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空を飛ぶ機械

「機械で空を飛べるのか」


 デルタは半信半疑でそう言った。それが事実なら、この世界の在り方すら大きく変わってしまいかねない。


「まだ試作段階だけどね。理論上は飛べるはずだよ」

「理論上は、ってことはまだ試していないのか」

「ちょうどいい機会だから、これから試してみるとしようか」


 ラバンはそう言うと立ち上がった。


「物が物だからね、格納庫の方にあるよ」


 三人が格納庫に行くと、テッサが何かしらの作業をしていた。


「おや、こんな所に何の用ですか」


 テッサは三人に気付くと、そう言った。嫌悪感や敵対心こそ抱いていないようだが、それでも歓迎はされていないようだった。


「空を飛ぶ機械を試してみようと思うんだけど」

「あれを試すのですか!?」


 ラバンに言われて、テッサは驚いた声を上げる。


「ちょうどいい機会だからね。二人にも見てもらおうと思ってね」

「よりにもよって、神術使いに見せなくても」


 テッサはレアルに視線をやった。


「神術使いだからこそ、見てもらおうと思ったんだけど」

「本気で言っている……んですよね」

「もちろん、本気だよ」

「あなたは言い出したら聞きませんからね。ただし、私も立ち会わせてもらいますよ」


 テッサは諦めたように息を吐いた。


「いつも無理を聞いてもらって、ありがたいと思っているよ」

「そう思うなら、もう少し自重してもらいたものですが」


 ラバンとテッサは言い合いながらも、何かしらの機械の前に立った。十字の形の機械だということはわかるが、それ以上のことはわからない。


「さて、まずはこれを外に出さないとね」


 二人は機械の両端に寄り掛かると、ゆっくりと押し出した。見た目からしてかなり重そうな機械だったが、車輪がついているせいかスムーズに動き出す。


「そういえば、デルタ君」

「何か」


 不意に声をかけられて、デルタは反射的にラバンの方を見る。


「レアル君がこの街に来た目的は聞いていたけど、君が来た目的は聞いていなかったね。まさか、何の目的もなしに来たわけじゃないだろう」

「ああ、そう……だな」


 たまたまレアルに出会ってこの街に来ただけで、これといった目的はない。かといって本当のことも話せずに、デルタは言いよどんでいた。


「俺は属性がない魔術師だからな。中々仕官できなくて困っていたんだ。この街なら何かしら仕事にありつけるかと思っていたんだが、魔術師は必要なさそうだな」


 それでも何も言わないと怪しまれると思い、適当な理由をでっち上げた。


「属性がない?」


 意外なことに、それに反応したのはテッサの方だった。


「魔術師は誰しもが属性を持っている。その属性の魔術は十分に使いこなせる、といった方が早いか。だが、俺は属性がないから八割程度しか使いこなせない」


 それが少し気にはなったが、デルタはとりあえず話を進めた。


「それで、この街に来たと」

「ああ」

「残念だけど、魔術師としては仕事がないと思うよ」


 ラバンは申し訳なさそうに言った。


「機械が思ったよりも万能だったからな。まあ、どこか他の所で仕事を探してみるさ」


 デルタは自嘲気味という風を装って首を振った。

 今はレアルの――巡礼の神術使いの従者をしているから、しばらくはその必要もないけどな、と心の中で付け加える。


「この辺りでいいかな」


 ラバンは開けた場所で足を止める。


「危ないから、ちょっと離れていてくれないかな」


 ラバンは機械に乗り込むと、何らかの操作を始める。機械の先端に付いていた小さな細長い棒が回転を始めた。


「いい調子だ。ちゃんと飛べそうだね」


 機械が滑走を始める。

 そして、それが徐々に浮き始めた。


「本当に、飛ぶのか」


 デルタは驚きを隠せなかった。


「凄い……」


 レアルも同様だ。


 そして、それは空を飛んでいた。時間にしてはほんの少し、数分にも満たない時間ではあったが、確かにそれは空を飛んだ。


「やったね! また一つ機械の有能さを証明できたよ!!」


 ラバンは着地するなり、興奮して機械から飛び降りた。


「おめでとう。まさか本当に飛ぶとは思いませんでしたよ」


 テッサはラバンを出迎えると、手を差し出した。


「ありがとう」

 

 ラバンは差し出された手を強く握る。


「本当に、魔術でも神術でもできないことを、機械が成し遂げたのか」


 デルタは目の前で起こっていた光景が、いまだ信じられずにいた。


「凄いね、デルタ。空、空飛んだよ!」


 だが、隣ではしゃぐレアルを見て、それが真実だったと思い知る。


「どうだったかな、二人とも」


 ラバンが得意げな表情でそう言った。


「ああ、凄い物を見せてもらった」

「うん」

「今はまだ人一人が乗れる程度の物だけど、もっと大きくてたくさんの人や荷物を載せられる物を作りたいと思っているんだ。そうすれば、物資の運搬を魔獣の脅威なしで誰にでもできるようになるからね」

「そんなことを考えていたのか」


 一人で旅をするのが危険と言われているのは、魔獣が闊歩しているからに他ならない。生半可な実力では、魔獣に殺されてしまうのが落ちだからだ。

 それ故に、隊商も腕利きの護衛を何人も雇ってどうにか街を行き来しているのが現状だ。

 もしラバンの言う通りの物が出来上がったなら、確かに魔獣に怯えることなく物資を運搬することができる。


「僕が生きている間には無理かもしれないけどね。それでも、できることはやっておきたいんだ」

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