔術を使う可能性を失念していた。
「相殺しなさい」
テッサが放った炎が、デルタの放った炎とぶつかり合う。
それらが互いに喰らい合い、消滅するまでにさして時間はかからなかった。
「お前自身も魔術師だったか」
デルタは全身に銃弾を受けて、立っているのもやっとの状態だった。
「禁術使いとはいえ、それ以外に何もできないと考えるのは早計というものでしょう。もっとも、あの状況では他に策もなかったでしょうが」
「どうやら、お前の方が一枚上手だったようだな」
デルタは立っていられなくなり、片膝をついた。
「手負いの獣をいたぶる趣味はありません。これで終わらせましょう」
テッサが右手を上げると、男達の銃口がデルタに向けられた。
「主神よ、我にかの者達の呪縛を解く力を与えたまえ!」
その言葉と同時に、男達が一人、一人と糸が切れた人形のように倒れていく。
「何!?」
これにはさすがにテッサも表情を変えた。
「かの者の傷を癒したまえ」
続け様、レアルはデルタの傷を回復させる。
「ごめん、デルタ。一度に全員の術を解く必要があったから、時間がかかっちゃった」
「馬鹿な、こんな小娘がここまで高位の術を使いこなすとは」
テッサは目の前の状況が信じられない、というように呟く。
「一度に高位の術を使ったから、ちょっと疲れちゃった。後は任せるね」
レアルは力を使い切ったのか、その場に崩れるようにして座り込んだ。
「ここまでお膳立てしてもらって負けたとあっては、従者として顔向けできないな」
「従者、ですか。そういうことですか」
デルタの言葉に、テッサは納得いったように舌打ちする。
「よもや巡礼の神術使いまでもがこの街に来ていたとは。計算外にもほどがあります」
「さて、仕切り直しだ。巡礼の神術使いの従者として、主人の頑張りには報いないとな」
「属性のない魔術師が、私に勝てるとなどとは思い上がらないことです」
「思い上がりかどうか、試してみるか」
デルタは右手に炎、左手に風を宿らせた。