禁術使い
「とりあえず、様子を見に行ってみようか。案内してくれるね。あと、テッサも呼んできてくれないか」
「はい」
「了解です」
ラバンがそう言うと、発掘をしていた男の一人が走っていった。
「俺も行こう」
「君もかい。てっきり、この街のことはこの街の人間が解決するべきだ、って言うかと思ったけど」
ラバンは少し驚いたようにデルタを見た。
「ちょっと気になることがある。俺の気のせいですめば、それでいいんだが」
「わかった」
「なら、ボクも行くよ。デルタが言う気になることっていうのが気になるし」
門番に案内されて三人が街の入り口に向かうと、テッサが既にいた。
「ラバン、厄介なことになりましたね」
状況はよくないが、テッサは冷静さを保っているようだった。
「これは数が多いね。少なくとも、40はいる」
街を取り囲むように群れを成す小鬼を見て、ラバンはそう言う。
「妙だな」
そんな二人をよそに、デルタは呟いた。
「妙って、何が」
「小鬼は魔獣の中でもそれなりに知能がある。だが、あれだけの数を揃えて何もしてこないというのは、どこか引っかかる」
レアルの問いかけに、デルタはそう答える。
「言われてみれば、何かをしてくるような感じはないね」
小鬼の群れは街を取り囲んではいるが、何かを仕掛けてくるような様子は見られなかった。
「禁術使いが関わっている可能性がある」
「禁術って、あの禁術?」
「ああ」
「ちょっと待ってくれ。禁術って何なんだ」
ラバンが二人の会話に割って入った。
「禁術は魔術師や神術使いの間で、文字通り禁止されている術だ。相手の精神を操って、自分の思い通りにさせるような術もある。高度な術になると、直接相手の息の根を止めるような術もあるようだが」
デルタは簡単に禁術の説明をする。
禁止されていることもあって、禁術に関してはわからないことも多い。ただ、現状から禁術が使われている可能性は予想できた。
「それで、あの小鬼の群れを操っていると」
「そう考えるのが自然だな。それに、この前襲ってきた三つ首も操られていた可能性が高い」
「あの三つ首もかい」
「三つ首は戦闘能力は高いが、知能はそれほどでもない。にもかかわらず、街中に入ってきてもまるで様子を見るかのように大人しくしていた」
「そういえば、三つ首クラスが侵入した割に被害が少ないって思ったよ」
ラバンは納得したように頷いた。
「そして、あなたが配下を連れて来た途端に暴れだした。まるで、それを待っていたかのように」
「だから、誰かが操っていると。でも、誰が何のために」
「この街、というよりは機械を疎ましく思っている連中はそれなりにいるだろう。禁術使いまで出張ってくるとは思わなかったが」
「確かに、機械を疎ましく思っている人は多いかもしれない。でも、魔獣を使ってまで潰しに来るなんて」
「禁術で魔獣を操るなんて話は聞いたことがないが、それでも理論上は可能なはずだ。あれだけの数を操るとなると、相応の使い手だと見た方がいい」
「禁術使いが関わっているのはわかりましたが、どうするんです」
それまで黙って聞いていたテッサが口を開いた。
「いずれにしても、放置はできないな。こちらから打って出よう。テッサ、準備を任せていいかな」
ラバンは少し考えてから、そう返事をする。
「わかりました。小鬼の群れですから大砲は必要ありませんね。銃撃隊を編成しましょう」
「頼むよ」
「はい」
テッサは準備をするために街中に戻っていった。
「俺も出ようと思うが、構わないな」
デルタはそう言った。
小鬼の群れだけなら、自分が出る幕はない。だが、禁術使いが関わってきているのなら話は別だった。魔術師として放置できない相手だからだ。
「小鬼はこちらで対処するから、禁術使いの対処は任せるよ」
「一応、ボクも一緒に行くよ。出番はないと思うけど」
レアルもまた、デルタと同様に禁術使いを放置できないと感じていた。
「二人とも、助かるよ。ありがとう」