小鬼の群れとの戦い
「準備の方できました」
テッサと共に、十数人の銃を持った集団が到着した。
「小鬼とはいえ、数が多いからね。各々油断はしないように」
「了解です」
ラバンの言葉に、各自が返事をする。
「それから……」
ラバンはそこでデルタを見た。禁術について話すべきかどうか迷っているようだった。
それを受けて、デルタは小さく首を振った。
「いや、なんでもない。全員無事に帰れるように」
ラバンがそう言うと、その場の全員が大きく頷いた。
「禁術使いはあくまで可能性の話だ。余計なことを言って現場を混乱させたくはない」
デルタはラバンの耳元で囁く。
「君は本当に深く物事を考えるね」
「買い被り過ぎだ。それに、銃だと禁術使いに対処するのは難しいからな」
「そうか。なら禁術使いについては任せるよ」
「ああ」
ラバンにそう言われて、デルタは頷いた。
「内緒話は終わりましたか」
そんな二人のやり取りを、テッサが怪訝そうに見ていた。
「ああ、すまないね。内緒話ってほどのこともないけど」
「なら、早く行きましょう。私としても、小鬼の群れがのさばっているのは看過できませんので」
「わかった、皆、出撃だ」
ラバンの号令で、一同は小鬼の群れめがけて進撃を開始した。
「さて、そろそろ奴らもこちらに気付く頃合いかな。皆、わかっているとは思うけど、十分に気を引き締めてね」
ラバンの言葉に、一同は互いを見やって頷き合う。下手に声を出して相手を刺激しないようにしているあたり、訓練が行き届いているともいえた。
「禁術使いの気配はなさそうだな」
デルタは周囲を警戒するが、禁術使いらしき気配は見つからなかった。
そうこうしているうちに、小鬼の一匹がこちらに気付いて小さく声を上げた。
「気付かれたか、先に仕掛けよう。各自の判断で狙って打て」
その言葉を皮切りに、破裂音が響き渡った。
小鬼の数体が次々に倒れていく。
小鬼の群れは突然倒れた仲間に、何が起こったのかわからないのか困惑していた。
「いい感じだね。このままやらせては……くれないか」
それでもすぐに敵意をこちらに向けた小鬼達に、ラバンは小さく舌打ちする。
小鬼達は奇声を上げながらこちらに襲い掛かってきた。
「禁術使いが関わっているなら、あなたを狙ってくる可能性がある。それを留意してくれ」
デルタの言う通りに、小鬼達はラバンを狙って襲い掛かってくる。
「こいつら、どうして旦那を狙ってくるんだ」
「くそ、旦那に近づけるな」
次々に銃撃が放たれるも、小鬼達は中々にその動きを止めなかった。
「さすがに、僕も黙ってやられるわけにはいかないからね」
ラバンは懐から小さな機械を取り出した。
それを一匹の小鬼に向けると、人差し指を動かした。
小さな破裂音が響いて、小鬼が悲鳴を上げて倒れる。
「それも銃か」
「まあね。僕のは護身用だから、懐に入る程度の大きさだね。その分、威力も控えめになっているけど、急所にさえ当てればご覧の通りさ」
デルタの問いに、ラバンはそう答えた。
「何を呑気な。まだ終わっていませんよ」
自身も銃を撃ちながら、テッサが警告する。
「わかっているよ。皆、僕のことは気にせずに、一匹ずつ、確実に仕留めるんだ」
小鬼達か、それとも禁術使いかはわからないが、ラバンを狙ってもらちが明かないと判断したのか、周囲の人間達に狙いを変えていた。
「この、倒れろ」
「いい加減にしやがれ」
銃の音と小鬼の奇声が交差していく。
「ぐわぁ」
「こ、この野郎」
距離を詰められると銃では対処できないこともあって、こちら側も徐々に被害が出始めてきた。
「さすがに無傷でいくとは思ってなかったけど。ちょっと被害が大きすぎる」
ラバンは唇を噛み締める。
「大丈夫、後でボクが治療するから」
「本当は、君に頼りたくはなかったんだけどね」
レアルがそう言うと、ラバンは苦笑していた。
「気にしなくていいよ。色々としてもらったお礼だから」
レアルは首を振って笑顔を見せる。
「そう言ってくれると、助かるよ。くっ」
ラバンは自身に襲い掛かってきた小鬼をどうにかかわすと、続け様に銃を撃った。
「旦那」
「だから、僕のことより目の前の敵を」
こちらも被害を出していたが、小鬼の数もかなり減ってきていた。
「これで、終わりだ」
最後の一匹に銃撃が叩き込まれる。
小鬼は悲鳴を上げて倒れこんだ。
「終わった、ようだね」
ラバンは大きく息を吐いた。小鬼にやられて怪我をした者は多いものの、死者が出ていないことに安堵もしていた。
「どうやら、禁術使いは姿を現さないようだな」
デルタは周囲を見渡したが、それらしき気配はなかった。
「それならそれで……?」
銃の音が響くと同時に、自分の肩に焼けるような痛みが走ってデルタは顔をしかめる。肩口を見やると、赤く染まっていた。
「何をやっているんだ!」
自分の部下がデルタを撃ったことに気付いて、ラバンは大声を上げた。
だが、撃った本人にその言葉は届いていなかった。それどころか、その目は虚ろで生気がなくなっている。
「さすがに、小鬼共では役不足でしたね。ですので彼らを操らせてもらいました」