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剣の訓練

ビアンカとフロウラが来てから半年ほどが経った。

ようやく二人がここでの生活に慣れてきたかな?って頃に、今度はアオイ姉さんが王国の学校に入るため、王都に旅立った。


「今日もわたしの一日が始まる!」


日課の素振りの後、井戸の脇での水浴びを終えたわたしは、声に出してそう言うと、魔法で髪を乾かしながら、オンボロ小屋に向かう。

小屋にたどり着く頃には、すっかり髪は乾いているから、魔法ってのは、本当に便利。

王都に向かうまでの間に、アオイ姉さんに特訓してもらった甲斐があったってもんだ。


―― いーい。サボらず、魔法の練習をするのよ!


見送りの際にアオイ姉さんから言われた言葉が頭をよぎる。

毎朝髪を乾かす事一つ取っても、アオイ姉さんに言われた通りに練習してきて良かったと思う。


「ハナ姉!ごはん、出来てる?」

「出来ているわよお、ムラサキちゃん。ほらあ」


ホワホワ頭のハナ姉がピンクな声で……じゃなかった、ピンク頭のハナ姉がホワホワな声で、広間にご飯を持ってきてくれた。


「ビアンカとフロウラはもう訓練場に行っているわよ。ムラサキちゃんも、食べたらすぐにいらっしゃい?」

「ふーん。わかった」


広間を出て行こうとするハナ姉の後ろ姿に、そう返事をした。

どれどれ……今日は、おさかなか。


わたしは手早く食事を終えると、オンボロ小屋のそばにある訓練場にいく。訓練場と言っても、地面を平にしてあったり、何本か丸太を杭打ちしてるだけのさっぱりしたものだけど。


訓練場ではビアンカとフロウラがへばって、お尻を地面につけている。まだ、そんなに経っていないけど、お昼まで持つのかな?


「いらっしゃいムラサキちゃん。じゃあ、二人は休憩ね?」


二人とも歳はわたしより1つ上なんだけど、やっぱりまだ慣れていないから、きつそうだね。

お互い肩を貸し合いながら、適当に置いてある丸太椅子の方まで下がって行った。同い年なのか、二人は仲が良いよね。

こっそりとごちそうをあげたりとか色々してるんだけど、わたしとは、まだちょっと打ち解けきれていない気がする。


「次、ムラサキちゃんね。はいな、木剣」


ハナ姉から木剣を受け取ると、わたしはすぐさまハナ姉に打ちかかった。準備は既に出来ているもの。それが、ここでのルール。不意打ちを受ける方が悪いのだ。

それに、やらなかったら、どうせハナ姉のほうから来てただろうし、先手を渡したくもない。


「防がれると分っていてもね、手を抜いちゃあ、だめよお」


ハナ姉への打ち込みは軽く横に逸らされる。勢いそのまま横に流れると自然とハナ姉との距離が詰まる。わたしは体を反転させつつ踏み込んで、更に距離を詰めた。

この距離では剣は邪魔になる。

剣から片手から離すと、勢いのまま肘打ちをハナ姉の脇腹のあばらのあたりに入れようとしたけど、ハナ姉の裏拳がわたしの顔を狙っている気がした。

慌てて姿勢を低くして地面を転がり、すぐさま起き上がると、ハナ姉の剣が振り下ろされる。迫る剣に対して、これを正面で受け止める。

ハナ姉の一撃がすごく重い。


「距離を詰めるのはいいけど、その先の一撃は体術じゃあダメよお。何かとっておきを用意しなさいなあ。そのあとは、まあまあねえ。じゃあ、こういうのはどうかしら?」


ハナ姉がブンブンと木剣を振り回してきた。さっきの一撃での痺れがまだ手に残っているので、わたしは距離を取ろうとしたけど、ハナ姉が闇雲にブンブンと木剣を振り回して近づいてくる。


「そのまま、わたくしの疲れを待ってもいいけど。そうできない場合、ムラサキちゃんはどうするのかしら?」


そのくらいじゃハナ姉は疲れない。

多分、ずっとこのままだと、逃げ回っているだけのわたしの方が疲れちゃう。

じゃあ、剣を受ける?一撃で痺れたのに、何度も無理。あの速さじゃ避けるのも無理。


「ほうら、考えている。今考えたらダメでしょ?考えておくことは必要だけど、それを今やっちゃ、ダメなの。いつも言っていることよねえ?」


むやみに向かっていっても、一瞬でやられる。

それでも一か八か、突っ込んでみようか?


「考えなしの攻撃もダメよお」


ハナ姉がわたしの考えを先回りしてくる。普段はホワホワなのに、こういう時は妙に鋭い。


結局、何も出来ないまま、一方的に追いかけ回され続けて、わたしがへばった所で一旦、終了。

ビアンカやフロウラみたいに、わたしも地面に座り込んでしまった。


「ただの力技なだけなのよお。でも、これをゴリ押しし続けられると、どうにもならないわよねえ。これをどうにかするのが、これからのムラサキちゃんの課題ね。人にしても、魔物にしても、こんな強引なやり方で来たりすることって、結構多いのよお」


すでにギルドに登録して働きにも出ているハナ姉のことだ。実際にそういう事とかあったのかな?


「それにね。まだ、どうしよう?って、考えているわよ。癖なのかしらねえ?」


ハナ姉はそういうけどさ。

でも、相手がどう切り込んでくるかとか…どこに打ち込もうとか…、考えない?


「ムラサキちゃんは、おさかな食べる時に、どう食器を使おうとか、どこから取ろうとか、なんていちいち考えているの?どれから食べようか?なら分るけど」


そう言われると、そうだけどさ。多分、どの部分からも考えずに、「おさかな」「食べる」としか考えてないかも。だとすると、ハナ姉の言うことはもっともなのかも。


「ハナ姉は剣を振り回しているときって、何も考えていないの?」


無ってやつだろうか?


「そんなことないわよお。さっきムラサキちゃんのことを追いかけ回していた時は、アオイちゃんは元気でやっているかしら?とか、今日のお昼はビアンカちゃんの当番だけど、大丈夫かしら?とか、そんな事を考えていたりしていたわよお」


ビアンカはまだへばってるみたいだけど、大丈夫かな?


「じゃあ、そうねえ。ムラサキちゃんは魔法のことでも考えながら、剣を振ってみたらどう?」

「魔法のこと?」

「そうよお。何でもいいから詠唱しながら剣を振ってみなさいな。魔法の発動にはイメージが大切でしょう?ちゃんと発動出来たら、考えずに剣を振れているって事になるわあ。うん、思いつきだけど、割といい考えかも?」


それって難しくない?


「ムラサキちゃんは、ちょっと休憩ね。ビアンカ~、フロウラ~、もう休んだでしょお。訓練の続きをやるわよお」


ハナ姉は出来るのかな?

たぶん出来るんだろうなあ、ハナ姉だもの。

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