機械の発掘現場
「今日は発掘に付き合ってもらおうと思うんだけど」
二人が機械の街を訪れてしばらく経ったある日、ラバンはそう二人に言った。
「発掘? そんなこともしてたのか」
「この街の機械は、全部自前で作っているわけじゃないからね。発掘したものをそのまま使うこともあるし」
「あの空を飛ぶ機械もか」
空を飛ぶ機械は発掘された物にしては綺麗だったこともあって、デルタはそう聞いた。
「あれは古文書を頼りに僕が復元したものだよ」
「復元って、簡単に言ってくれるが相当大変だったんじゃないか」
ラバンが事もなげに言うので、デルタは思わずそう返していた。
「まあね。古文書は昔の技術で作る前提で書いてあるから、今の技術で復元するのは中々に骨が折れる作業だったよ」
「それでも実際に飛ばしてみせたあたり、大したものだと思うが」
「ありがとう」
デルタの称賛を受けて、ラバンは笑みを浮かべた。
「二人とも、話が逸れてるよ」
「ああ、すまない。発掘と言ったが、具体的には何をすればいい」
レアルに指摘されて、デルタは逸れた話を元に戻す。
「そんなに難しいことじゃないよ。ただ、発掘の様子を見学してくれればいい」
「見学だけでいいのか」
「結構繊細な物もあるからね。素人が適当にやると壊しかねないから。それに、迂闊に触ると危険な物もあるからね」
「それもそうか」
デルタは納得したように頷いた。素人が無理に手伝っても足を引っ張るだけだ。
「旦那、今日はどういった用で」
三人が発掘現場に向かうと、既に作業をしていた男が声をかけてきた。
「この二人に発掘の様子を見てもらおうと思ってね」
「そりゃ構いませんが」
ラバンの言葉に、男は怪訝そうな表情を見せた。
「ああ、本当に見てもらうだけだから。気にせずに作業を続けてくれないかな」
「旦那がそう言うなら」
完全に納得したようではなかったが、男は作業に戻っていった。
「それで、この現場を俺達に見せた目的は」
「特に理由はないよ。ただ、君達の目的の手助けの一環にならないかな、って思ったんだ」
デルタの問いに、ラバンはそう答えた。
「どういうこと?」
今度はレアルがそう尋ねた。
「機械が実際に発掘されるところを見てもらえば、何かしらのヒントを得られるかなって」
「旦那、面白い物が見つかりましたよ」
そうこうしているうちに、一人の男が三人の元に近づいてくる。その両手には何かしらの機械があった。
「どれどれ、見せてもらってもいいかな」
「もちろんです」
ラバンは男から機械を受け取ると、それを見定めるように回転させる。
「これは、見たことがない機械だね。近くに古文書が埋まっていればいいんだけど」
「古文書ですか。ざっと見た感じ、それらしき物は見当たりませんでしたが」
「もう少し、探してみてくれないかな」
「わかりました」
男は頷くと、再び発掘現場へと戻っていった。
「何の機械なのか、わからないのか」
「そうだね。そんな機械も数多く見つかるよ。使い方がわからずに、倉庫で埃を被っている物も結構あるんだ」
「古文書がどうこう言っていたけど、それに使い方が書いてあったりするの?」
「そうだね。もっとも、近くで見つかったからといってもその機械に関係したものとは限らないから、よく調べる必要はあるけど」
二人の質問に、ラバンは丁寧に答えていく。
「機械も色々とあるんだね」
「そうだな」
「? なんか、騒がしくなってない」
「言われてみれば」
レアルの指摘通り、妙に騒がしくなっていた。
「何か問題でも起こったのかな。でも、そんなに問題になるようなことが、早々起こるとも思えないし」
ラバンは首を傾げる。
「大変です!!」
息せき切って駆けてきたのは、門番の男だった。
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
「小鬼の群れが、この街を取り囲んでいます」
小鬼は子供くらいの体躯で単体ではさしたる脅威でもない。だが、魔獣の中でも知能がある方で群れを成すのが最大の特徴といえた。
ある程度の実力者であろうとも、数に押されて殺されてしまうことも珍しくなかった。
「何だって!? すまないね、二人とも。僕はこれから対策を立てないといけないから」